第19話

「今日は遠慮しないで泊まっていってね♪ 部屋は、娘の部屋でいいかしら?でもヘレナちゃんもいるし、、、もしかしてヘレナちゃんが正妻?」

「そうです!ヘレナが正妻、でもお姉ちゃんも正妻なので、おにぎりが好きな人の話だと、兵隊さんの位でゆーと一緒なのです!」

「まあ!素敵ね。奥さんが二人だと孫がたくさん生まれそう♪ ケイちゃんのお嫁さんなら、もうヘレナちゃんもうちの娘みたいなものよね。もう一人娘ができたみたいで嬉しいわ!」

 お母さんはノンビリした優しそうな天然の人だった。お父さんは似たタイプだけど少し学者タイプ寄り?

「お世話になります。ヘレナは血は繋がってませんが、一緒に旅してる兄弟みたいなものです。」


「そうなの、、んー、それじゃあ客間でどうかしら?ベッドが二つあるからつなげて真ん中に何か敷けばみんな一緒に寝られるわ!」

「宜しくお願いします。それと、遅くなりましたがこれお土産です。、、、荷物を何もない所から出せるって事は秘密でお願いします。」

 家へ来る途中で分けて篭に入れておいた肉と燻製、山菜を収納から取り出して渡す。次元収納を隠してる方が面倒なのでエルティアさん達家族には話すつもりでいた。

「まあっ 凄い!昔聞いた荷物をどこかにしまえる技かしら?器用ねー。買い出しの時便利そう♪ あっ、内緒にしておくんじゃお店で使えないわね。でもお肉も山菜も凄く新鮮で美味しそう!山菜、この辺のじゃないわね? なに作ろうかしら?今夜はごちそうだわ!」

収納の話がすごい速さで流れていった。問題ないな。


 夕飯前に散歩がてら外に出て祈る。「こんばんはアマテラス様、今日はスティアの家に泊まるので一緒に夕ご飯は無理そうです。ごめんなさい」

〔大丈夫よー、気にしないで、スティアちゃんのお父さんとお母さんを大事にねー、また行ける時になったらお邪魔するわー♪〕

空に浮かぶ二つ月の隣に手を振るアマテラス様が浮かんで見えたような気がする。 返信が来るとは思わなかったけど、まあ、よしっ!


夕ご飯には早速渡した物も使ったエルフの里料理が出てきた。

料理はドイツ料理っぽい保存食多めな感じの、燻製、腸詰、提供した肉と野菜を大鍋で煮込んだスープ、ザワークラウトっぽい発酵野菜、大きくて丸い小麦とは違う粉で作ったらしいパン。マッシュポテト?等々、殆ど自家製か近くの専門個人店で作った物と地場物の食材らしい。どれも素晴らしく美味しかった。

「いっぱい食べてね♪」

「美味しいです!お兄ちゃんの料理と甲乙つけがたいのです!」

「これは旨い!熟成された、ヴァルクボアイノシシかな?それに、はじめての味だが竜種のなにか?、、、とにかく旨い。、、竜種まで狩れて幻の技まで使えるほどの男をスティアが連れて来れる日がくるなんて、ううぅ・・・」

感極まって泣き出してしまった。飲み過ぎ。手持ちの日本酒原酒を提供したのはまずかった?


「ところでスティア、ノイスイェーナの ここでしか獲れないような獲物っている?」

「何かいたかしら?」

「、、、スティアちゃんあれはどう?あの体も大きくて、大きな鋏が二つ付いてて足がいっぱいある大きい虫みたいなアレ」

眠ってしまったシルバンさんに毛布を掛けながらエルティアさんが話をふってきた。

「あーー、ルクラブ・ルブケ、日陰の湖にいる魔獣で世界樹の葉っぱを食べに水辺にも上がってくるわよ。大きい町まで持っていくと薬か何かの素材になるらしいけど、、、いっぱい獲れるから石臼で挽いて殆ど畑の肥料になってるわね」

カニかな?食べられる種類だったら欲しいな。

「じゃあ、明日行ってみて欲しい素材だった時は狩ってこよう」


朝、シルバンさんは二日酔いで潜航中。エルティアさんの作った朝ごはんを食べ、見送りを受けて出発した。

「今日は別の発着場から湖の脇まで飛ぶわ」

「発着場までは遠いの?」

歩きながら話していると、目の前の小屋脇に人が5人乗れるくらいの篭が一つ。遥か上の方の枝から垂れた丈夫そうなロープが結ばれていた。

「遠くはないけど、これで昇るのよ」

篭脇の小屋に付いていた紐を引くと鐘の音が聞こえて、篭は揺れもせずに上昇し始める。

「わおー、秘密基地のエレベーターみたいですー。」

ヘレナは相変わらず隠す気もなく、こちらでは通じない事を言っているが、スティアの方も順調にスルースキルを身に付けているようだ。善哉。

しばらく引き上げられるとワイバーンが入っているであろう小屋がいくつか立っている 昨日より大きいヘリポートのような場所に出た。

篭のロープはさらに上の方にある小屋の中へと続いている。仕組みが気になって眺めていると、

「あそこの小屋の中に巻き上げ機があって、その中で飼育している象鼠ハーティチューハが回しているのよ。歯車がいっぱいあったけど細かい仕組みはわからないわ。

あと軽い悪さをした人なんかも懲罰として入れられて補助の巻き上げ機を回してたりするみたいよ?」

太い柱に付いた棒を押して回す、件の過酷な労働装置?使用目的がはっきりしている物は珍しいかもしれない。


篭を持ったワイバーンがホバリングする。前方にいる誘導員のハンドサインに従って位置と向きを修正し、彼がしゃがんで腕を振り下ろすと同時に加速。凄まじい!Gは来ない。ワイバーンが必死にバッサバッサと羽ばたきながらスピードを上げ、発着場を離れた。


来るときと違って緩降下なのでワイバーンも楽そうだ。気分よさそうに滑空して飛んで行く。

上空から見る湖はかなり大きく、山脈と巨樹に挟まれて細長く、ソフィアの情報では幅3キロ 長さ10キロはあるとの事だった。

暫く飛ぶと 湖畔から少し離れた所に200メートルクラスの巨木が生えていた。頂上付近の発着場に着陸。篭エレベーターで地面まで直行。あとは歩いて湖畔まで2キロ弱。

まだ昼前なので、世界樹の影は湖の反対側の端にあり 時間と共にこちらへ移動してくるそうだ。今の季節に その時間までいると日陰の気温低下が激し過ぎるせいでワイバーン便が飛べなくなり 一泊コース確定らしい。

お昼少し過ぎくらいには上がると決めて出発。

ザリガニは年中いるらしいのだが、まだ寒いこの時期に漁をしようという酔狂な奴はいないらしく同道する漁師の方は誰もいない。


一枚1メートル近くある世界樹の落ち葉を踏みしめながら歩いていくと、湖畔の様子が見えてきた。重機のような物が多数蠢いていた。

2本の巨大な爪で落ち葉を器用に拾い、口まで持って行っては嚙み砕いて飲み込んでいく。その作業を繰り返す姿はまるっきり土木現場の大型重機だった。

「ロブスター!」

「エビですー‼」

重機はカニではなくてザリガニだった。だがしかし同じ甲殻類、地球では新年行事としてザリガニを食う所もあるらしいし、鑑定さんも食えると言っている。不味いわけがない。いや高級食材として扱っている国もあるらしい。


そー言えば、ソフィアさん元気?


目の前に、待機状態 の文字が入ったポップアップが表示されノイズに揺れてから消える。

「あっ、主、お久しぶりです。あんまりにも暇なので仮想空間で炬燵に入って日本から取り寄せたゲームデータを実行しながら、ポテチとみかん食べてました。 何か御用ですか?」


すっかり気を抜いて、話し方も28番目のアンドロイドの様になっていた。

「寝袋のデータも入れてもうちょっと寝ててもいいよ」

ソフィアのビジュアルデータってどうなってんだろ?頼んだら見してくれるかな?




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