第33話 Sランクへの手助け

 翌日森の奥に出かけたキースのパーティ、まずランクAの森で見かけたオークにクリスティが弓を撃つと今までとは全然違う飛距離と威力で頭に当たったランクAのオークが一撃で倒れた。


「ものすごい威力じゃないか」

 

 今の弓の攻撃を見ていたキースが言う。弓を射ったクリスティも


「想像以上よ、この弓。今までのより飛距離も威力も2倍、ううんそれ以上ね。それに凄く使いやすいの」


 そうしてその後も遠隔攻撃で弓でランクAを倒し、ランクSの森に入って目に入ってきたランクSに弓を射ると以前よりもずっとダメージが大きく、その後は剣や魔法で苦労せずに倒せる様になった。


 何体かランクSを倒した後で皆で集まると


「これでかなり討伐が楽になるぞ。ランクSでも2体なら普通に対応できるな」


「キースの言う通りだ。ここまで弓の威力が上がると俺たちも楽になる」


 キースとショーンが話している言葉に頷く他のメンバー。結局この日は森の奥に進んで2体のランクSを同時に倒したりしてスキルを上げて夕刻にリンドの家に戻ってきた。


「よかったじゃない」


 キースから話を聞いてリンドも喜んでいる。他人が強くなっていくのを妬む人がいることはミーは良く知っているがリンドは全くそういうところがない。当たり前の話だが他人が強くなったのを妬んでも自分が強くなる訳ではないからだ。


(これはもうリンドの持って生まれた性格ね)


 ここまで純真な心を持っている人間は見たことがなかったミー。そして同時に素直な人間が努力をすればここまで高みに登ってこられるんだと感心する。


 キースらは今回リンドの家に10日間滞在し、ランクSやAを相手に鍛錬をした。明日森を出て街に戻るという前の日の夜、全員で食事をしている時に


「今回は、いや今回もだ。いい鍛錬になった。リンドが作ってくれた弓のおかげもあってランクSも2体なら普通に、3体もなんとか倒せる様になったし。それにジェシカの杖も良くなって強化魔法の威力も上がっている」


 キースがリンドに礼を言う。


「弓の威力がかなり伸びたおかげで遠距離から攻撃を開始できる様になったしね」


「そうそう。しかも大きなダメージを与えられるからその後の戦闘がずっと楽になった」


「強化魔法も以前より強力になってるし私の魔力の消費も随分と抑えられてる」


 狩人のクリスティと戦士のコリー、そしてジェシカが続けて言った。


「戦闘が楽になったのなら弓を作った甲斐があったよ。楽になったってことは強くなったってことだろう?キースらも近い内にランクがあがるんじゃないの?」


「だといいけどな。まだまだだよ」


 そう言いながらもメンバーの表情は皆明るい。ここでランクSを討伐することが昇格する為の近道だと理解している様だ。


「私たちよりリンドの方が先に昇格するんじゃないの?」


 デザートに手を伸ばしているジェシカが言う。リンドはその言葉に右手を大きく左右にふりながら


「ないない。こっちはのんびりやってるしね。それにランクが上がるのはもういいよ。今のランクで何の不自由もないし。目立つのは勘弁かな」


「リンドらしいな」


 ショーンが言う。


「リンドはマイペースで生活できればいいんだよね?」


「その通り。それ以上何も望んでいないし。ランクAでも恐れ多いくらいなんだよな」


 聞いている他のメンバーはリンドが謙遜でもなんでもなく本心からそう言っているのを知っているのでそうなるわなと彼の言葉に頷いて返事をする。


 ケット・シーのミーはいつの間にか部屋の隅にある猫階段から降りてきていて今はリンドのお腹の上でゴロゴロしていた。


「これからもずっとこの森の家で暮らしていくつもりなの?」


 パーティの僧侶のジェシカがリンドに聞いた。


「気が向いたら短い間どこかに出かけるかも知れないけど、基本はここでのんびり過ごすことになるかな。この家や今の生活に何の不満もないしね」


 そう言ってからさらに続けて


「ここで杖を作ったり魔獣を退治したりそして食べものを育てたり。自分の望んでいた生活ができている。そしてこうやって知り合いも来てくれる。そしてミディーノの街までそう遠くもない。全く問題ないね」


 そう言うとキースが言った。


「手に職もあって金策もできてるしな」


「その通り。お金にも困っていないね」


 笑いながら答えるリンド。


 食事が終わるとメンバー総出で後片付けをした後、もう一度居間に集まってきて思い思いに座って酒や果実汁を飲んでいる。


「今回もいい鍛錬ができたよ」

 

 とキース。


「その通りだな。ここは最高の場所だ。ランクBからランクSまでそう遠くない範囲にいるし」

 

 コリーがそう言ってからリンドを見て、


「リンドには申し訳ないがしっかりとした家の中で過ごせるし食事もあれば水浴びもできる。まるで街の中にいる様だよ」


 コリーの言葉を聞いていたリンド


「ここを使ってもらうのはこのメンバーなら全然平気さ。これからもいつでも来てくれて構わないよ」


「すまないな。そう言ってもらえると助かる」


 リーダーのキースが皆を代表して言った。

 

 そして翌朝、キースらのパーティはミディーノの街に戻るべくリンドの家を出ていった。


「彼らは今回来てまた強くなってるわよ」


 リンドの肩に乗っているミーが言う。


「真面目に鍛錬してたからね」


 リンドはミーを肩に乗せたまま自分の家の中に戻っていった。居間に腰掛けると肩からテーブルに飛び降りたミーは猫の姿のままリンドを見上げ、


「そう言うことね。このまま順調に行ったらそう遠くない未来にランクSにあがりそうね」


「そりゃ凄いね。元々実力もあったし人間性も悪くないし。ランクSにふさわしいんじゃないの?」


「リンドはいいの?」


「僕はいいよ。彼らの前でも言ったけど今のままで十分さ。何の不満もないね」


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