第31話 お知り合いだった

 居間で6人で食事をしている時に、誰かが王都のランクSになったパーティの話をした。キースらのパーティメンバーはあのパーティとは知り合いらしい。


「ランクAの時から王都ではマーガレット達のパーティがランクSに一番近いパーティだって言われてたんだよ」


 ショーンがリンドに説明をしてくる。そうなんだと相槌を打ちながら聞いているリンド。


「俺達は彼女らと一緒にミディーノ郊外のダンジョンに潜ったことがあるんだよ。同じランクAだが彼女らの方がずっと戦闘能力は高かった。いい勉強になったよ」


 キースが言うと周りもその通りだと言っている。このキースのパーティメンバーも性格が良い人ばかりだ。素直に相手の実力を認めることができる。


「そういえばマーガレットが言ってたけど彼女らがミディーノの街に来たのはリンドの杖の噂を聞いたからだって言ってたな」


 リンドは頷き、


「そうみたいだね。トムの武器屋に杖を卸に行った時に店で偶然彼女らに会ったんだよ。その時にこれが探していた杖だよって言われたよ」


 食事を終えて木のカップに入っている果実汁を飲みながらリンドがコリーの言葉に対して答える。


「じゃあリンドも彼女らを知っているんだ」


 その言葉に頷き、


「知ってるし杖を手に入れた後ここの家にも来て何日が泊まって森の奥のランクAを相手に鍛錬をしていたよ」


「ここにも来たの?」


「ダンジョンはクリアしたから他の場所で鍛錬がしたいって言ってたからね。ここで毎日ランクAを倒してたよ」


 リンドはクリスティに答えながらそうだユリアーネの弓を強くして上げたからクリスティの弓も作るか、いや作る間にミーの意見を聞こうと自問自答していた。


 翌日彼らが再び森の奥に出かけていくと、リンドはケット・シーの姿になっていたミーに


「クリスティの弓も風魔法で作ってあげようと思うんだけどどうだろう?」


「どうだろうって?」


 ケット・シーのミーが聞き返すと


「うん。元々この発想は王都のパーティの発案だっただろう? 弓を作ってから時間は経ってるとは言え彼女らの許可を取らないとまずいのかなと思っているんだよ」


 話を聞きながらケット・シーのミーは相変わらずのリンドの性格に微笑みながら


「いいんじゃないの?それにそんな事言い出したらリンドが僧侶の杖を作った時点で彼女らのアイデアを使ってることになるじゃない」


 ミーの言葉にリンドもなるほどと大きく頷き、


「そりゃそうだ。ミーの言う通りだ」


 と納得する。そして夕刻になって彼らが森から戻ってきた時にクリスティに


「予備の弓って持っているの?」


 と聞くとあるけどと魔法袋から予備の弓を取り出すクリスティ。予備の弓と今使っている弓が同じ大きさ、模様であるのを見て


「これって普段使ってるのと同じ弓?」


「そうよ。同じものを2つ持ってるの。弓が変わると感覚が変わっちゃうからね」


「なるほど。この予備の弓、しばらく預かってもいいかな?」


 怪訝な顔をするクリスティ、リンドがちょっと見たいんだよというと滅多に使わないからいいわよと言う。


 水浴びを終えて全員で食事の準備をして居間で夕食を食べている時にキースが


「王都のランクSになったあのパーティの連中もこの森の奥のランクSのエリアで鍛錬してたのかい?」


「いや、あの時はこっちもそのエリアまで行く力がなかったからランクAのエリアで鍛錬をしてた」


 つまりリンドはあの時よりもさらに強くなっているということだ。当人は全く気がついていないが彼の言葉を聞いていたメンバー達は目の前にいるリンドが相当強くなっているんだろうと理解していた。もちろん、昨日一人で精霊魔法でランクSを倒しているからその実力は疑う余地もないが、それでも普通ならソロでランクSを倒すことなんてできる訳がない中で毎日の様にこの場所で鍛錬していると言っているリンドを見る彼ら。鍛えるとそこのレベルまで上がることができるのかという目でリンドを見ていた。


 特にリーダーのキースは自分達がもっと強くなるにはダンジョンに潜るよりもここで鍛錬した方がずっと近道なんじゃないかと思っていた。


「昨日も言ったけどしばらくここに滞在してもいいかな。あのランクSの森は良い鍛錬になる。途中にランクAもいるしな」


「キースらなら全然問題ないね。いたいだけ居てくれよ」


「ありがとう」


 そうして食事を終えて来客用の平屋の棟に戻ると5人全員が男性の部屋に集まって明日からの打ち合わせをする。その中でコリーが、


「夕食の時にキースがしばらくここに滞在したいって言ってただろう?実は俺もそう思ってたんだよ」


 そう言うと他のメンバーの皆同じことを思っていた様だ。


「ここはダンジョンよりもずっと安全だ。出現するランクSの魔獣もわかっているし、ランクAもすぐ近くにいる。疲労具合を見ながらAとでもSとでも戦闘できる。そして万が一の時も走ってこの結界を越えれば安全だ。リンドには申し訳ないが俺たちにとったら格好の鍛錬の場所になってる」


 ショーンが全員の気持ちを代弁して言うとその通りなんだよと皆が頷く。


「安全な場所でしっかりと休めるから疲労が翌日に残らないし気持ちをリセットできるのもいいわね」


「私たちはいいけど、リンドには何かお礼をした方がいいんじゃない?」


 クリスティが言ったあと、ジェシカが全員の顔を見て言うと全員が頷いた。


「そうなんだよな。リンドはあの性格だからあっさりと言ってくれているけど食事だって彼が野生動物を倒したり畑で育てている野菜や果物だ」


 コリーが言うとキースが全員を見る。


「明日は午前中ランクSの相手をして午後から川向こうで野生動物を狩りに行こう。ついでに川で魚も獲るか」


 キースの提案にそれがいいねと全員が同意し、明日は午後からは食料探しに行くことにする。もちろんリンドには内緒だ。



 リンドは自分の寝室でミーと話をしていた。


「明日はクリスティの弓を作ってみるよ」


「いいんじゃない?」


 ミーがOKしたので安心し、ベッドの前に床に座っている猫のミーを見て


「弓の弦はランクSのオークの腱を持ってるからそれで作る」


「今のリンドなら魔力も上がっているしきっと前に作った弓よりも品質が上の弓ができるわよ」


「だといいな」

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