第4話 〝フィオの召喚獣〟

 魔鉄鋼製の扉から現れたのは機械化された巨大な昆虫のモンスターだ。アーマードインセクトとでもいえばいいのだろうか。六足歩行で、身体のあちこちに魔導技術で作られた銃火器やそれらをコントロールする演算宝珠がついてる。頭には数えきれないチューブが繋がっており背中の演算宝珠に繋がっている。口からは酸のような涎を垂らしており、近くにいた若い魔導騎士を狙う。


「ひひえ……死にたくない。助けてください。何でも言うことは聞きますので助けてください」

『キシャアアア‼』

「や、やめて……アイアンソウルゴーレム、あの人を助けて」

『ゴオオオォォォオオオ‼』


 鉄さび色のゴーレムはアーマードインセクトの頭部を思いっきり痛打した。アーマードインセクトの背中にある演算宝珠が赤く光る。枷のように付いていた拘束具が取れて、大剣を振ろうとしたゴーレムの身体に噛みつく。


「アイアンソウルゴーレム……最大出力よ。捩じ切りなさい」

『ゴオオオォォォオオオ‼』

『キシャアアア⁉』


 アーマードインセクトの噛みついた部分は千切れて壊れており、蒸気が噴き出していた。配線も千切れた状態になっている。だが、命令を受けたゴーレムはアーマードインセクトのカマ状の前足を力任せに千切った。さらに追撃は続く。アーマードインセクトの頭に、二発、三発と拳のラッシュを喰らわせて、どんどん後退させる。


「クソ‼ 召喚士の血族は皆殺しにしろという命令なのに‼」

『キシャアアア‼』


 更に、拘束具がなくなり、動きが早くなるアーマードインセクト。ゴーレムの攻撃が当たらなくなってきた。しかし、フィオは伊達に強い召喚士ではない。ドラゴン種は召喚できないが。アイアンソウルゴーレムはそれに次ぐ強さを持つ。


「アイアンソウルゴーレム……‼ ドアの外にモンスターを吹き飛ばして……‼」

『ゴオオオォォォオオオォォォオオオ‼』


 アーマードインセクトの中足を掴んだかと思うと、思いっきり扉だった場所にぶつける。脳と腰の演算機が電流を放ちながら壊れて、火花を散らしている。アーマードインセクトの素体だった大型昆虫のモンスターも足をピクつかせながら、暗緑色の体液を漏らして床を穢す。


「お母さま、お兄さま……今のうちに逃げましょう……この人は……?」

「味方の……――魔導騎士か……弾避け代わりにはなるだろう」

「お兄さま、酷いわよ。そんな言い方ないわ」

「力があるのに人を助けない奴はクズだ。どんなに憶病な者でも雨粒ほどの勇気を見せるだけで、勇者と同じ舞台に立てる。逆もしかりさ」


 シスの言葉に納得できないフィオは口を尖らせて、そっぽを向く。非常時だというのにフィオはマイペースを貫いている。それが頼もしくもあり、何故か分からないが不安でもあった。シスの母テレシアは俯き黙ったままだ。フィオナは何度も話しかけるが、テレシアはあまり反応をしない。


「お母さん……――屋敷の外に出たら休みましょう」

「…………ええ……そうね………」

「竜王国軍なんてお父さんの召喚魔法で一撃ですよ」


 そして一階に着いた。凄惨な状況でフィオが催しかけた。魔導騎士たちが肉の塊となりアーマードインセクトの死骸と相討って死んでるのだ。シスは。いたたまれない気持ちになる。自分たちを守る為に、こんなひど過ぎる死に方をしたのだから当然だ。魔法によるものか燃え上がり始めている。


「お母さん、屋敷を出よう……――――気分がよくなるよ」

「…………シス……お父さんは……きっと立派に討ち死にしているわ」


 シスは、母テレシアがなにを言っているのか分からなかった。だが、とても重要で聞き逃してはならないと警鐘が鳴る気分だ。シスが持っている赤い魔水晶の付いた白い杖をテレシアは奪った。反論は言えぬ雰囲気をテレシアは纏っている。


「シスしっかりと宮廷を見て……」

「グレートデーモンの死骸? まさか大召喚をしても宮廷を守れなかったの?」

「もう……この国は終わりかもしれないわ。私も召喚士の端くれ。追っ手が来ることくらい予想がつくわ。時間を稼ぐから……シスは、フィオを連れて逃げなさい」


 シスは崩れ落ちて、思いっきり思いの丈を乗せた拳で地面を殴った。こんなに悔しいことがあっただろうか。召喚士の長兄として生まれ落ちて、〝ブックマン〟と揶揄された。それでもいつか、独自の術式を組んで、召喚士になってやると父母妹に気炎を吐いたこともある。


「シス……東のラナフォード公国へと逃れなさい。フィオと一緒なら可能なはずです。あともう一つ秘密にしていたことを話しましょう。シス、フィオ、あなたたちは血の繋がりはありません。シスが生まれてから二歳の頃、屋敷の前の庭に〝フィオ〟と名前が書いてあるおくるみと一緒に捨てられていたのです。魔導騎士殿……二人をラナフォード公国の国境まで連れて行ってください」

「は、はあ……分かりました」


 フィオを無理矢理連れて、竜馬がいる厩舎に向かう。すぐ近くで爆発音がした。母テレシアのことを気にしたが、シスは心を殺しながら、フィオと共に歩く。ゴーレムはとっくのとうに消えてしまった。フィオはあまりにも唐突過ぎる事実に、心ここにあらずといった表情をしている。


「フィオ……――お母さんが言ったことは……まだ考えなくていい」

「ええ……敵から逃げないとね……国境だから大森林を通ればすぐね」


 シスは、フィオの異常を感じていた。いや感じざるを得ない。フィオはさっきからずっと大粒の涙を流し続けているのだから。シスは、やや乱暴にフィオを抱きしめた。フィオの身体は見た目よりもずっと細い。血が繋がっていないという事実が本当ならば、何か決定的に価値観が壊れてしまう音が聞こえる。


『『『キシャアアア‼』』』


 三匹のアーマードインセクトが竜馬に乗っているシスたち三人んを襲う。近づかれてから事態を察知したフィオが召喚魔法を高速詠唱し始めた。


「理を紐解く我が命ずる――――――大地を断つ刃を持ちし古の巨人――――――我が求めに応じここに顕現せよ――――――アイアンソウルゴーレム‼」

『ゴオオオォォォオオオ‼』

『『『キシャアアア‼』』』


 アイアンソウルゴーレムは地下室のような狭い空間では不利な足の速さが売りのゴーレムだ。斬竜刀を持って走りながらアーマードインセクトを一匹余裕をもって切り倒す。


「これが召喚士の力……確かに一騎当千の力といえる……」

「魔導騎士さん……――名前をうかがっていいですか?」

「アイン・タースワンだ。俺はまだ魔導騎士団に入団して三ヶ月だから役立たずだぞ」

「召喚士には欠点があります。それを補うのが戦士でしょう?」


 シスが言いたかったのは、召喚士は召喚中は無防備になりやすいという当たり前のことだった。そんなことすらアインという魔導騎士は忘れていたらしい。

 二人でフィオの周りを一分の隙もないように固める。丁度アイアンソウルゴーレムが宙をかけて二匹目のアーマードインセクトを倒したところだ。このままいけばなんとかなる。


 そうシスが確信したところに現れるのは――――――だ。

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