第25話 リンドについて教えてあげよう

 リンドと会った翌日、ギルドを訪れたキースのパーティはそこの掲示板に貼られていたランク昇格者の中のランクA昇格者にリンドの名前があるのを見つける。


「当然だよな」


「むしろ遅いくらいじゃない?」


「いや、俺はあいつは昇格しないと思ってたぜ」


 掲示板の前でパーティメンバー達とそんな話をしているとたまたま受付カウンターに書類を持ってきたギルドマスターのウエストがその会話を聞きつけて、


「なんだ、キースのパーティはリンドを知ってるのか?」


 声のする方に顔を向けるメンバー、そこに立っているのがギルマスのウエストだとわかると、


「まぁね」


「何だかもったいつけた言い方してるじゃないか」


 その声に顔を見合わせるメンバー。


「時間あるんだろ?俺も聞きたいんだよ、あいつについて」


 そう言うとキースら5人を奥の会議室に案内した。扉が閉まるとギルマスが


「あそこじゃ言いにくそうな顔してたからな」


 リーダーのキースが確かに他に人がいる場所では言えないなと前置きして、


「ギルマスの思う通り俺達は全員リンドをよく知っている。ギルマスだから言うがあいつが住んでる家はここから丸1日以上歩いた森の奥にある。家の周囲は ランクBのテリトリー、そして奥にいくとすぐにランクAの魔獣のテリトリーになっている場所だ。リンドはそこに家を建ててその周囲に強力な結界を張っている。ランクAの魔獣をも弾く強力な結界だ」


 ギルマスはびっくりした表情になるがそれでも黙っている。キースが続ける。


「俺達が何でリンドの家を知ってるかというと、1年近く前に新しい狩場がないかとその森の奥を探索していた時に偶然に見つけたんだ。当時ランクBだった奴はこう言っていた、人が嫌いな訳じゃないが、人に合わせるのが得意じゃない。だからいつもマイペース、ソロで活動できる賢者ジョブを選び、普段は人との付き合いを避けて森に住んでるってな」


 その後をコリーが引き取って続けて言う。


「当時からソロでランクBの魔獣なら4体までのリンクは問題ないと言っていた。そしてその後行った時はソロでランクAを倒しまくっていた。2体のリンクなら何とか倒せる様になったって言ってな」


「お前さん達は奴の実力を知ってるのか?」


 それまで黙って聞いていたギルマスが声を出した。


「もちろんだ。奴の家に泊まってランクAの魔獣の狩りをしている時に一度リンドを狩りに誘ったんだよ。びっくりしたよ。当時ランクBのリンドの精霊魔法1発でランクAのオークを倒したんだからな。ここにいる全員がおったまげたよ」


「正直俺よりも強いだろう」


 コリーの言葉に続けて精霊士のショーンが言うと、


「ミディーノで一番の精霊士のお前以上なのか?」


「ああ。間違いなく俺以上だ。魔力量、魔法の威力共に半端ない」


「精霊魔法だけじゃない、さっきもキースが言ったけど強化魔法もすごいわよ。そして山の中に住んでるせいか周囲の気配探知の範囲も広い。狩人の私並みはあるわ」


 クリスティの言葉に僧侶のジェシカも頷いているのを見てウエストは、


「本職の狩人のお前さんレベルの気配感知を持っているっていうのか」

 

 再びびっくりするギルマス。ショーンがその言葉に頷き


「奴は夜でもランクBの森を1人で歩いている。卓越した気配探知と戦闘能力があるからだろう。昼間と同じ様に普通に歩いてるぞ」


 ギルマスの前の前で話しをしているのはこの街で一番のランクAのパーティだ。そのそいつらがリンドを褒めちぎっているのを聞いてこりゃ俺の想像以上じゃないかと思っていた。黙っているとリーダーのキースが、


「このパーティメンバーの中でも話しをしたが、リンドは冒険者のレベルってのを全く分かってない。最低限のクエストを受けるだけで普段は1人で森の奥にこもって生活をしている。実際に滅茶苦茶強いが当人は全く自覚をしていないな。性格はいいやつだよ、だからこそ自分が森でやっていることを普通に話してくれたんだが当人は生きていくためにやっているだけだって言ってたけど俺達から見たら規格外の男だ」


 この街でNo.1を張っているパーティがリンドをベタ褒めだ。


「最近この街を中心にえらく値が張るがそれに十分見合う性能の良い杖が出回ってる。ショーンやジェシカが今持ってるその杖だ。誰が作っているのかは明らかになっていないがリンドもその杖を持ってるから強くなってるんじゃないのか?」


 ギルマスの言葉にお互いに顔を見合わせる。そしてしばらくの沈黙の後キースが、


「それは違うんだよ、ギルマス。これは誰にも言わないで欲しいんだがその杖を作っているのがリンドなんだよ」


「何だって!」


 流石にそれは想像していなかったギルマスは素っ頓狂な声を出してびっくりする。


「当人曰く鍛錬の一環で木に均一に魔力をこめているって言ってた。あいつが森で作っては不定期にこの街に卸してるんだよ」


 リンドがあの杖を作成していたとはギルマスのウエストも思いもつかなかった。唸り声をあげているとショーンが


「あそこまで強力な魔力を均一に注ぎ込むのは普通じゃできない。もちろん俺もだ。それをリンドは毎回完璧に注ぎ込んで杖を作っている。それも何本もだ。あいつがランクBの時から俺たちのパーティの中じゃリンドはすでにランクAかそれ以上の実力があるという評価だよ」


 ミディーノのNO.1パーティのメンバーが、リンドの実力は自分たち以上だと言っている。それほどの実力者なのかとウエストが思っていると、


「それにしてもよくリンドがランクAに昇格するのを受けたわね。本人はランクBで十分で上なんて全く望んでないって言っていたのに」

 

 その声に我に返ったギルマス。


「クリスティ、それは俺が半ば無理やりに昇格させたからだ。あいつがあのままランクBだったら他のランクBの奴らはいつまで経ってもランクAに昇格させられないからな。だからリンドにはギルドからの指名クエストは出さないという条件で納得させたんだよ」


 それならわかるな。あいつは人と組んだりするのが苦手だからソロで活動できる賢者になったって言ってたからなと皆が納得した表情になる。キースらと話をしたウエストは最後に


「リンドだがギルドとして何かした方がいいか?」


 それには全員が首を横に降った。


「あいつは今まで通り好きにさせた方がいいと思う。奴が作る杖は冒険者の間で好評だしな。下手にギルドから何かすると面倒くさくなってふらっといなくなっちまう気がする」


 キースの言葉にわかった。じゃあ今まで通りの対応でいいんだなと聞くとそれでいいと全員が頷いた。

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