第48話 お出かけパート2

クレープを食べたり、その辺をフラフラと歩いたり、記念に写真を撮ったり、買い物をしたり……と、色んな場所を巡っていた。

和気あいあいと談笑をしながら歩いていると、

「な……ッ!?」

視界の端に、見た事のある人物が立っている気がして、連人はすぐに立ち止まる。

身体の向きは変えないように視線だけを右の方にずらす。

そこには、緑の木が何本か生えている公園。そのベンチには、紫原澪が座っていたのである。

黒タイツに暗めのゴスロリみたいな格好で、髪をいじっている。

何も知らない人が見たら、痛い子みたいなことを思ってしまうかもしれない。

……にしても、なぜそんな格好で。

確か澪との待ち合わせは、10時である。今の時刻は9時45分。意外とちょうど良い時間……なのだろうか。

「どうしたの連人?」

「い、いや、なんでもない!で、次はどこ行く?」

場所的には離れてはいるが、澪がどれくらい視力がいいのかは分からない。だから、ここにい続けてもバレるかもしれないのだ。

連人はとっさにフェアリーの手を取り、足早で歩く。

「あ、え……?」

もちろん、これにはフェアリーも困惑気味である。なぜ手を握ってきたのだろう?と。

「んえ……っ?行きたいところは全部行ったし……れ、連人と一緒なら、どこでも」

「そ、そうか。じゃあ……1回休憩しようか」

「うん」

そう言って、右手の握る強さをより強めてきた気がする。

フェアリーの、柔らかい手の感触が伝わる。

そこから離れ、さらに奥に行った場所にあるフードコートにて休憩という建前で来た。

時間が迫ってくる。

「どうしたもんかな……」

フードコート内で水をコップに入れながらぼやく。

どう言い訳をしたら澪のところに行けるのか、と。

もういっその事、正直に言ってしまおうかとも思った。

けれど、今はフェアリーとの思い出作りの真っ最中。いわば、デートとも言えるだろうか。

まさか、妖精とデートをする日がくるなんて。

あっちも、人間とこんなデートというものをするなんて、と思っていることだろう。

なんというか、二股をしているような気がしてきたのだ。彼女がいるのに、別な女性と関係を築いている、と。まあ、ただの例えだが。

そう思うと、余計にどう言い訳をしたらいいのか分からなくなってくる。

「……あぁ!」

コップから水が溢れているのに気がついた。

「はぁ……」

急いで蛇口をしめ、並々になった水をその場で飲む。

「ごめん、ちょっとお腹痛くなってきたから……トイレ行ってくるわ」

フェアリーの所へ戻ると、あきらかに嘘っぽいことを言いながら腹の下あたりをおさえる。

「えっ?大丈夫なの……?」

「あ、あぁ……大したことないから」

「な、ならいいけど……」

連人はそう言うも、フェアリーは心配な眼差しでこちらを見てくる。……異様な罪悪感が込み上げてくる。

だが、ここでモタモタしている場合では無い。

「わ、悪い!トイレ行ってくるから、待っててくれ!」

連人は駆け足でフードコートの出口へと向かった。


「——あ、いた。蓮人」

 モールを出ると、自分の名前を呼ばれたことに気づく。声のした方を見ると、見覚えのある人物がいた。それは澪ではない。

「ピジー……なんでここに?」

 そこには、以外にもラフな格好をしたピジーが立っていた。

 蓮人がそう言うと、機嫌悪そうに腕を組み言う。

「なんで、ですって?あんた、澪と遊ぶんでしょ?」

「遊ぶっつーか、お出かけだけど——」

「同じよ」

「…………」

 即答され、蓮人は口を閉じる。

「ほら、これ」

「……なんだこれ」

 すると、ピジーがポケットから取り出したのは、小さなイヤホンだった。

 それを差し出してくる。

「いいから着けて」

「お、おう……」

 ただのイヤホンかと思えば、どうやら違うらしい。まずこいつは右耳しかなかった。

「澪が何をするか分かんないし。だから、一応着けてて」

「……は、はぁ」

 どういうことかは分からないが、とりあえず言われた通り右耳に装着する。

『こほん……どう、聞こえる?』

 すると、右耳からはいつものピジーの声が聞こえてきた。

「ああ……」

『じゃあ、そろそろ時間だから行ってきて。私は近くで見てるから』



「よ、よう……澪」

軽く息を整えてから公園へと入り、澪の前に立った連人。

「あ、連人さん」

顔を上げこちらと目が合うと、澪がにこりと微笑む。

「ちょっと……遅れた、な」

「大丈夫です。時間なんか、ただの飾りですよ」

「へ?」

「時間ぴったりに来い、なんて言ってないですから。たかが数分遅れたところで何も変わりません。そっちも、色々準備とかあったでしょうし」

「そ、そうか……あはは」

曖昧そうに笑う。

『はぁ、全く。なんでこんな奴とお出かけなんか……』

と、右耳からピジーの怪訝そうな声が聞こえる。

「……それで、お出かけって言ってたけど、どこに行くんだ?」

「あぁ」

小さく言って、ゆっくりと立ち上がる。

「ついてきて」

「お、おう……」

どこに行くかは言わずに、そのまま公園を出る。

連人は慌てて後をついて行く。

『どういうつもりなの……?』

それは連人も同感である。

歩くこと数分。

モールとは違う場所。駅の近くにあるビルに澪は入っていく。

訳が分からないままついて行っているのだが……何を考えているのだろう。

『うそでしょ……こんな場所に連れてくるなんて……』

「……マジかよ」

「さて、連人さん。私の、身につけるもの、選んでください」

そこは一般的な服屋――ではなく、女性物の下着が売っている場所だった。

そこに連れてこられ、連人はもちろんのこと、ピジーまでもが絶句させざるおえなかった。

こんな年頃の女の子が……こんな男子高校生を、こんな場所に連れてくるなんて、そういう考えがあるとしか思えなかった。

「……どうしたらいいんだよ」

小声でそう呟く。

『どうもなにも、澪の考えに乗るしかないでしょ……』

「…………」

予想していた答えだった。

「どうしたんですか?……連人さんっ」

「ひ……ッ!?」

入っては行けないと脳が忠告する。すると、耳元で澪が囁いてきた。

ビックリして1歩後ずさる。

「もー、ダメですよ。早く来てください」

「いや、あの……さすがに男子高校生は無理なのでは……?」

「大丈夫ですよ。ほーら」

「ぃ……っ!?」

以外にも力が強くてビックリした。右手をガシッと捕まれ、店内へと足を踏み入れてしまう。

その瞬間、店内にいた店員(全て女性)がこちらを見る。

となりに澪がいるからいいものの、本当にいい気ではなかった。

「うわー、全部可愛い。どれがいいと思います?」

早速、お目にかかるものがあったらしく、下着の上下を2着提示してくる。完全に大人向けの、バストがある人じゃないと合わないブラを。

「…………ま、待て待て待て。それ、大人向け――」

「あ、ホントだ。はぁ……胸がないって、辛いです。連人さんも、おっきい方が好みですか?」

「え……?」

その下着をまじまじと見つつ、こちらにも目を向けてくる。

横から見るに、それほど小さくは無いと思うが……。

「いや、それは……うーん」

正直いって、小さかろうが大きかろうが、自分にはあまり関係がなかった。

そこまで考えたことがないから。

「悩むってことは、おっきい方が好みですか……むぅ、これでも頑張ってるのにな……」

小さくぼやく澪。

諦めたのか、その大人向けの下着を戻し、自分に合うものを探しに歩き出す。

連人としては、店の外で待ちたい気持ちが100であった。


探すこと数分。

「これなんてどうでしょう?」

次に提示してきたのは、澪のバストに合う下着だった。サイズ的にはそこまで大きくもなく小さくもなく、といったところだろう。

提示されて、連人は顔を赤らめる。

シンプルなものを選んで来るのかと思いきや、レース系のものを選んできた。

すると、右耳ではなにかをぼやくピジー。

『私なら左かな……』

「え?」

『な、なんでもない!』

「……」

「それで、どっちがいいですか?」

そう言われ、もう一度見てみる。

「ど、どっちでもいいけど――」

と、言いかけたところでピジーが物申す。

『連人、どっちでもいいは、ナシだからね』

「う……っ」

そう言われ、頭を抱える。

だって、下着なんか普段見えないんだからどっちでもいいとしか言わざるおえないのだが……。

澪の顔をちらっと見ると、期待してるような顔で見ている。

……なおさら選ばなきゃいけないのか。

「……ひ、左で」

「おぉ!こっちですか、なるほどぉー」

『左……ふーん』

なんだその反応は。

「じ、じゃあ……実際に、着たとこ見てほしいな」

「え、えと……うん……」

連人が頷くと、近くの試着室へそれを持ってカーテン閉める。

……1人になってしまった。

周囲の視線がより一層強くなる。

「な、なぁピジー……今だけ出てきてくれないか?」

さすがに1人は寂しすぎる。

『無理よ。いつ出てくるか分かんないんだから』

「そ、そう言わずに――」

と、 さらに居心地が悪くなった気がした。

それと同時に、連人の肩がちょんちょんとつつかれる。

「はあ……もう、こんな場所居られないよピジー……え?」

言いながら振り向く。そこには、ピジーだと思っていたが、なぜかフェアリーが突っ立っていた。

「ピジー?ピジーは今家にいるはずだけど……」

「あ、や……うぅん」

連人は思わず口ごもる。なぜここにフェアリーがいるのだろう。

フードコートで待ってろと言ったはずだが。

いや、今はそれどころでは無い。後方にある試着室には、澪が着替え中なのだ。

こんな所で、2人を鉢合わせさせる訳にはいかない。

「えっとぉ……さすがにトイレにしては長すぎかなって思って、1人でモールを見て回ることにしたんだけど……なんで、女性物の所に?」

「…………………」

なぜか、フェアリーからは静かな怒りのようなものが出ているように感じた。

「それは、だな……ピジー、なんとかしてくれ……っ」

『あー……仕方ない。私の力、出すしかないようね』

そう言って、今までどこにいたのかは分からないが、前方からピジーの姿が見えてくる。

これでなんとか助かる――と思ったのだが。

試着室のカーテンが、開かれる。

「ど、どーかな……?」

澪が恥ずかしそうに足を擦りながら、男子高校生に生下着姿を見せつけてくる。隠すところはしっかり隠せているのに、なぜこんなにもエロいのか。

「な……なに、これ」

「い……ッ」

「えっ?」

「あー……遅かった」

周囲の温度がマイナスになったんじゃないかくらいに下がった。

「あれ、ピジーもいたんだ……」

「……ふん」

「ええ……?これは、どういう状況……?」

フェアリーの頭が混乱する。

連人とお出かけをしていたのに、なぜピジーが?なぜ澪が?

「……はいはい、もういっそのこと、2人一緒にデートタイムね」

「意味が分からんわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

意味のわからないことを言うピジーに対し、盛大に叫ぶ連人。

「……わ、私は、別にいいですけど?」

「え」

「み、澪が言うなら……私も」

「え」

「てことで、成立ね」

「え、え、え?」


結局、2人同時にデートをするという意味わからんことになったとさ。


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