第26話 アイテムボックスがあるそうです

 リンドがランクAに昇格してから2ヶ月後、久しぶりに作成した杖を持ってミディーノの街にやってきた。もちろん肩にはミーを乗せたいつもの格好だ。


 例によっていつものトムの武器屋に顔を出したところいつも以上の勢いで奥からトムが飛び出してきた。


「リンド!待ってたぞ。全くいつ来るかいつ来るかと首を長くしてたら伸びちまったじゃないかよ」


 トムの勢いにびっくりするリンド。肩に乗っていた黒猫のミーも奥から勢いよく出てきたトムにびっくりして思わず肩から下に飛び降りて近づいてきたトムを見上げている。そうして店に入るやいなや、


「お前さん、前から魔法袋の大があれば教えてくれって言ってたよな」


 そうだった、親父さんにそんなことを頼んでいたなと思い出していたら


「それでだ、魔法袋大どころかもっとすごいアイテムが見つかったんだよ、聞いて驚くなよアイテムボックスだ」


「えっ!? 嘘だろう?」


 流石にリンドもびっくりして声をあげる。幻のアイテム、レア中のレアアイテムのアイテムボックス。ほとんど流通しておらずダンジョンの奥にいるボスを倒すと非常に低い確率で落とすことがあると言われている。


「嘘じゃないぞ。お前さんに頼まれてから知り合いの商人に頼んでたんだよ。そしたらそいつから手紙が来てな。一個見つかったって話なんだよ。なんでもどっかの地方の貴族が金に困って売りに出したらしい」


「それでもう手に入ったの?」


「手に入れたって書いてある。そうりゃそうだろう。滅多にでないレア物だ、即買わないとすぐになくなってしますからな」


 手に入ったと聞いて喜ぶリンド。トムはそのリンドを見ながら


「白金貨20枚だ」


 いい値段するなと思っていると足元にいたミーが身体を押し付けてきた。どうやらそれくらいの価値は十分にあるらしい。


「わかったよ。いつまでに用意すればいい?」


「やっぱりお前さんならそれくらいは持っていたか」

 

 そう言うと続けて


「そいつは予定通りなら3日後にこの街に来る。そん時に渡してくれ。流石に白金貨20枚は俺も用意できない。いやぁリンドが来なかったらどうしようかと思ってたんだぜ」


 いいタイミングで街に出てきたものだと思っているリンド。


「わかった。3日後にお金を持ってくるよ」

 

 そう言っていつも通り杖を渡してその代金を受け取るとその足でギルドに向かう。その場でAランク討伐のクエスト用紙をちぎってカウンターに置いて家から持ってきたAランクの魔石を渡してクエストをその場で終了させると受付にいたマリーに、


「3日後までに白金貨を21枚、俺の口座から引き出して置いて欲しいんだけど」


「3日後ですね、それなら問題ありませんね。用意しておきますね」


 そうお願いしてギルドを出ると通りを歩きながら耳元でミーが


「白金貨20枚じゃなかった?」


「そうだよ。アイテムボックスに20枚、そして1枚は教会に寄付しようと思って」


「なるほどね」


「この前から考えていたんだけどさ、どうせ使う当てがないお金を持ってるくらいなら寄付した方がいいかなって。森の家にいるとお金いらないでしょ?幸にミーが教えてくれた杖作りでお金も入ってくるし」


 そう言ってるリンドの顔はいつも通りだ。気負いもないリラックスした表情で通りを歩いている。ミーは肩に乗りながら思い切り体をリンドの首に押し付けていた。


 リンドはそれから2日間ミディーノの街の旅館に泊まっている。中クラスの宿で部屋は清潔だ。そして久しぶりに街の料理を楽しんだ3日後の朝のピーク時間が過ぎた頃にギルドに顔を出すと受付にいたマリーがリンドを見つけて


「用意ができています。確かめられますか?」


 そう言って白金貨の入っている布製の袋を差し出した。リンドは袋を締めつけている紐を解いてちらっと中を見てまた紐を締めると、


「ありがとう。ギルドは信用しているよ」


 そう言って肩にミーを乗せたままギルドを出ていく。


(本当に何というか全てが普通じゃないわね。白金貨って大金なのにまるでゴブリンを倒した時に受け取る銀貨と同じリアクションだなんて)


 リンドの背中を見ながら受付のマリーはギルマスが言う通りあの人は普通の冒険者とは違うわと改めて思っていた。



「よぉ、待ってたぞ、客人はもう来られてる」


 トムの武器屋に顔を出すといきなりそう言われて店の奥に行くとテーブルに1人のいかにも商人といった風情の男性が椅子に座っていた。


「この方ですかな。初めまして私は辺境領のハミルトンをベースにして国中を歩いて商売をしているフィリップと言います。武器屋のトムさんとは長い付き合いでしてね」


 そう言って立ち上がると手を差し出してきた。リンドは肩にのっていたミーを床に下ろすとその手を握り返し、


「この街で冒険者をしているリンドです。ジョブは賢者でランクはAです」


「なるほどAランクの賢者さんですか」


「フィリップよ、こいつだよ。俺の店に杖を卸してくれてるのは。全部こいつの自作だ」


 その言葉を聞いてフィリップという商人の目が輝く


「なるほど。以前この店にお邪魔した時に見せてもらいましてね、実は私も鑑定スキルを持っているんですがあれほどの杖は見たことがない。トムには売ってくれとお願いしたんですけどこの街だけで飛ぶ様に売れているんで余分な在庫がないんだよと言われましてね。それにしても見事な杖ですよ、あれは」


「ありがとうございます。まぁ時間がある時に趣味で作っている様なものですから」


 リンドはそう言うとトムを見て


「今店に在庫はないの?」


「いや、建前上は売り切れって言ってるが実は精霊士と僧侶の杖それぞれ5本ずつは置いてある」

 

「じゃあその10本をフィリップさんに売ってあげたら?こっちはまた来週にでも持ってっくるからさ」


 その言葉を聞いたフィリップは


「来週に持ってきていただけるのなら私の滞在を来週まで伸ばしますよ。その代わりこちらにもできたら精霊士、僧侶とそれぞれ30本ずつお願いしたい」


「リンド、フィリップはリンドの為にアイテムボックスを持ってきてくれている。俺からも頼むわ」


 リンドの足元でミーが体を押し付けてきた。もとよりリンドも断るつもりはなかったので頼んできたトムとフィリップを見て


「じゃあ来週持ってきますよ」


 その言葉にありがとうと頭を下げたフィリップはそれでお探しのアイテムボックスですがこれになりますと言って服の中から布に包まれている腕輪の様なものを取り出した。そしてテーブルで布を広げると中には金色の腕輪が1つ入っていた。


「アイテムボックスって腕輪だったんだ」


 テーブルにおかれた腕輪を見ているとトムが顔を近づけてじっと見ている。おそらく鑑定しているんだろうと思うと顔をあげてリンドを見た。


「こりゃ想像以上のアイテムじゃないの、中は時間が止まっている。つまり肉や氷を入れても腐らないし解けない。しかも容量が半端なくでかい。というかどれくらい入るのか俺でもわからないぜ」


 トムの言葉にフィリップも頷いて


「その通り、地方の貴族が金に困って売りに出したんですが滅多に出ないアイテムですからね。性能はいまトムが言った通りです」


 こりゃすごいとリンドは感心して見ていてそうして魔法袋から白金貨を20枚取り出すとフィリップに渡す。1枚1枚見ながら20枚数えたフィリップ。満足げな表情で白金貨を自身の魔法袋に入れると


「確かに20枚いただきました」


 そうして1週間後に杖を持ってくると言ってリンドはアイテムボックスの腕輪をはめて店を出た。

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