第35話 自分の杖が売られていました。
しばらくして落ち着いてきたのかジャックがゆっくりと立ち上がるとリンドを見て礼を言う。
「助かったよ。それにしても精霊魔法と回復魔法が使えるんだな。ジョブは何なんだい?」
「賢者だよ」
「賢者か」
聞くとこのパーティは戦士のジャックがリーダーで同じ戦士のリード、そして精霊士のアンナと僧侶のメイの4人組のパーティらしい。ここからそう遠くないナウラという街所属の冒険者で最近ランクBに昇格したということだ。
「俺はリンド。ミディーノ所属の賢者でランクはA。ソロで活動している」
「ランクAか、通りで強いはずだよ。俺達は幼馴染でね。ナウラの街で育って一緒に冒険者になったんだ」
リードの言葉にそうなんだと相槌を打つリンド。
「森でランクBを相手に金策とスキル上げしようとしてたらリンクして、リンドが助けてくれなかったらやばかったよ、ありがとう」
ようやく女性2人も落ち着いてきた様だ。立ち上がるとリンドに礼をいう。
「それにしても流石にランクAだな。精霊魔法1発で一撃だもんな」
ジャックがそう言ってから
「ハミルトンを目指してるのかい?」
と聞いてきた。リンドは頷くと
「そう。今までずっとミディーノの街中心だったからね。たまには違う街に出向いてみようと思って移動してたところ」
「その猫と一緒に?」
肩に乗っているミーを見ながらアンナが言う。
「そうなんだよ。ミーって言うんだ。俺の相棒」
そう言うとリンドの肩の上でミーがにゃーと一声鳴いた。
全員がある程度回復するとナウラの街に向かって歩き出す4人とリンド。日も暮れてきていたので今日はナウラに泊まっていったらというアドバイスを聞いたリンドはそうしようと彼らと一緒に森から街道に戻って1時間ちょっと歩いていると街道沿いにナウラの街の城壁が見えてきた。
彼らの話ではこのナウラは辺境領に入った最初の街で、ここから辺境領最大の都市であるハミルトンまでは小さな村や宿場町しかない。なので冒険者や商人のほとんどがこの街で物資や食料の補給をしてハミルトンに向かっているらしい。
またハミルトン方面からやってきた時もこのナウラで同じ様に物資や食料の補給をするのでそれなりに人の往来が多く賑やかな街だという。
ナウラの城門を潜ったところで立ち止まると、
「俺達はこのままギルドに顔を出すんだがリンドはどうする?」
「俺はいいかな。今回は純粋に旅行目的だし」
「そうか。じゃあ宿はさっき言った宿に行けばいいよ。世話になった。ありがとう」
ジャックが言うと他のメンバーも助けてくれてありがとう、良い旅を。などと言ってギルドがあるであろう街の中に消えていった。
「いい人達だったわね」
リンドの肩に乗っているミーが言う。
「そうだね。素直できちんとお礼が言える。大したものだよ」
そうやってランクに関係なく相手を褒めることができるのもリンドの良いところよと思いながらミーはリンドの言葉を聞いていた。
ミーが知っている人間の多くは地位やランクが上の者は無意識に自分より下の者に対して上から目線の態度に出る。当人はそのつもりがなくてもふとした時の仕草や言葉でそれが出てしまうのだ。そんな人間を多く見てきたミーにはこのリンドという人間は全く別の人種に見える。謙虚とは違う。もちろん卑屈でもない。全てが自然なのだ。誰とでも平等に接し公平に付き合う。
ナウラの街は大きさとしてはミディーノよりは小さい街だが人が多く活気に溢れていた。街の中には宿の他に武器屋、防具屋、雑貨屋等が軒を連ねている。冒険者や商人相手の店が多い。レストランもそれなりにありそうだ。
リンドはジャックらに教えてもらった宿を見つけるとそこに部屋を取り、部屋から出てナウラの街をぶらぶらと歩く。夕刻の食事時という時間帯もあるのだろう。さまざまな人が通りを歩いている。商人、冒険者、そしてこの街の住民らがレストランに入っていったり買い物をしたりしていた。
リンドは人混みを避けながら通りを歩いて目に入ってきた武器屋に入っていった。ミーはリンドの肩の上に乗ったままでじっとしている。
店に入るといろんな武器が陳列されている。前衛用の武器、後衛用の杖や弓や矢など。
「いろんなのがあるな」
陳列物を一つ一つ見ていくリンド。後衛ジョブの賢者でもあるので杖が並んでいる棚はゆっくりと見ていく。
「なるほど。こう言うデザインもあるのか」
ミーを肩に乗せたまま独り言を言いながら杖を見るリンド。店員が近くにいるのでミーはじっと肩に乗ったままだ。
杖のデザインを見ているとリンドが作った精霊士の杖が1本置いてあるのが目に入ってきた。最近スキルが上がった前の杖、リンドが普段鍛錬に使っている杖だ。値札を見ると金貨52枚になっている。しかもこれはスキルが上がる前の杖の価格だ。
「ひぇ〜、高いな」
トムの店に下ろしている価格にさらに上乗せされている。フィリップかあるいはミディーノの街で杖を買った他の商人がこの店に売ったのか。いずれにしてもこんな高くして売れるのかなと思って見ていると、
「今日入荷したんですよ。高いですけどそれに見合う効果は充分ありますよ」
近くにいた店員が声をかけてきた。
「でもこの値段で売れるものなの?」
そんな話をしているとどやどやと入り口から冒険者のパーティが入ってきた。リンドが声をした方を振り返ると5人組のパーティで店に入ると真っ直ぐにリンドの近くに近づいてきて
「あった!売ってる!」
精霊士の格好をしている女性が声を出すと、すみませんと言ってリンドの横に立つとその杖を手に取る。
「よかったじゃないか」
「うん。苦労して金策した甲斐があったよぉ」
メンバーと話をしながら店員にこの杖をくださいと言って金貨52枚を支払っている。成り行きを見ていたリンドはびっくりしていた。こんな値段で売れるのか?と聞いていたそばから売れたのだ。
「すみません。その杖はなかなか手に入らないの?」
リンドが今杖を買ったばかりの女性に話しかける。
「そうなのよ。滅多に売り物が出なくってさ、前からずっと欲しくって金策しながら毎日この店や他の店を覗いてたの」
ずっと欲しかった杖が手にはいったからか杖を持っている女性はウキウキだ。彼女の傍にいるパーティメンバーの男性がリンドに顔を向けると、
「ミディーノを中心にしてこの杖が出回っててさ、この街やハミルトンでも何名かが持ってるんだが効果が半端なくすごいって有名な杖なのさ」
そう言って教えてくれる。肩に乗っているミーが身体をリンドの首筋に押し付けてきた。凄いじゃないと言っている様だ。
「そうなんだ」
それ以上言えないリンド。自分が作った杖が高い評価を受けていることが恥ずかしいがここまで喜んでくれるのならいいかと目の前で喜んでいる女性を見ていた。
杖を買ったパーティが店を出ていくとリンドはもう一度ぐるっと店内を見てから店を出た。
「リンドの杖大人気じゃない」
宿で食事をして部屋に戻るとミーが言う。
「なんだか恥ずかしい気分だけど喜んでくれていたから作ってよかったよ。それよりも武器屋でいろんなデザインの杖を見たから家に戻ったら試してみようかと思ってる。ミディーノの街にはなかったデザインだよ」
「いいんじゃない?杖自体の能力は変わらないんだし、見栄えを良くするのも大事よ」
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