第34話 旅に出よう
キースらのパーティが鍛錬に来ていたリンドの家を出て1週間が経った頃、毎日のルーティーンであるランクSの魔獣討伐、杖の作成を終えたリンドが居間で夕食を取っている時にケット・シーの姿になったミーが話かけてきた。
「リンド、旅行する気はある?」
野菜を口に運んでいたリンドはその手を止めるとミーを見る。
「旅行?」
突然に旅行という言葉が出てきてびっくりしているリンド。
「そう。ちょっと辺境領方面に行こうかなと思って。あっちにも仲間の妖精達がいるのよ。久しぶりに会いにいくんだけどね、1人で行ってもいいんだけどリンドもたまには違う外の空気を吸ってみたらどうかなと思って」
「違う空気か」
手に持っていたフォークをテーブルに置くとソファに座ったまま両手を伸ばして伸びをする。
そういえば俺ってミディーノの街とその周辺、そしてこの森しか知らないよな。それ以外の場所がどうなってるのかって考えたこともなかったな。
伸びをしながら目を閉じているリンドをミーがじっと見ていた。リンドはしばらくしてから目を開けると
「違う空気を吸うのも気分転換になるかもしれない。行ってみようか」
「そうこなくっちゃ」
ミーの話では目指すのは辺境領最大の都市であるハミルトン。ミディーノからだと徒歩で30日近くかかるらしい。この森の家からでも同じくらいだろう。
往復で60日、向こうで10日ほど滞在するとして70日。2ヶ月以上この家を留守にすることになる。
「杖を多めに作ってトムの店に卸しておかないとな」
「そうね。こっちはいつまでに行かないといけないって事はないからリンドの準備ができてからでいいわよ」
翌日からリンドは午前中はいつもの鍛錬をし午後からは集中的に杖を作り始めた。精霊士用と僧侶用の杖を作っては倉庫に並べていく。
10日後かなりの数の杖ができたところでそれらをアイテムボックスに収納すると
「トムに渡す分として精霊士、僧侶、それぞれ100本ずつある。これでしばらく持つだろう。こっちはいつでも行けるよ」
「じゃ明日出発ね」
翌朝リンドとミーは森の自宅を出てミディーノの街に向かう。ミーは黒猫の姿でリンドの前を歩いたり肩に飛び乗ったりと気ままに動いていた。
街に着くとトムの店に顔を出して事情を話す。
「なるほど。2ヶ月か3ヶ月品物が提供できないからってこれほど持ってきてくれたのか」
そう言うトムは言ってから困惑した顔なると
「ありがたい話なんだがよ、リンド。この200本分の代金を一度で払う金が今ないんだよ」
「ああ。それなら今日でなくてもいいよ。今度来る時に払ってくれたらいいからさ」
あっさりと言うリンド。
「お金は困ってないし。それよりも杖が多くあった方がトムも安心できると思ってさ」
「そうかい。じゃあリンドの言葉に甘えさせてもらうよ。それにしても欲がないというか何というか」
礼を言うトム。リンドは笑いながら
「自分の鍛錬で杖を作ってるだけだからさ。気にしないでくれよ」
そうしてギルドに顔を出して受付で魔石を渡して換金するついでに辺境のハミルトンに行ってくるよと言う。
「武者修行ですか?」
魔石の代金をリンドに渡しながら受付嬢のマリーが聞いてきた。
「ミディーノしから知らないからさ、他の街を見てみようと思って」
「わかりました。ギルドマスターには言っておきますね」
頼むよと言ってリンドは左の肩にミーを乗せるとそのままギルドを出て城門の外にでると街道を南に歩き出した。
王都であるデュロンからミディーノ経由で辺境領最大の都市であるハミルトンまでは広く整備された街道で行き交う人も多い。護衛を連れた商人の馬車が広い街道を行き来している。
リンドは肩にミーを乗せてその街道をのんびりと歩いていた。
「国内の主要な街道の1つだとは聞いていたけど本当に人が多いんだな」
「商人や旅人、冒険者がひっきりなしに歩く街道よ。魔獣もいなくて安心な街道が人が多くなるのは当然ね」
肩に乗っているミーが周囲には聞こえない声でリンドに言う。
「ハミルトンに着いたらミーは友達に会いに行くんだよね?」
「そう。だからリンドはハミルトンに着いたら私のことは気にせずに街を楽しんだらいいわ」
「わかった。そうするよ」
今までもミーがふらっといなくなってしばらくして戻ってきたこともあったり元々妖精なんてそんなものだろうと思っているリンド。お互いにマイペースで生きていくのが信条だ。
ミディーノの街を出て街道を南に歩いて行くリンド。街道沿いにある宿場町や村の宿で夜を過ごして南のハミルトンを目指す。急ぐ旅でもないし1人(実際は1人と1匹だが)なのでのんびりと街道の風景を楽しみながら歩いていた。
ちょうどハミルトンまで半分程の距離になり、この日ものんびりと昼間街道を歩いていると肩に乗っていた猫のミーが耳元で
「左手の森の中で魔獣と対峙している冒険者がいるけど形勢不利よ」
そう言われてリンドも左の森に気配を向けるがわからない。
「僕にはわからないがミーがそう言うのなら戦力になるかどうかわからないが助けにいこう」
そう言って街道を外れて左の森に進んでいくリンド。ミーはその横を走りながら
(リンドなら全く問題ないわよ。おそらく瞬殺ね)
森に入るとリンドにも気配が伝わってきた。魔獣が4体、それに対して冒険者が4名。どうやら冒険者はランクBで魔獣もランクBだ。リンドは別格だが普通は同格の魔獣と対戦するときはせいぜい2体までだ。4体相手はきつい。
「助太刀しようか?」
声を出しながら近づくと
「頼む!」
という男の声が。リンドは持っていた杖を突き出すと精霊魔法を撃つ、あっという間に4体の魔獣が吹き飛んでいった。
「大丈夫か?」
そうして近づき、ぐったりしている4人に順番に回復魔法をかけていくリンド。ミーはその間リンドの肩の上に乗っている。
ジャックはびっくりしていた。声が聞こえてきて頼むと言ったと思ったらあっという間に1人の男が精霊魔法で4体のランクBの魔獣を倒し、そして今度は全員に回復魔法をかけてくる。
「ありがとう」
ジャックがそう言うと隣で同じ様に地面に座り込んでいた男が
「助かったよ」
と言う。後の2人は女性だ。精霊士と僧侶だろう。魔力が尽き果てている様で声も出せないほどぐったりしている。
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