第53話

「……これで、終わりね」

 ピジーは疲れたように、右手を振り下ろす。

「どう、して……」

 そんなピジーの背に、蓮人は震える声を発した。

 ピジーは小さく息を吐きながらこちらに歩み寄ってくる。血だらけになった服が、生々しく、恐ろしく見える。

「知っている人が死ぬのはショックが大きいとは思うけれど、蓮人、あいつを殺さなければあなたが死んでいた」

「…………」

 ピジーに言われ言葉を失う。

「とにかく、このことはもう忘れること」

 ピジーが言う事に、蓮人は呆然としていた。

「……ブロッサム同士が、戦うなんて……あり得ない」

「ええ。私もそうだと思う。だけど、あそこまで来たら……やるしかない」

「……っ」

 静かに、冷淡な声でそう言う。

「蓮人くん……」

 背後から声をかけてきたのは、いつの間にか変身を解いた、ラフな格好をしていたリリーだった。

「大丈夫?」

「……あぁ」

 身体的には特に問題はない。だが、心的外傷的な部分では大丈夫ではなかった。

「フェアリーちゃんも、一応無事みたい」

「良かった……」

 澪の凄まじい力で吹き飛ばされてしまったフェアリー。

「えへ……こんな姿を見せてしまって、申し訳ないです」

 苦笑しながら、よろよろとこちらに歩いてくるフェアリー。

「ほら、つかまって」

「ありがとうございます。リリーさん」

 リリーが手を差し伸べると、少し遠慮がちにその手を掴む。

「あぁ……殺しちゃったんだ」

 目の前に広がる、赤い血。

 それをたどっていくと、血を流して死んでいる澪の姿。

「……」

 それに、フェアリーは息を呑んだ。

「以前に見たことがあるけど、どうして澪は生き返ったの?」

「さぁね。やっぱり、自己蘇生能力でも持ってたのかも」

 本当かどうかは分からない。

 紫原澪は、いつ、どこで、どうやって生まれたのか。いや——作られたのか。

「……さてと。あなたたちは家に帰ってて。私は、最後にやることがあるから」

「……分かった」

 澪の近くでしゃがみ込むピジー。

 その背中に、蓮人は小さく首肯すると、フラフラになりながらも家へと向かった。



「……はぁ」

 蓮人たちの姿が見えなくなった後、小さく息を吐いたピジー。

「<ベスティア>の存在を公にしないって約束したのに……どうして」

 地面に無残に横たわった澪の遺体に視線を落とす。

「ブロッサム同士が戦うなんてあり得ない……」

 蓮人が言っていた言葉に、ピジーは同意した。

 澪は<ベスティア>を数えきれないくらい殺す存在で、ピジーは時間を操ることができた。ピジーは、その力を役立てようとした、が。

「……っ」

 同類には、時間を止めても関係ない。

「……とりあえず、このままにしてはいけないね」

 そう言って、ピジーは軽々と澪の身体を持ち上げた。

 そのまま路地裏へと向かい、静かに澪を横たわらせた。





 

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