第27話 寄付をしました

「いいものが手に入ってよかったわね」


「本当だよ。本来ならダンジョンの奥にいる強いボスを倒して稀に出るレアアイテム。ダンジョンに行く気がないこっちには無縁のアイテムだと思ってたからね」


「あのフィリップって人もアイテムボックスを持ってるわね」


「ああ。服の中から取り出したけどあれはアイテムボックスから取り出したんだろうなってわかったよ。持っていなかったらまず自分で使うだろうしね」


 通りを歩きながら肩に乗っているミーとボソボソと話をするリンド。ミディーノの街はミーもよく知っている。リンドが今向かっているのは教会だとわかっていたので行き先は聞かずに肩に乗って顔を左右に動かして小声で話をしながら街の様子を見ていた。そうして歩いている正面に教会が見えてきた。


「ここね」


「そうだよ」

 

 短いやり取りをして教会に入ると奥から若いシスターが1人出てきた


「ようこそいらっしゃいました」


「こんにちは。この街で冒険者をしているリンドと言います。寄付をしたくてやってきました」


「それはそれはありがとうございます。こちらにどうぞ」


 正面の祭壇のある隣のドアから奥に入るとそこは教会の事務所の様なところだった。数名のシスターが教会の制服に身を包んで仕事をしている。その隅にある小さなソファを勧められて腰掛けるリンド。ミーは肩からリンドのお腹に移動してゴロンと横になる。


 リンドを案内したシスターは事務所の奥の机に座っている年配の女性と話をしていてすぐにその女性が立ち上がるとリンドの座っているソファに近づいてきた。それに合わせて立ち上がるリンド。


「こんにちは。私はこの教会を見ていますマリアンヌと言います」


「この街の冒険者のリンドです」

 

 そして再びソファに座って向かい合うとリンドから口を開いた。


「寄付をしたくて参りました。どうぞ受け取ってください」


 そう言って布に包んだ貨幣を渡す。ありがとうございますと言って布を広げたマリアンヌの顔色が変わる。


「こんなに?本当に良いのですか?」


 布を広げると中には白金貨1枚、金貨にして1,000枚分が入っていた。白金貨を見てからリンドを見るマリアンヌ。


「どうぞ使ってください。実は僕はこの街から歩いて1日ちょっとくらいの森の中で1人で住んでるんです。自給自足の生活をしていてクエストでもらう金貨はほとんど使わないので貯まっちゃって。このまま使わないならここに寄付した方が有効に使ってもらえると思って」


 リンドは自分のことを包み隠さずに話をする。


「この教会には孤児院もありますよね。このお金で子供たちにいい食事をあげたり部屋を綺麗にしてください」


 マリアンヌは大きく頭を下げてありがとうございますと何度もお礼を言う。そしてリンドが立ち上がると


「貴方に神の加護があります様に」


 ともう一度頭を下げた。


 他のシスター達からもお礼を言われて教会を後にしたリンドとミー。通りに出ると肩にミーを乗せながら街の出口に向かって通りを歩いていく。


「本当にリンドは欲がないよね」


「自分が食べれる分だけあればいいよ。沢山持っていても使わなかったら一緒だし」


(ランクAになっても何も変わらない。そこが妖精に好かれるのよ)


 リンドは森の家に帰ると早速フィリップから頼まれた杖の制作にはいる。トムの武器屋にも卸した方が良いだろうと結局精霊士の杖を50本、僧侶の杖を同じく50本作ると1週間後に再びミディーノの街に出向いた。


 トムの武器屋に顔を出すとそこにはトムとフィリップがいてリンドを見て談笑していたテーブルから立ち上がる。


「お待たせしました」


 そう言って腕にはめているアイテムボックスから合計で100本の杖を取り出すとそれをフィリップに60本、トムに40本と分けた。


「いやぁ。見事なものです。ここまでの杖は見たことがない」


 杖を手に取ってじっくりと見るフィリップ。その姿を見ながら、


「一つだけお願いがあります。この杖を作っているのが僕だというのは誰にも言わないでください」


 その言葉に大きく頷いて


「わかっております。トムからもそう聞いていましてね。ご安心ください。リンドさんのことは黙っておきます」


「ありがとう」


「フィリップよ、リンドは自分が有名になるのを嫌がっておっての。だからこの街でもこの杖の制作者がリンドだってことはほとんどの奴が知らない。普通なら有名になって富や名声を得たいと思うだろうがこいつは違う。マイペースで生きるのが好きらしい」


 トムが横からフィリップに説明するのを黙って聞いているリンド。ミーは肩に乗ったままで体をリンドに押し付けている。


「人にはそれぞれ事情がありますからな。商人は信用が大事、リンドさんと約束したことはちゃんと守りますよ」


 商人のフィリップは人を見る目がある。彼の目の前の冒険者は冒険者らしくない純真な目をしている。表情もいつも穏やかだ、嘘を言っていなくてありのままの自分を晒しているんだろうということがよく分かる。


 そして最後にまたこの街に来た時には杖を買わせてくれというフィリップに問題ないと返事をしたリンドはトムの武器屋を出てギルドに向かった。せっかくミディーノに出てきたんだからクエストをこなしておこうとギルドに入ってAランクの魔獣討伐のクエストを受けてその場で魔石を渡してクエストを終了させる。

 

 その後で何の気無しにギルドの掲示板に貼られていたニュースを見てみるとそこには大きな文字で


ー 王都所属のパーティがランクSに昇格 ー


 という見出しの下にランクSに昇格した冒険者の名前が書いてあった。それを見てびっくりするリンド。ランクSに昇格したのはマーガレットのパーティだったからだ。肩に乗っているミーの視線もその掲示板に注がれている。


 ギルドを出たリンドは街の外に出る門に向かって歩きながら


「ランクSに昇格か。やっぱりすごいパーティだったんだ」


「そうね。でも実力があるから早晩ランクが上がると思ってたわよ。リンドの作った杖と弓がその時期を早めたんじゃない?」


「そんな事ないだろう。道具は所詮道具だ、それを使う人の技量の方がずっと大きいよ」


 そんな話をしながら街を出て自分の家に戻っていくリンドとミー。

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