第41話 巻き戻し

 午後、十二時四十分。四限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、先生が教室を出て行くよりも先に、生徒たちは昼食の準備を始めていった。

 がしかし、その中で一人の男子生徒は昼食の準備をせず、廊下へと歩いていく。

「あれ、蓮人、お昼食べないの?」

 その様子を不思議に思ったのか、玲華が声をかけてくる。

「あー……」

 歩みを止め、蓮人は気まずそうに頬をかいた。ピジーが準備室に来いと言い出したという事は、何かとても大事なことなのだろう。……恐らく、澪の件だろう。玲華に聞かせていいものではなかった。

「……まぁ、ちょっとな」

 蓮人は言葉を濁し、廊下へと足を動かした。

「むぅー、今日は一緒にご飯食べようと思ったのに……」

 背後に、寂しげな玲華の声が聞こえる。

「……悪い」

 蓮人は小さく首を振ると、廊下へ出て行った。

 生徒昇降口付近の理科準備室にたどり着く。

 扉をノックし、ドアを開けると。

「来た」

 先に着いていたピジーが、足を組んで偉そうな態度で椅子に座っていた。

 連人のすぐ後に、フェアリー、リリーが到着する。

 リリーが来たことを確認したピジーは、口を開いた。

「それで、リリー。朝言ってたことだけど、本当?」

「う、うん。ホントだよ」

「昨日の何時ごろ見たのかしら?」

「たしか……七時ころだったはずだよ」

「オーケー。それじゃ、行くわよ。——リワインド」


 ——気が付くと、そこは夜のコンビニだった。

 街頭がぽつりぽつりとついている中、コンビニ周辺はとても明るい。

「ど、どうしてここに……?」

 リリーが目を丸くしてピジーを見る。

「私の力。リワインド——つまり、時間を巻き戻す力ね」

 タイムリープ、ということだろうか。彼女は、時間を止めるだけでなく、過去にも行ける力を身に着けたらしい。

「言っとくけど、過去に起こったことは変えられないからね。ただ見るだけだよ」

「お、おいピジー……どこでそんな力を身に着けたんだ?」

 と、間を割って蓮人が問う。

「ふふん、秘密」

「フェアリー……どういうことなんだ?」

「さ、さあ……私にも分かりません」

 なぜピジーだけが時間を操れるようになったのかは、フェアリーでも分からないらしい。

「ここにきた理由は、私が過去に行ける力を持ったっていう自慢をしに来たんじゃないの。リリーの証言が本当かどうかを確かめるために来たの」

「そ、そうなのか」

 本来の目的は、そんな力を見せびらかしに来たのではなく、澪が本当に死んだのかを確認するためにこの力を使ったとのこと。

 ……それにしても、どこでそんな力を。

「あ、昨日の私……」

 と、リリーが唐突に指をさした。

 そちらを見ると、そこにはコンビニ袋を持ったリリーが店を出て行くところだった。

「付いて行くわよ」

 ピジーはそう言って、静かに昨日のリリーを付けていく。

 三人もそれに次いでいく。

 数分、後を付けていくと、ピタリと昨日のリリーが止まる。

 危うくぶつかりそうになったが、すんでの所で止まる三人。


「え、嘘……っ」

 

 と、何かを注視しながらそんな言葉をぼやく昨日のリリー。

 その背後から、ピジーが顔をのぞかせる。

 そこには、首のあたりから真っ赤な血が流れている澪の死体があることを確認した。

「……なるほどね」

 あまりにも現実的ではない光景に、ピジーはただ一言そう言って、ゆっくりと後ろを振り返る。

「一つ、言っとくわ。見ない方がいい」

「「え……っ?」」

 二人、同じような困惑した表情だった。

「確かに、あなたの言う通りだった。澪は、死んだ」

「でも澪は今日、普通に学校に……」

 リリーがそう言うと、ピジーは腕を組んだ。

「……それは分からないわ」

 肩をすくめて、静かにそう言った。

 と、蓮人が何か分かったかのように人差し指を立てて言う。

「あ、あれじゃないか?リリーって蘇生する力があっただろ?それなんじゃ——」

「いや、蘇生してないよ」

「……そう、か」

 蓮人の考えが外れると、昨日のリリーが何かを呟きながら駆け足でどこかへと去っていった。

「な……ッ」

 その時、見えていなかった澪の死体が露になった。

「…………」

 その姿を、蓮人、フェアリーは凝視した。

「……これ以上ここにいても意味ないわ。とりあえず帰るよ——フォワード」


 ——再び、見慣れた園江高校へと戻ってきた。

「澪が死んだ、というのは事実。じゃあ、どうして死んだのかを探さないと」

「そうだね……」

「私が考えるに、澪にも蘇生能力があるとしか考えられないんだけど……」

 フェアリーの言葉に、蓮人、リリーは頷く。

「アイツは、どうもおかしい。本当に人間なのか——別の、何かなのか」

 意味深なことをピジーは言う。

「と、とりあえず、お昼休みもあとちょっとしかないし……戻ろ?」

「そうだな……」

 リリーの言う通り、お昼休み終了まであと10分というところだった。

「……はぁ」

 小さくため息をつき、ピジーも廊下へ出た。








 

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