第49話 ダブル

「……はぁ」

 小さくため息をつきながら、ガクリと首を下に向けながら重い足取りで歩く蓮人。

 見ると右にはフェアリー、左には澪という、なんとも気まずい感じになっていた。

 澪はそんなことを感じさせないくらいワイワイとはしゃいでいた。

 ピジーのおかげで、なぜかダブルデートという事に。

「……あ」

 と、歩みを止め何を思い出したのか、蓮人はポケットに入っているスマホを取り出した。

 その画面上には、10時40分という時間が表示されている。

「あー、澪……悪いんだけど、俺たち11時から映画を見る予定になっているんだ。そうだよなフェアリー?」

「は、はい……っ」

 フェアリーにも確認をりつつ、澪にそのことを伝える。

「へー、何の映画ですか?」

「ええと……これだ」

 フェアリーから渡されていた映画のチケットを取り出し澪に見せる。

「あっ、奇遇ですね。私も、同じチケット持ってるんですよ」

「「えっ」」

 二人とも同じく澪の方を振り向く。

「私も時間同じです」

「「…………」」

 そう言われ、二人は顔を見合わせた。

「そ、そうか……き、奇遇だなー」

「そうですねぇ……本当に奇遇ー……」

 偶然、とはこのことなのだろうか。いや、そうじゃない可能性もある気がしてきた。

「時間もいいところだし、早く行きましょう」

「あ、ああ」

 蓮人がこくりと頷く。フェアリーは少し乗り気ではないが、三人並んで歩き出した。

 だが、澪が不意に蓮人の腕に自分の腕を絡ませ、ぎゅっと身を寄せてきた。これに蓮人は身体が硬直した。

「え、ええと……澪?何してるの……?」

「腕を組んでます」

 単純な回答だった。

「ちょ、どういうこと……?な、なら私も……ッ」

「え……」

 それを見たフェアリーも、負けじと腕を絡ませてきた。

 いつも玲華とはこんなやり取りをしているのだが……相手が変わるだけで、こんなにも新しいことを発見できるんだと思った。

 なぜか異様に心臓がバクバクなっている中歩き出す。

 そのたびに、両腕にはものすごく柔らかい何かがまとわりついてきている。

 妙に時間が長く感じる。映画館は、モール内の三階。

 エスカレーターではなく、密室度が高くなりそうなエレベーターに乗る。

 幸いにも誰も乗っていなかった。

「…………」

 三階につくまでが非常に長い。それと共に、三階までたどり着くまでに誰も乗ってこないことを祈っていた。

 また更に密着度が強くなる。

 このムニムニした感触は、蓮人の脳を破壊しにきていると言ってもいいほどだった。

「……ついた」

 長い戦いを乗り越え、ついに映画館へとたどり着いた蓮人。

 映画館で飲み物とポップコーンを人数分買い、チケットを使って席の方へ案内される。

 そこから1時間30分ほどの映画を鑑賞した。




 

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