第47話 お出かけパート1

 モールに入り少し歩くと、何を思い出したのか急に立ち止まる。

 「あ、あの……」

 フェアリーが、困ったように眉をひそめ、振り返ってくる。顔を少し赤らめながら。

「れ、蓮人……っ。これ」

「ん?……チケット?」

 使い慣れない言葉遣いで、そう言いながら震える手で映画館のチケットを渡す。

「……み、ミステリー」

「う、うんっ。恋愛モノよりは、こういう、ちょっと怖い感じの映画とか大人っぽくていいかなと……」

 段々としぼんでいく声に、蓮人は少し苦笑した。

「はは……フェアリーが見たいならいいけどさ」

 裏面を見ると、そこには上映時間が記載されていた。午前11時。

「上映まで時間あるけど……どうする?」

「何か食べたいな……って思ってたんだけど」

「ああ、何食べる?」

「クレープ、かな」

「はいよ。……ん?クレープ?」

 その単語に、なぜか懐かしいような感じがした。……なぜだろう。

 とりあえず、近くにあったクレープ屋に入り食べたいものを注文する。

 フェアリーはイチゴクレープ、蓮人はチョコバナナと、シンプルなものだった。

 それらを受け取り、近くの席に座る。

「あむっ……は、初めて食べた」

「え?初めてだっけ?」

「う、うん。今日が初めて」

 まさか、クレープを初めて食べたなんて……。

「どうだ?」

「美味しいよ」

 顔をほころばせながらクレープをほおばっている。……やっぱり、どこかで見たことのある光景だった。

 自分もクレープを口に入れようとした瞬間、

「んぐっ……!?」

「こっちも食べてみてよ」

 対面に座っていたフェアリーが、いつの間にか蓮人の口にイチゴクレープを突っ込んできた。

 イチゴの甘酸っぱい味に、クリームの甘味が追加され、非常に美味しかった。

「……お、おい、急に入れるなよ」

「やっぱり、蓮人と一緒で、良かった」

「へ?」

「口にクリームついてるよ」

 そう言われ口元を触ろうとした時、フェアリーの指が触れた。

「ん、美味しい」

 この感じは、恐らく恋人同士じゃないと味わえない感覚だろう。今、それに近い感覚だった。

「ね、蓮人の方もちょーだい」

「……はいよ」

「ち、違うよ」

「え?」

 そのまま手渡ししようと手を出したのだが、なぜかそれを拒否したフェアリー。

 すると、小さい口をこれでもかというくらいに開いてくる。

「…………」

 ここにチョコバナナのクレープを入れろ、という事だろう。

「はあふひて(早くして)」

「……えぇい……ッ!」

 周りの目なんか気にしない。

 その小さく開いた口に、チョコバナナクレープを入れてやった。

「んぐ……ッ。おいしー」

 さすがに急に入れすぎたか、と思ったが、フェアリーはバキュームのようにそれを食べた。

「……はやっ」

「お腹空いてたからね」

「そ、そうか……」

 口の周りをチョコだらけにしながら。

 フェアリーの顔は満面の笑みだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る