第27話 新たな力

 ——何も、聞こえない。

 ただ、真っ暗な場所にいるだけ。

 歩くことも、声を出すこともできない。

 ただ、その場に立ち尽くすだけ。


「……どうして」

 床には大量の赤黒い液体。そして、動かなくなったピジーの体。

 体には、無数の弾痕が付いていた。

「なぜ逃げなかったんだ……」

 それは、自分に対しての怒りでもあり、ピジーに対しての疑問でもあった。

 気が付けば、自分の体もその液体に染色されていた。

「……ごめん」

 何もできなかった自分を許してくれと言わんばかりに、死体と化したピジーに、必死に謝る。

 血まみれになった手で、顔に掛かった髪をよけてピジーの頬に触れる。

「…………」

 いつもなら「触んな!」などと、トゲトゲしい言葉をかけてくるのだが。

「……ダメか」

 何も反応することは無かった——。



 <ベスティア>との戦いの後。

 日暮蓮人は、血まみれながらもピジーを抱きかかえ、家へと帰宅する途中。

「………」

 その貌は、とても悲しそうな、怒りのような色々な感情が混じったものだった。


「なにあれ……」

「やめろって……」

 

 すれ違う人からは、そんな声が聞こえてくる。

 だが、蓮人はそれどころではない。この状況を、フェアリーたちに報告しないといけなかった。

 もう、何も考えられない。心の中はまっさら状態。そんな中、重い足取りで歩くこと十分ほど。

「……ついた」

 顔を上げると、そこには蓮人家があった。

「ピジー、フェアリーたちに会えるぞ」

 そんな言葉をかけながら。

 玄関のドアを開ける。


「あ、蓮人さん——ッ!?」

 足早にこちらに駆け寄ってきたのはフェアリー。そして、その姿を見た瞬間、息を呑んだような音が聞こえた。

「…………頼む」

「あ、は、はい……ッ」

 血まみれになったピジーを、フェアリーに渡す。そして、見る見るうちに、フェアリーの体が赤黒くなっていく。

「れ、蓮人さん……一体何が」

「怪物だよ」

「で、でも、<ベスティア>に殺されるくらいじゃ……」

「そこに、スーツ姿の男が現れたんだ」

「……え?」

 靴を脱ぎ、よろめきながらもリビングへと向かう。

「蓮人……くん?」

 そこには、ビックリした様子のリリーがソファに座っていた。

「……れ、蓮人さん、とりあえずこれを」

「あぁ……」

 フェアリーからタオルを受け取り、軽く体を拭いてからソファにつく。

「彼女は……俺を守ってくれたんだ」

 ポツリ、とそんなことを二人に言う。

「<ベスティア>から守るために、<ネメシス>へと変身したんだ。……そいつを殺そうとした時、スーツ姿の男が現れた。奴は、攻撃が全く効かなかった。そのあと、ピジーの撃った弾丸が、こちらめがけて飛んできて……俺をかばった」

「…………ッ」

 静かにそう言った後、二人はハッとした様子だった。

「俺は……できることがなかったんだ」

「や、やめてください、そうやって自分を責めるのは!」

「うん、蓮人くんはただの人間なんだから……」

「……はぁ」

 そして頭を抱えだす蓮人。が、すぐに頭を上げ二人を交互に見る。

「……ピジーは、どうにかできないのか?」

「どうにかって……いうと?」

「君たちの力で、生き返らせることはできないのか……?」

「……残念ながら、私はそのような力は持っていないんです」

 即答をするフェアリー。蓮人は首を動かし、リリーを見る。

「なら、リリーは?」

「…………どうだろう」

 リリーはなぜか曖昧な感じでそう言う。

「……あ、そういうことか……っ!」

「どうしたフェアリー?」

 一瞬考えるようなそぶりを見せた後、すぐに蓮人を真っすぐ見る。

「以前、リリーさんには魔力に対して適正があるって言ったじゃないですか?でも、それは普通の人よりも何倍も適正があったんです」

「……というと?」

「つまり、一つの力ではなく、二つの力を備えているという事です!」

「わ、私が?」

「はい!だから、回復の力を持っている可能性があるという事です。もちろん、その力の組み合わせはランダムですが……なぜか、そんな気がするんです」

「じゃあ、ピジーを生き返らせることって……」

「可能だと、思いますよ」

 ピジーに視線を向け、ゆっくりとそう言うフェアリー。

 蓮人はそう言われ、自分の中にあったモヤモヤが消えていくのを感じた。

「では、一度ソファから立ってください」

 蓮人とリリーはソファから立ち上がると、フェアリーは空いたソファにピジーを横たわらせる。

「リリーさん、お願いします」

「う、うん……っ」

 ピジーの胸辺りに、右手を置くリリー。

 果たして、本当に生き返らせることは可能なのだろうか?



「…………」

 まだ、真っ暗な場所。

「…………あれ?」

 と、ここに来てようやく声が出せるようになったのだ。

 けれど、いつも通りの声ではなく、かすれた弱々しい声だった。

 あたりを見回してみる。すると、遠くの方で光のようなものが見える。

「……なんだろう」

 興味本位でそれに近づいてみることにした。

 数分後。

 その光はどんどん大きくなっていく——。



「…………ここは?」

 気が付くと、そこは見慣れた場所だった。

 視線を動かすと、そこには見たことのある人たちが、自分を見て嬉しそうにしている。

 蓮人、リリー、フェアリー。

 帰ってきたんだ。いつもの、場所に。

「ピジー……良かった」

 最初は疑心暗鬼だったが、見事リリーがピジーを生き返らせることに成功した。

 蓮人は、嬉しさのあまりピジーに抱き着いてしまっていた。

「ちょ、やめて気持ち悪い!」

「あ、ごめん……」

 ハッと我に返った蓮人。すぐさまピジーから離れる。

「ピジー、おかえり」

「フェアリー……どうして、私は生き返ったの?」

「それは、リリーさんのおかげ」

「リリー……あ、ありがと」

「ううん、いいんだよ。まさか、私に生き返らせる力があるなんて思わなかった」

 そう言ってほほ笑むリリー。

 それにつられ、ピジーも笑顔になった。

「ようし!みんな、今日はお祝いをしよう!好きなもの、ごちそうしてやる!」

「わー、嬉しいです蓮人さん!」

「マジ?そんなお金、蓮人くん持ってるのー?」

「大丈夫だって。ちゃんとお金はあるよ」

「……ふふっ、バカみたい」

 その様子をバカげた様子を見て、ピジーは笑みをこぼした。





 



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