第26話 妖精 対 怪物

 時刻:午後4時  天気:晴れ


 場所は違えども、見たことのある光景。

 一人の女の子が、黒い怪物<ベスティア>に立ち向かっている光景。

 ほんの数日前——同じ体験をしていた。

 だから、もう驚きはしない。むしろ、冷静な判断ができるようになっていた。


 蓮人の前に立ちはだかったピジーは、<ベスティア>を睨む。

「……私も戦う時がきたんだ。よし……ッ」

 その瞬間——見たことのない服が、ピジーの体を覆う。リリーの時のような真っ黒いドレスかと思えば、少々違う。

 右手には、ピストルを。左手には、懐中時計を。

「さ、殺ってやるわ——ッ」

 右手を伸ばすと同時に、破裂音、爆風が蓮人を襲う。


 ——だが。


「な……ッ!?」

 目を開けると、ピストルから発射されたはずの弾丸が、<ベスティア>の額スレスレで止まっているのが確認できた。

「嘘……この世で時間を止められるのは、私だけなはず——」


「まったく、これ以上被害を出さないでほしいな」


 スーツ姿の男が準備室に入るなり、その弾丸をいとも簡単に握り潰す。

「あんたは……」

「おや、こうして会うのは、いつぶりかな?ピジー」

「………」

「あぁ、またの名を——<ネメシス>、というべきか?」

「う、うるさい!あんたも、この手で殺してやる——ッ!」

「そう感情的にならないでほしいな。せっかく会えたんだ、話をしよう」

「黙れ……黙れ黙れ黙れ——ッ!!」


 バン!バン!バン!——何発撃ったかは分からない。けれども、撃った弾丸は全て空中で止まっていた。


「君も、分かってるはずだろ?——攻撃は効かないって」

「くッ……」

 弾切れとなったピストルを放り投げるピジー。——いや、<ネメシス>。

「ん?なんだ、人間も一緒だったのか」

 そこで、背後にいた蓮人を指さす男。

「……こ、こいつには、手出しはさせない……ッ」

「ははっ、人間に興味はないんだ。俺がここに来たのは、鍵を取るため」

「か、鍵……?」

「ああ、君の仲間が、魔の神の動力源でもある鍵を盗んでいったからね」

「…………」

 <ネメシス>は、その男に攻撃を与えるにはどうしたらいいか考える。

 ピストルは既に弾切れ。左手に持っている懐中時計は、本来であれば時間を止めたりする道具である。

 だから、できることはない。

 「——リバース」


「……ッ!?」

「な……ッ!?」

 

 男が右手を上げた瞬間、空中に止まっていた弾が<ネメシス>めがけて飛んでいく。

「蓮人——ッ!」

 背後にいた蓮人を、とっさにかばう<ネメシス>。

 その時、激痛という言葉だけでは収まりきらないほどの痛みが、全身に流れる。

 そして、地面に流れる赤黒い液体。


「ピジー!?」

 蓮人は何が何だか分からなくなっている中、必死に彼女の名前を叫んだ。

「それじゃ、また会おう<ネメシス>」


 そう言い放ち、男と<ベスティア>はどこかへと消え去っていった。




 

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