第39話 新しいデザイン

「こんな感じかな」


「いいんじゃない?今までにないデザインね。杖自体はしっかりと出来てるわよ。魔力も詰まってる」


 森の自宅でエルム材から杖を作っているリンド。横にはミーがケット・シーの姿で立ってリンドの作業を見ている。


 リンドの前には杖が、そしてその隣にはハミルトンで買ってきたデザインの本がページを開いた状態で置かれていた。


 リンドはそのデザインを杖の頭の部分に再現していたところだ。魔法で削って出来上がった杖を手に持ってその仕上がりを見ていたリンド。ミーからOKが出たので杖の表面を綺麗にしてから樹液に浸して最後の仕上げをしていく。


「悪くないわよ、うん、いい杖になったわね」


 製品に仕上がった杖を見てミーが言う。


「そうだね。自分でも良い仕上がりになったと思うよ。じゃあこのデザインでいくつか作っておこう」


 辺境領のハミルトンから戻ってきたらいつもの日常も戻ってきた。鍛錬をし野菜や果物を収穫し、そうして鍛錬の一環で杖を作る。


 判で押したような生活だがリンドは全く苦痛に感じていない。スローライフ、マイペースの生活、彼にとっては理想の生活だからだ。


 リンドは鍛錬の合間をぬって家の増築に手をつける。ハミルトンで買った建築の本を参考にして少しずつ倒木を集めては今の離れの続きにもう一棟の客用の寝室を作り今までの離れの寝室と新しい寝室との間には談話室を作ることにした。


「大きな離れになるわね」


 建築の本を見て自分のアイデアを紙に書いているところを見たケット・シーのミー。リンドは開いている本のページをミーに見せて、


「これを見ると格好いいだろう?寝室だけじゃなくて打ち合わせができる部屋もあった方がいいんじゃないかと思ってさ。まぁのんびりと作るよ。土地は余っているし材料の倒木もたくさんある。木を削ったり運んだりするのも魔法の鍛錬になるしね」


 期限がある訳でもない。リンドは自分のペースで生活をしていた。スキルが上がった杖ではなく以前使っていた杖を持って森の奥でランクSを相手に精霊魔法を撃って鍛錬をし、川向こうで野生動物を倒したり川魚を取ったり、畑や果樹の面倒を見る。


 ハミルトンに行く前と変わらない日々を送っているリンド。そして杖が貯まるとミディーノの街に出向いてトムの武器屋に杖を売り、ギルドに顔を出してクエストをこなしてはまだ森の奥に戻っていく。


 冒険者になる前に憧れていたマイペースのスローライフを実践しているリンドだった。

 

 今日もミディーノの街に顔をだすとギルドで魔石を渡してAランクのクエストをこなした後に新しいデザインの杖をミディーノのトムの武器屋に持ち込むとそれをじっくりと見たトム。


「いい感じじゃないかよ。杖自体の性能は変わってない。そしてこの上のデザインは複数ある。買う方にしてみたら選択肢が増えるよな。それにしてもいつもいい仕事しやがるぜ」


 そう言って杖の代金を渡すと、


「しばらくは家にいるのかい?」


「そうだね。ハミルトンにから戻ってきたばかりだし、当分遠出の予定はないね」


「わかった。じゃあまた杖が貯まったら持ち込んでくれ」


 トムの店を出たリンドは肩にミーを乗せてミディーノの市内歩いて日用品の補充をして森の中にある自宅に戻っていった。


 鍛錬の合間に少しずつやっていた家の増築、本を片手に魔法で木を浮かせたり削ったりしながらの作業だが期限があるわけでもないとリンドはマイペースで進めている。


(魔法のコントロールはもう私から教えることがないほど完璧にできてるわね。リンドの魔法の扱いは既にランクSクラス以上になってるわね)


 リンドの作業を見ているミーは内心で感心しながらリンドを見ている。風魔法で削った柱や壁が寸分の狂いもなく綺麗にはまっていく様は見ていて気持ちが良いほどだ。


 当人はそんなことは知らずに魔法で削った板や柱がうまく嵌ると満足気な表情になる。


「今回もうまくいったぞ」


 1人で森の奥で暮らしていて、最低限しか街やギルドに顔をださない。しかも他の冒険者をほとんど知らない中、冒険者の中での自分の立ち位置については全く理解していなかった。いや、理解する必要がなかった。1人暮らしでマイペースで生活することが彼の目標だったからだ。


 今の生活にリンドは何の不満も持っていない。好きなことをして生きている。使い道がそう多くないお金も余る程持っている。冒険者のランクもAまで上がってこれ以上の高望みはしていない。


「いい感じね」


 リンドの仕事を見ていたミーが声をかけた。


「そうだね。この前増築した時よりも寸法合わせがしっくりきているよ」


「それはリンドの魔法のコントロールがその時よりも上達しているってことよ」


「なるほど。そりゃ嬉しいな。ここだと全てが鍛錬になるからありがたいよ」


 自分の魔法のレベルを全く気にしないリンド。自宅周辺の魔獣を倒せてこうやって作りたいものをうまく作れるだけで十分だと思っている。


 建物の外側が完成した。外から見ると新しい棟も従来の家と綺麗につながっていて違和感がないほどだ。元々広い土地だ。そこに同じログハウス風の大きな平屋の家が建っている。元々あった客室用の棟と増築した部分との間に玄関も作り、そこから出入りできる様にした。


 外が完成すると次は部屋の中の仕上げに入る。板を綺麗に風魔法で削ってドアを作り窓枠にはミディーノで買ってきたガラスをはめ、ベッドやテーブルは自宅周辺の板や木から作っていった。


「できたぞ」


「見事ね。しっかりした造りになっているし、部屋も広くて綺麗よ」


 全てが完成してミーと一緒に外から、そして中をチェックする。従来の平屋建てのリンドの家がさらに広がっていた。従来の部屋と増築部分の間には談話室を作って椅子とテーブルを置き、そして新しく増築した部分は広めの部屋を2部屋つくった。これで客室が合計4部屋になる。各部屋にはベッドを3つ置き部屋にも椅子やテーブルを置いてどの部屋でもくつろげる様に仕上げたリンド。山の奥に平屋の大きなログハウスが建っていた。


「師匠のミーに褒められるのが一番うれしいよ」


「これでまたリンドのスキルが上がったんじゃない?」


「そうだといいな」


 家を増築した後、リンドは畑や果樹園も広げるとそこに種や苗木を植えていった。

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