第40話 増築しました

 家の増築が終わるとリンドはいつもの生活に戻った。魔法の鍛錬の一環で作った杖が溜まるとアイテムボックスに杖を入れてミディーノの街に出向いていく。


「新しいデザインの杖が好評でな。今までは杖があるとすぐに手をとって買っていたのがいくつか手に持って気に入ったデザインを選ぶ様になっているんだよ。今日のを見るとまたデザインが増えている。買う方ににとっちゃあデザインで悩めるだけ楽しみが増えるだろうよ」


 武器屋のトムがリンドに金貨を払いながら言った。


「どっちにしてもよ。お前さんが持ち込んでくる杖は右から左に売れていく。引き続き頼むよ」


 代金を受け取ったリンドはギルドに顔を出してAランクのクエストとして魔石をカウンターに置いてクエストを終え代金を受け取ると今度はAランクのパーティであるキースらの一軒家に足を向けた。ミーは猫の姿でリンドの左肩の上に乗っている。


「こんにちは」


「おおっ、いらっしゃい」


 扉を開けて案内を乞うと中からすぐに男の声がした。戦士のコリーだ。杖を持つ仕草をして


「トムの武器屋かい?」


「そうそう。今納品が終わってギルドに顔を出してたんだよ」


 いらっしゃいと声がして上からメンバーが降りてきた。その中にはリーダーのキースもいる。


「クリスティは買い物に出てる。まぁ上がってくれよ」


 リンドが上がってソファに座るとジェシカがジュースを持って来てくれた。ミーはリンドの足元でゴロゴロとしている。


「ちょうどよかったよ。明日からリンドの森に行こうって話をしてたところなんだよ。クリスティはそれに備えて矢を買いに行ってるところさ」


「そうなんだ。じゃあ俺と一緒に戻る?」


 リンドが言うとそりゃいいなと頷く他のメンバー。


「家を増築してね。部屋数を増やしたんだ」


 その言葉におおっというメンバー


「今までの2部屋に更に2部屋作ったんだ。そしてその2部屋と2部屋との間に打ち合わせが出来る部屋も作った。これで誰かの寝室で打ち合わせをするって必要がなくなったと思うんだよ」


「それを聞いたら尚更行かなくっちゃな」


 そう言ったキースが他のメンバーに準備はできてるのかいと聞く。全員がいつでも行けると返事をするとリンドに顔を向けて


「クリスティが帰ってきてから出発しよう。リンドと一緒なら夜でも関係ないしな。それで構わないかい?」


「大丈夫だよ」


 リンドが言うと用意ができるまでここでのんびりしてくれよといい彼らは荷物を作るために一旦各自の部屋に戻っていった。


「彼ら、また強くなってるわ。Sランクも近いわよ」


 周囲に人がいなくなると足元からリンドのお腹の上に飛び乗ってきたミーが言う。


「やっぱり。俺もなんか雰囲気が違ったなと思ってたんだよ」


「真面目に鍛錬しているのが分かるわ」


 その言葉にそうだよなと頷くリンド。


「俺も真面目に鍛錬したらもうちょっとは強く慣れるんだろうか」


「なれるわよ」


 ミーはそう言いながらももうリンドは十分に強いわよ。それに毎日の鍛錬も一才手を抜かないし、実力的には十分にSクラスよと思っていた。


「あら、いらっしゃい」


 扉が開いてクリスティが外から帰ってきた。リンドがキースらと話をした事を彼女に伝えると


「そうなんだ。じゃあ私も準備してこなくっちゃ」


 そう言って階段を上がっていくクリスティ。階段の上から今から行くぞという声が聞こえてくる。ソファに座って待っているとしばらくしてメンバー全員が上から降りてきた。皆冒険者の格好をしている。手ぶらなのは魔法袋に必要な物を入れているのだろう。


「ミディーノで買い物は?」


「大丈夫」


「じゃあ行こうか」


 キースとリンドを先頭に自宅の一軒家を出た一行。キースだけがギルドに寄ってリンドは他の4人と一緒に城門から外に出た。しばらく歩いていると背後からキースが走ってきてリンドらに追いつくと、


「ギルマスに一言言ってきたから大丈夫だ」


 6人は街道から脇道にそれてしばらく歩いて行き森の入り口に入るころには陽が大きく傾いていた。


「リンドってさ。いつもトムの武器屋に杖を下ろした後家に帰るのはこんな時間なんだろう?」


「そうだよ。だいたい森に入る前か入った頃に日が沈んでるね」


 森の中に入るとリンドを先頭にして縦に1列になって進んでいく。後ろのキースの言葉に答えながらも歩くペースを落とさないリンド。昼間と全く同じスピードで暗くなった森の中を歩いていき、時々杖を突き出しては前方にいるランクBクラスの魔獣を倒していく。後ろを歩いている5人のメンバーはリンドの腕前を知っているのでもう何も言わずリンドと同じペースで暗い森の中を歩いていった。


 一晩中森を歩いて明け方にリンドの家が見えた時には全員がおおっと声を上げる。朝の靄の中に増築された大きな平屋の家が建っている。


「こりゃまた広くなってるじゃないの」


「凄いね、これリンド1人で増築したんでしょ?」


 結界を越えると全員の緊張が解けてそうして外から増築された部分を見ながら各自が思った事を口にする。


「木を切ったり地面に突き刺したり、そして屋根や壁に木や板を貼る。全てが魔法の鍛錬になるからね。さぁどうぞ」


 新しい入り口に案内するとまた驚きの声を出すメンバー。その玄関から入るとすぐに大きなスペースになっていてそこで打ち合わせが出来る様にテーブルや椅子が置かれている。そしてそこから左右に分かれてそれぞれ2部屋が並んでいる。


「どこを使ってくれても構わないから。どの部屋にもベッドが3つあるから好きに使って」


 キースらは仲間で話をして女性は1人1部屋。キースが1部屋、そしてコリーとショーンで1部屋使うことにした。


「こりゃ長期逗留ができるじゃないか」


「全くだ。1ヶ月でも2ヶ月でも住みながら鍛錬できるぞ」


 荷物を置いて中央にある打ち合わせの場所に集まった5人が話をする。


「部屋の壁や床を見たけどどこも隙間なくきっちりとはまっている。ここまで精密に削って合わせられるってことはリンド、また魔法のスキルが上がってるぞ」


 ショーンが言うとジェシカも


「本当にそう。私は無理なレベルね。それに後でリンドに聞いてみようと思ってるんだけど仕上げもすごく綺麗なの。これを風魔法でやってるとしたら相当な技術よ」

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