第28話 Sランクパーティ

 王都のデュロン。そこの冒険者ギルド所属でランクSに昇格したマーガレットらのパーティは自分たちの住まいである一軒家にいた。


 この一軒家は商業区から居住区に入ったところの良い場所にある。ランクSになったのを境にに今までパーティで貯めてきたお金を使って新しい一軒家を購入した。


 マーガレットらは以前からランクSに最も近いパーティと言われており今回ランクSに昇格したことについては王都のギルドの中で以前から彼女らを知っている者からは当然だなという声がほとんどだ。


 普段からギルドのクエストをしっかりとこなし、武者修行で王都以外の地方の街にも繰り出してスキルを上げてきた彼女たち。ダンジョンも深層まで潜ってはポイントを貯めてきた。


 そうしてようやくポイントが貯まってギルドからランクSへの昇格が認められたのだ。

 今日も外での鍛錬から新しい家に戻ってくるとそのまま一階にあるリビングにドスンと座る5人。


「ランクSになってもやることは変わらないのね」


 ぐったりした表情で戦士のコニーが言う。


「当たり前でしょ?むしろランクSになってより注目されるんだから腕が落ちたとか言われたくないでしょ?」


 リーダーのマーガレットがコニーに顔を向けて言う。そうなんだよねと頷くコニー。


「でも本当にランクSになったんだよね」


 とロザリー。


「ここ半年程でかなりギルドポイント稼いだでしょう?難しいクエストも完璧にこなしてきたしね」


 ロザリーに続けてユリアーネが言った。


「杖と弓を変えてから難易度の高いクエストも私達にとってはそれほどでも無くなっていたわよね」


「リンドの杖と弓のおかげよ。この杖がなかったら無理だったと思う」


「ロザリーの言う通り、私もこの弓に変えてなかったらランクSにはなれなかったと思う」


 狩人のユリアーネも同意して言った。コニーが


「表には出てこないけど凄い人っているよね。それにリンド当人も相当の実力の持ち主よ」


「個人の実力なら間違いなくここにいる5人より上よ」


 マーガレットの言葉に頷く他のメンバー。


「当人との約束があるから周囲にはこのことは言えないけれどリンド個人にはお礼をしたいところ」


 マーガレットの言葉に全員が頷いて近いうちにミディーノのリンドの所に行こうという話になった。


「そういえば思い出した。リンドもランクAになってたわよ」


 今まで黙っていたファビーナの言葉にその事実を知らなかった他のメンバーがえっ!と驚く。皆の顔がファビーナに向けられた。


「この前ギルドに顔を出した時に掲示板に貼ってあったの。ランクBで十分だと言ってたのにランクAに昇格したみたい。ミディーノで何かあったかのかもしれないわね」


「これはやっぱりミディーノに行く必要があるわね」


 とマーガレットが言った。



 そのリンドは相変わらずの日々を送っていた。森の自宅に戻って鍛錬をし杖を作るとミディーノの街に出てはトムの武器屋に杖を卸す。そしてそのついでにギルドに寄るとランクAの魔石を渡してクエストをこなしてはまた森に帰る。


 本人がまさに望んでいたマイペースの生活だ。そして日々の鍛錬の結果自宅の周囲の結界はさらに強力になりそしてリンド自身の能力もアップしていた。


 ミーの教えよろしく最近はランクSも単体なら倒せる様になっていた。とは言っても倒すためには精霊魔法を2発撃つ必要はあるが…。


 今日もケット・シーの姿になっているミーと家から出るとランクAがいる森のさらに奥でランクSを相手に鍛錬をしていた。


「適当に腕を伸ばして杖を突き出しているだけじゃダメね、相手のどこにダメージを与えるかをしっかりとイメージしてから魔法を使わないと」


 ランクAまでなら今のリンドなら適当に杖を前に出して魔法を唱えるだけで倒れたが、ランクSはそうは行かない。こりゃ厳しいがいい鍛錬だとリンドはミーの言われる通りに何度も魔法を撃ってはランクSを倒していった。


「今でとは違うね」


「ランクBからランクAというのはあまり変わらないのよ、でもランクAとランクSとは全然違う。ランクSを弾く強化魔法が張れるというのはそれだけの魔法の威力がリンドにはあるのよ、でも精霊1発でランクSを倒せないというのは精霊魔法の魔力の使い方が悪いってこと」


 ミーの言う通りだ。これからもっと鍛錬しなければとリンドは改めて気合を入れ直していた。そうしてリンドはランクS相手に鍛錬を続けながらも相変わらず僧侶と精霊士の杖は作っていた。これは売るというよりも日課になっている魔力の調整の訓練だ。リンドは毎日鍛錬を欠かさずに続けていた。


 そうしてある日杖を作るといつもと違う出来栄えになっているのに気がついた。夕刻になって外から戻ってきたミーにその杖を見せるとびっくりする。


「またスキルアップしたみたいね。今までの杖よりも一段クラスが上の杖になってるわ」


「やっぱりそうか。魔力を注ぎ込んでいる時に今までと違うなという感覚があったんだよ」


「これは私もびっくりよ、リンドがまだスキルアップするなんて思っても見なかったから。でもよくできてるわ。そうね、今までの精霊士の杖や僧侶の杖と比べると能力は間違いなく2割はアップしている。逆に言うと今までの威力なら術士の魔力は2割少なくてもよくなるわね」


 まさかもう一段上にあがるとは流石のミーも思っていなかった。目の前で出来上がった杖を手に持ってじっくりと見ている賢者の男。底知れない実力があるのかもしれないとミーは改めてリンドを見直していた。


 妖精の言うことを素直に受け止めて真面目に鍛錬をすると人間もこれほどの高みに登ってこられるのか、邪念や欲がない人間が一番強い人間だということを知ったミー。


(私もまだまだ人間を見る目ができてなかったってことね)


 翌日ミーはリンドを森の奥のランクSのエリアに連れていくと目に入ってきた1体のランクSの魔獣に


「今までの杖であの魔獣に精霊魔法を撃って」


 分かったとリンドウが杖を持っている手を伸ばして脳内で呪文を唱えると魔法が飛び出して見事にランクSの首筋に当たって爆発して1発の精霊魔法で倒すことができた。


「1発で倒せた!」


 びっくりしているリンドに


「杖を作ってスキルがアップしたから魔法の威力も上がったんだじゃないかと思ってたの。予想通りね」


 ミーはこの結末を予想していた。そして


「でもリンド、言った様に能力が上がったからって雑に魔法を撃っちゃあダメよ、しっかりと相手の狙う場所をイメージしてから魔法を発動すること」


「わかった」


「それと訓練は今まで通り、いつもの杖でやりましょう。新しい杖だと威力が上がって勘違いするから。あくまでリンドの魔力の訓練だからね、杖の能力に頼らない方がいいわ」


「それもわかった。ミーの言う通りだ」


 そうして結界を通って自分の自宅に戻っていくリンドの背中を見ながらミーは、


(魔法のスキルが上がって杖もランクが上がった。冒険者ならどう低く見てもランクSクラスのレベルになってるわね。一体どこまで伸びるのかしら)

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