第11話 久しぶりに街に出てみた

「そうそう、今の感じよ」


 目の前でランクAの魔獣を魔法で倒したリンドにケット・シーのミーが声をかける。リンドは森の奥でランクAの魔獣を相手に鍛錬をしていた。ミーの教えよろしくリンドの実力はさらに上がり、ランクAが2体までは問題なく倒せる様になっていた。


「かなり安定してきたわね。いいんじゃない?」


「そうか。ミーの指導がいいからだろう」


 そうして午前の鍛錬を終えて家に戻ると午後は集めていたエルム材から杖を作る作業をする。今までのシンプルな杖じゃなくて杖の頭の部分を風魔法で丁寧に削って綺麗な模様をつけたり、渦巻き状に削り出したり、魔力を均一に保って削り出すのは簡単ではないが訓練の一環としてリンドは失敗を繰り返しながら杖を作っていく。


「ふぅ〜、こんなもんか」


 手に取った杖はエルム本来の濃い茶色の杖で頭の部分は丁寧に削られて渦巻き状になっていて以前よりもずっと杖らしい形になっている。


 出来栄えに満足すると最後の仕上げで硬い布で表面を綺麗に擦って仕上げると、今までのとは全く違う見事な杖が出来上がった。


「いいんじゃない?私が見ても今までのよりもずっと良い出来の杖だってわかるわよ」


 いつの間にか作業場に来ていたケット・シーのミーが後ろから話しかけると


「うん。自分でも納得の出来になったよ」


 師匠に褒められてまんざらでもないリンド。この日は同じ杖を2本作り、1本は今まで自分が使っていた杖の代わりに使うことにした。


 そうして新しい杖を持ったリンドは試し打ちをすると家を出て結界の外にでる。後ろからケット・シーのミーもついてきて


「試し打ちしなくても性能が良くなってるのはわかるのに」


「だからの試し打ちだよ。どれほどよくなっているのか確認しないとね」


 そんな話をしているとランクBの気配を感じ杖を構えて待っていると木の間からランクBのオークが飛び出してきた。杖をオークに向けて雷の精霊魔法を打つとその場で後ろに倒れ込んで一撃で絶命する。


「今までと同じ魔力なのに威力は上がってる」


「当然よ。いい杖なんだから」


 ミーの言葉を聞き流して次から次と出てくるランクBのオークを精霊魔法で倒していくリンド。最後のオークは爆発して完全に身体が飛び散って絶命していた。都合5体のオークを倒すと、魔石を取り出して、


「だいたいわかったよ」


「最後はリンドの最大の魔力を注ぎ込んで倒したの?」


「そうだね」


 ここまで強くなったらランクAも完全に雑魚扱いになってるわ。リンドの言葉を聞きながらミーは魔石を集めているリンドの後ろ姿を見ていた。


 リンドはその後新しい杖を20本作成し、ランクBになって初めてミディーノの街に出向いたいった。もらった魔法袋の中に杖とランクBの魔石を入れて肩にミーを乗せて街に入るとまずはギルドに顔を出す。扉を開けて真っ直ぐにカウンターに向かうと、


「随分久しぶりですよ、リンドさん」


 受付嬢のマリーの声に


「申し訳ないね」


 そう言ってクエスト掲示板からランクB対象のクエスト


『ランクBの魔獣討伐。種族制限無し。魔石を以て討伐とする』


 この用紙を掲示板から取るとカウンターに持ちこんで、


「このクエストだけど今まで倒したランクBの魔石を持ち込んでもいいんだよな?」


「もちろんです」


「じゃあこれを頼むよ」


 袋からランクBの魔石を40個以上取り出してテーブルの上に置く。


「また沢山お持ちになりましたね」


 言いながら次々と魔石を見ていくマリー。そうして全部見終わると、


「確かにランクBの魔石ですね。ランクBの魔石は10個で金貨1枚となります。全部で42個ですから金貨4枚と銀貨です」


「ありがとう」


 代金を受け取り次は武器屋だなとギルドの出口に向かおうとしていたリンドに声が掛かる。声がした方を振り返るとそこにはキースのパーティメンバー全員が酒場のテーブルに座っていた。リンドが顔を向けると手を振ってくるジェシカとクリスティ。


「ミディーノの街に来たのって久しぶりじゃないのかい?」


「ランクBだから半年に1度クエストをこなさないと冒険者の権利を剥奪されるからさ、溜まっていた魔石を売ってクエストを消化しに来たんだよ。それより皆んなはどうしたの?」


 勧められるままに彼らと同じテーブルに座ると、


「ギルマスと話があったんでギルドに来て、それが終わって今はお茶を飲みながら雑談をしていたところさ。今日は打ち合わせだけで外に出る予定はないんだ。休養も兼ねてるってこと」


 キースがリンドに答えるが後衛ジョブの二人、ショーンとジェシカはリンドが近づいてきたときから手に持っている杖に視線を注いでいて、キースの話しが終わるや否や


「その杖」


 小声でショーンが話しかけてきた。リンドが頷いて


「そうそうこれはね」


 とそこまでいうとキースがリンドを黙らせてその場で立ち上がる。リンド以外の全員がその意図を察して同時に立ち上がるとリンドの手を引く様にしてギルドを出た。


「あそこには他の冒険者もいる。杖の話はしない方がいい」


 ギルドの外にでるとリンドの方を向いて事情を話すキース。言われてなるほどと納得し頷くと肩に黒猫のミーを乗せ、ランクAのパーティメンバーの後をついて一軒の家に入っていった。


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