第30話 キースらのお気にいりの場所だそうです
リンドとミーが家に戻ってから10日程経った日の夕刻前にキースのパーティがやってきた。
「リンドと違って森の夜は怖いからね。夜明けと同時に森に入ってきたんだよ」
家に入ってくるとキースが笑いながら言う。
「キースらなら夜でもランクBの森は問題ないだろう?」
「安全に行けるルートや時間帯があるのならそれを有効利用するのも大事なのさ」
「そういうものなんだ」
リンドはパーティメンバーに奥の平屋を勧め、水浴びもどうぞと言う。メンバー達は部屋にに荷物を置くと男女交代で水浴びをすると居間にやってきた。女性二人が手伝って夕食の準備をして全員で居間で食事をする。ミーは猫階段の上で横になって耳を立てピクピクさせていた。
「明日から森の奥のランクSのエリアに行くつもりなんだけどリンドも一緒に行ってくれるかい?」
「場所を教えるためにも一緒に行くよ」
翌朝朝食を終えたキースらのパーティとリンドの6名は家の前の庭に集まっていた。ミーは猫のままだ。昨日の夜にベッドで寝ていると
「この前みたいに明日は隠れてついていくわ」
と言っていたので全員が出てから消えてついてくるのだろう。各自が装備の点検をしているとショーンがリンドを見て
「リンド、あの新しい杖じゃないのかい?」
リンドが持っているのは最近スキルアップした杖ではなくてその前に作っていた杖だ。
「ああ。普段は自分の鍛錬も兼ねて前の杖を使ってるんだよ」
新しい杖は滅多に使わないというとそれを聞いたメンバーがまたびっくりする。以前の杖でランクSを倒しまくっているということになるからだ。
「種族が決まってるから慣れると相手がランクSでも以前の杖でもなんとかなるんだよ」
そう言いながら装備を確認しているリンド。行こうかというキースの声にリンドウを先頭にして一行は家の裏手の森に入っていった。
すぐにランクAのテリトリーになる。森の中を歩いているがその速度は街道を歩く速度とほとんど変わらない。そうして時折杖を突き出すとその方向にいたランクAの魔獣が叫び声を上げることもなく倒れていく。
(気配感知も相当だし、魔法の威力もまた上がってるな)
リンドの後ろを歩いているキースがそう思って背後を振り返ると他のメンバーも同じ思いなのか皆大きく頷いていた。
そうしてランクAの森をしばらく歩いていたリンドは立ち止まると振り返り
「この辺りからランクSのテリトリーになってる。どうしようか?」
「そうだな。まずリンドだけで倒してみてくれるかい?」
「そりゃいいけど、そっちの鍛錬にならないんじゃないの?」
「最初だけだよ。次から俺達でやるからさ」
「わかった」
(ソロでランクSを倒すってどういうことなのかリンドの実力を見てみたいわよね)
いつの間にか姿を消して彼らの近くに来ていたケット・シーのミー。前を歩く6人の少し後について森の奥に来ていた。
ランクSのテリトリーに入って歩いているとすぐに左前方にランクSの気配を感知する。リンドが歩みを遅くするとその後ろにいたキースが狩人のクリスティの方を見ると彼女は頷いて左前方を指さした。
(狩人並みか。探査能力もまた一段と強くなってるな)
そう思って顔を前に戻すと、立ち止まったリンドが杖を前に突き出す。ちょうど左前方から大型のオークが人間を見つけて襲いかかってきたところだったがリンドの上から飛び出した魔法がオークの顔に当たると仰け反る様に後ろに倒れ込むとそのまま絶命する。
「とんでもない威力じゃないか。また魔法の威力が上がったのか?」
「そうみたいなんだよ。でもまだSランク相手だと4、5体に1体は一度の魔法じゃ倒せないんだよね。今はたまたま上手くいったみたいなんだけどまだまだ鍛錬が足りないよ」
倒したオークから魔石を取り出しながら言うリンド。後ろの5人は魔石を取り出しているリンドの言葉を聞いてお互いに顔を見合わせていた。
そうして魔石を取り出すと
「キースらもここなら鍛錬になるだろう? それとこの辺りだとまだランクSがそう固まっていないからリンクの心配はまずない。ここから奥に行くと固まってリンク必須になるんだけどね」
「リンドはその奥で複数体相手に鍛錬してるんでしょ?」
「毎日じゃないけどね。この辺りと奥とを交互にって感じかな」
クリスティの言葉に答えながら取り出した魔石をしまうとキースらのパーティの背後に移動する。そうして前に立っている5人に、
「ここらにいるランクSはオークのみ。ほぼ全部が前衛ジョブで魔法を撃ってくるのはいない。体力と素早さはランクAよりずっと高いからそれだけ注意して」
「わかった。事前に情報があれば助かるよ」
キースが言って少し進むとランクSのオークを見つけた。ジェシカの強化魔法から戦闘にはいるメンバー。盾ジョブのキースががっちりとタゲを取りコリーとクリスティそしてショーンの魔法でオークを攻撃する。
時間はかかったものの危なげなくランクSを討伐したキースら。
「きついけどこれはいい鍛錬になる」
「確かに。自分たちのスキル上げにもばっちりだよ」
その言葉を聞いてよかったと声を出すリンド。その後もランクSの森の入り口付近を歩いてはランクS相手にスキル上げをする。リンドは基本一番後ろで見ているだけだが頼まれると精霊魔法を撃ったり、回復魔法を掛けたりしていた。
結局午前中彼らに付き合ったリンド。午前中の彼らを見て問題ないと判断して先に戻っているからと声をかけて自宅に戻ってきた。
「彼らも以前よりも強くなってるわよ」
猫のままミーが言う。
「そうだよね。僕もそう思ったよ。彼らはチームワークがいい。あの様子だとそのうちに森の奥にもいけるんじゃないのかな」
と彼らが強くなっているのを素直に喜ぶリンド。聞いているミーはそう言っているリンドは本当は彼らよりもずっと強いのよ。でもそれってリンドにとっては関係のないことだよねと思っていた。リンドはいつもマイペースだ。周囲が強くなることで自分にプレッシャーがかかる訳でもない。強くなった仲間を素直に喜べる心を持っている。自分はこの家で好きなことをして生活できればいいと思っているから周囲と自分とを比べることをしない。いつも自然体だ。
家に戻るといつもの鍛錬をしてから夕食の仕込みをする。
比較的早い時間にキースらが戻ってきた。
「いい場所だよ。ランクSを相手にしているから鍛錬にもなるし、1体が徘徊しているだけだからリンクもしない。休憩もしっかり取れる」
ジェシカとクリスティが水浴びをしている間にキースら3人は居間でリンドと話をしている。
「そりゃよかった。鍛錬になっているのだったら好きなだけここで鍛錬してくれてもこっちは構わないからね」
キースらのメンバーはリンドの性格を熟知している。彼の発言に裏表がないことも知っているから
「じゃあしばらく逗留させてもらうよ」
そんな話をしていると水浴びを終えた女性二人が部屋に入ってきた。キースが今の話をジェシカとクリスティにすると二人も問題ないと言う。
「毎日水浴びができて美味しい料理が食べられてベッドの上で休める。そして家の外にでて少し歩くとランクSまでいる。この場所なら何の文句もないわね」
クリスティが言うとジェシカも
「その通りね、ダンジョンだと薄暗くて汚いしね。こちらの方がずっと良いわ」
と。そうして夕食の用意をするリンドを女性二人が手伝うと3人でキッチンに入っていった。
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