第12話 新しい杖

「ここは俺達が住んでいる家なんだ。ここなら安心だよ」


 ランクAになると一軒家を借りて住める程になるんだと感心する。家は1階が大きな広間になっていて、テーブル、椅子、そしてソファが置いてある。各自の部屋は2階にあるそうだ。


 リンドが応接間になっている部屋のソファに座ると、


「それでその杖だけど」


 待てないといった様子でショーンが話しかけてくる。


「新しく作ってみたんだ。魔力の操作にも慣れてきたので模様を変えてみた。杖に通している魔力も以前よりも強くなってる。本人が確認したから間違いないよ」


「そりゃ凄いな。今の杖でも相当なんだけど、さらに上のクラスの杖を作っちまったのか」


「その渦巻き状の模様も綺麗ね」


 リンドがどうぞと杖を渡すとそれを手に取ってはじっくりと見ているショーンとジェシカ。それを見ていたリンド。


「実はトムの武器屋で売ってもらおうかと20本持ってきたんだ」


「えっ? 売ってくれるの?これ」


 リンドは頷くと魔法袋から杖を数本取り出す。どれも今リンドが持っているのと同じ形状の杖だ。


「本当だ」


「凄く綺麗」


 取り出した杖を見る二人、杖を使わない他のメンバーも覗き込んで見ては


「見事な出来栄えだ」


 と感心している。リンドは彼らに


「知ってると思うけど武器屋のトムは鑑定スキルの持ち主だ。これがいくらの価値があるのか見てもらわないと価格が決められないんだよ」


 頷くメンバー。


「なのでギルドで魔石の査定が終わるとトムの武器屋に行くつもりだったのさ」


 そういうとキースが


「今から行くんだろう?俺たちも一緒に行こう」


 そして全員立ち上がった。リンドとランクAのメンバー5名それとリンドと黒猫1匹はぞろぞろと市内を歩いてトムの武器屋にたどり着く。声をかけると中からトムが出てきてリンドを見るや


「おい、ご無沙汰過ぎるだろう。杖はないのかって毎日の様に客が来て困ってたんだよ」


 一気に捲し立ててからリンドの後ろに立っているメンバーに気がつくと、


「キースのパーティじゃないかよ、どうしたんだ?」


 キースがリンドと知り合いで杖を持ってきたというからそれを買おうとついてきたんだという。


「そういうことか。それでリンド、杖を見せてくれるかい?」


「今回はちょっと新しい杖にしてみた。トムの鑑定スキルで見てくれないか?」


 1本取り出して渡すとその杖を手に取ってじっくりと鑑定するトム。うーん、とか、ん?とか声を上げながら時間をかけて新しい杖を見たトムは顔をあげると、


「リンド、お前さんまた魔力が増えたのか?こりゃとんでもない杖になってるぜ。魔力はもちろん増えてるし魔法の伝導も良くなってる。相変わらずの硬さで丈夫だし、この頭の渦巻き状の模様も綺麗に仕上がってる」


 そこで一旦言葉を切るとキースを見て、お前らの前でなんだがなと言いながら、


「杖1本で金貨35枚で買い取ろう。それを金貨40枚で売る、おいキース、他の奴らに俺の仕入れ値を言うんじゃないぞ」


 その言葉を聞いても不満を言わないメンバー。今までの杖を見ていてリンドの杖がそれだけの価値があることを知っているからだ。


「金貨40枚なら今買うわ」「俺も」


 ジェシカとショーンが早速お金を出そうとしたのでリンドは慌てて袋から残り19本、合わせて20本の杖を差し出した。それらを全て鑑定したトムは


「いい仕事してるぜ。見事に同じ品質になってる。どうだ?冒険者やめて杖作ったら?これだけで大金持ちになれるぞ?」


「いや、杖作りは趣味だからさ。これからも作り貯めしたら持ってくるよ」


 そう言ってジムから杖の代金をもらう。ジェシカとショーンは早速新しい杖を手にして握ったり軽く振ったりしていて、


「握りの部分も握りやすくなってるし、使いやすそう」


「ほんの少しだけ握る部分を削ってみたんだよ、よくみないとわからないけど少し凹ませている」


 言われて指でその部分をなぞるショーン。確かに少しだけ握るところが凹んでいる。


「うん、いいね。滑らないししっかりと握れるよ」


 ジェシカとショーンの言葉に武器屋のトムもその通りだ。使い手のことをよく考えている杖だと二人の言葉に同意し、そして


「この杖は間違いなく売れる。いつでもあるだけ買取るから頼むぜ。ところでキースとコリーよ。お前さん達の武器はまだ大丈夫か? 俺の本職はお前さん達前衛のジョブの武器を作って売ることだ。なんかあったらいつでも持ってこい。修理してやる」


「わかった、わかった。そのうちに頼むよ」


 とばっちりを食らったキースとコリーが焦った声で言った。

 また来るよと武器屋を後にした一行。


「これから帰るのか?」


「ああ。ここでの用事は終わったからね。ちょっとした日用品を買ったらその足で森に帰るつもり」


 リンドが言うと


「また行ってもいいかな?」


「どうぞ、前も言ったけどあんた達ならいつでも歓迎だ。気にせずに来てくれよ」


 キースに答えると大通りで彼らと別れ、リンドは肩にミーを乗せたままで市内の店で日用品や衣料を買い足して街を出て森の中の家に戻ってきた。


 家に戻るとケット・シーの姿になったミーを見て、


「今日は静かだったんだな」


「だってリンドは間違ったことは何もしなかったしね。私は見てるだけで充分だったわよ」


「そっか」

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