第33話 奮闘の三年生(8)

 本格的に寒くなってきて、雪が降る日もある九ノ月。

 三年生以上になると希望制で参加できる、実践魔法武闘会が例年通り開催された。その名のとおり、魔法を使って戦い合うトーナメント戦である。武器はなし、魔法を使った打撃はありで、教師が魔法で造った専用フィールドで戦う。支給される防御魔法シールの持ち点は百点、攻撃を喰らえばその分減っていき、ゼロを割り込めば敗北となる。


 マリエラは勿論不参加、ヴァンは当然出場禁止、ロイも戦えるが暗殺術を披露するわけにもいかないし武闘会に興味がない。オースティンは「利益にならないことはしない」と言っていた。

 毎度白熱するこの大会、いま決勝戦の舞台に立つ二人はなんと、ソフィーとダニエルだ。


『カーター君が強いのは知っていましたが、まさかドルトンさんがここまで強いとは。正直びっくりしております。ドルトンさん、勝ったらまず誰に報告したいですか?』

 司会の放送部部長がソフィーにマイクを向けた。

『マリエラ様です! マリエラさまぁ~~~頑張りますね~~~!』

 観覧席のマリエラに向かってソフィーが元気よく手を振ってくれた。とても可愛い。マリエラも小さく手を振り返す。


「モテるねぇマリエラ」

「ちょっと恥ずかしいけれど、正直悪い気はしないわ。そこの殿下が羨ましそうにこっちを見てくる以外は」

「ソフィーさん、仔犬が尻尾振ってるみたいだもんね」

「可愛いわよねぇ」

 ヴァンの向こうに座るフィリップからの視線が気になって仕方ない。


「……フィリップ様、ソフィーがあそこで私の名前を出したのは、あなたの名前を出すわけにはいかないからですよ。分かりやすくいじけないでください」

「……いや。ソフィーは僕よりもマリエラの方が好きなんだと思うことがたくさんある」

 フィリップはボソリと呟いた。そんなに心配しなくてもソフィーはあなたのことが大好きなのに。呆れ半分、可愛らしさ半分の溜め息をついたところではっとする。


(まさか、メリバポイントが貯まっているわけじゃなかろうな!?)

 あり得る。非常にあり得る。マリエラ自身、ソフィーと自分がイチャイチャし過ぎている自覚はあった。

「まー、ソフィーさんはマリエラのこと大好きだよねぇ。マリエラもなんだかんだ言って可愛がってるし」

 ヴァンも余計なことを言う。マリエラとの仲を疑ってソフィー囲い込みエンドになったらどうしてくれるのだ。


 そうこう話しているうちに試合が始まった。二人の戦いに驚きや感嘆の歓声が上がる。

水魔法が飛んできたら同じく水魔法で迎撃して押し返す、裏をかくとは考えず二人とも兎に角アタック&アタックの戦法で派手、〝攻撃は最大の防御〟と高らかに謳っている。


「ウワォ。観戦するのに面白い決勝戦だね」

「ソフィーさん、いつからあんな戦いの申し子みたいな」

 ヒロインってあんな脳筋戦士みたいな戦いをするものだろうか。

「ああいうソフィーも素敵だ……。ソフィーはね、何度もマリエラにかばわれているから、〝これからは私がマリエラ様を護るんです。だから強くなりたいんです!〟ってよく言ってるんだよ。……ほんと、愛されてるよね、マリエラ」

「……フィリップ様? 本気で私に嫉妬してるわけ、ありませんよね?」


 マリエラは内心恐れながら聞いた。フィリップは意味深に微笑むだけだった。やめてほしい。

 三人がそんな話をしているうちに、戦闘はクライマックス――重力魔法を纏った拳をぶつけあい、ソフィーが僅差で押し負けた。防御魔法シールの残りの数値がぐっと下がり、ゼロを割り込んで破け散った。ソフィーの負けである。

 観戦席からは拍手があがり、戦い終えたソフィーとダニエルは笑顔で握手を交わし、談笑している。あの二人は気が合うようで、前からとても仲が良い。戦友と似た感じなのだろうとマリエラは思う。

 ダニエルに対してフィリップは嫉妬の目を向けないのだろうかと、ちらりと盗み見る。フィリップの瞳は、にこにこと曇りなき清々しさで二人を讃えていた。


「フィリップが嫉妬してんのはマリエラだけだかんね」

 マリエラの視線の意を察したヴァンが耳打ちしてきた。

「エッ、ほんとに如何して」

「そりゃー……。正直俺も、マリエラを獲られるとしたらソフィーさんかもって思うしね」

「私とソフィーはそういうのじゃないわよ」

「はは。マリエラたちがそう思ってんのは知ってんだけど、周りから見るとこう、一歩二歩違うんだよね? あれでしょ、大浴場でもたまにイチャついてんでしょ。知ってる」


 そう――一度洗いっこを許してから、ソフィーはマリエラの体をマッサージしながら洗うのがいたく気に入ったようで、たまにせがまれている。『まぁいっか……』と了承しているのだが――。


「な、なんで知って……」

「きみの妹のリリエッタちゃんが教えてくれた。禁断の園のようでした、って」

「な・ん・で・そういうことをヴァンに言うのかなぁあの子は!」

「妹の座をソフィーさんにとられるかも、とかも言ってたね」

 ああ、私が〝お姉様〟側なのね。じゃなくて!

 これは……いつの間にか百合ルート(仮)が新規解放されているのでは……ということは……フィリップの嫉妬および疑念によるメリバENDも、なくはないのでは……。

「殿下、結構ガチで私に嫉妬してたり、するの?」

 こそりと訊くと、ヴァンはしっかり頷いた。

 なんということでしょう。

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