第40話 死の宣告

 朝、学校へ行くと、リリーと目が合ったと思ったら、こちらへ歩み寄ってきた。

「あ、蓮人くん。ちょっといいかな?」

「お、おう……」

 異様な緊張感。リリーは少し言葉を探りながらも言葉を発する。


「——澪が死んでいた」


「………………ん?」

 急に告げられる、澪の死。

 当然ながら、頭は真っ白になった。

「ど、どういう意味だ?」

「そのままだよ。澪が道端で死んでたの」

「…………」

 もう一度蓮人は目を大きく見開いた。

「と、というより、どうしてそんなことを……」

「昨日蓮人くんに電話した後、買わなきゃいけない物があって近くのコンビニに寄ったの。それでコンビニから帰る途中に——」

 澪の、見たくもないものを見てしまった、と弱々しい声で言った。

「そ、そうか……」

 このことをピジー、フェアリーにも伝えなければいけないと思い、二人の席に行こうとした時。

 ガラッと教室の扉が開き、出席簿を片手に持った斎藤詩音教諭が入ってきた。すぐに日直が、起立と礼の号令をかける。

「おっと……」

 自分の席に急いで戻り、皆と一緒に礼をして席に座る。

「はい、皆さんおはようございます。今日はいつも通りの授業日程です。今日も元気に頑張りましょう」

 起立、礼。ほどなくして、詩音がホームルームを終え教室を出て行く。

 一限目が始まるまでの少しの空き時間で、リリーと一緒に二人を廊下へと呼び出した。

「どうしました?」

「なに?」

「……リリー、よろしく」

「あ、うん。じゃあ手短に話すね。昨日、買い忘れた物があって、近くのコンビニに買いに行ったの。それで、家への帰り道で、澪が死んでたの」

「は……ッ!?」

「え、うそ……っ」

 当然ながら、二人とも同じような驚愕した顔だった。

 目を丸くし、二人は顔を見合わせる。

「ど、どういうことよ!?」

 ピジーはリリーの両肩をガシッと掴み、詰め寄る。

「い、いや、そう言われても……たまたま見ちゃった、っていうか」


「——私の名前、呼んだ?」


「な……ッ!?」

 向こうから現れたのは——穏やかな笑みを浮かべる澪だった。

「どうしたの三人して。すんごい驚いてるような顔してるけど……」

「……ど、どうして」

 一番驚いているのはリリーだった。

「なんだ……い、生きてるじゃん。私からしたらよくないけど」

 少しびっくりして目を丸めたが、すぐに視線を足元へやる。

「ん……?」

 蓮人は眉をひそめる。

 リリーが微かに眉を寄せ、澪を凝視していたのである。

 表情からしたら、そこまで変化はない。だが——なぜか蓮人には、彼女が一番驚愕していることが分かった。

「り、リリー……」

 蓮人は、小さく名前を呼ぶ。

 リリーは微かに唇を動かしたように見えたが、澪からふっと視線を外し教室へと戻っていった。

「……蓮人さん、どうしたの?」

「えっ、い、いや、今日は天気がいいなーって……そうだよな二人とも!?」

「あ、は、はい!今日は雲がなくて気持ちいいですよね!」

「え……う、うん」

 ここで、澪が死んでいたなんていう話が聞かれてはマズイ。蓮人はすぐに、そこらへんの話題で乗り切ることにした。

「そ、そうなんだー……あははっ、面白い人だね。じゃあ、一限始まるから行くね」

「お、おう……」

 とりあえず、本人にその話が聞かれることはなかった。

「澪が死んだ……へえ」

 と、なぜか変な笑みを浮かべるピジー。

「新たな力を試してみようかしら。昼休み、リリーと一緒に準備室に来て」

「準備室?なんでそこに——」

「人気が無い場所がそこしかないの。安心して、私の血はもうないから」

「……ッ」

「ほら、二人とも。もう一限始まるから行きますよ」

 フェアリーに手を引かれ、教室へと入っていった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る