第5話『今後のためにキャラの好感度を上げておこう!①』

「…月2でエルガとシェヴィは街に来ているんだって。そんで今回は偶然、忘れ物を見つけたらしく届けるため妖精エルフ村を訪れたみたいだよ。はい、貰ってきたお茶菓子あげる」

「村長驚いてたなぁ、知らなかったって。……やっぱ初期位置あそこかなりの危険地帯だったんじゃないのか!?ひとつでも外れていたら詰んでたねぇ」

「う、ん……」

「異世界来て誰か特殊能力でも得たんだな、きっと。今のところ運のステータス全振りだろうけど。…ってクス、とも笑えよミッチ。さっきからずっと顔色悪いぞ?」

 クレナ、村長は気を利かせて席を外し、医務室に『異世界サークル』四人だけを残し何気ない会話で時間が過ぎていた。しかし依然、ミッチの表情は物思いで───。

「もぐもぐ、血足りてないんじゃない?…うまっ」


「………抱え込んでいても仕方ないか。実はさ、クレナさんと握手したとき、視えた、んだよね。……その、血塗れで倒れている姿を」

「??なにそれ」

って、その話しぶりじゃあ未来視みたいな?」

「……分からない。突然流れ込んできたんだ、間違いなく自分の視点から撮られた映像のようなものが。未来、なのかな」

「なして自分の、だと思ったの?」

「その映像には三人の姿があって僕は居なかった。今、考えればそう思えるけどあの時は直感で。だから、怖く、なって……」


 信じられない。でもミッチが俺たちに嘘をつく理由がない。

 そんな思考の鬩ぎ合い、ただケイゴには肩を抱えて震えるミッチがどうしても正気には見えなくて、一抹の不安を押し殺してはミッチの憂苦を取り払おうとする。

「かもしれない、は考えても仕方ない。とりあえずは傷の回復に専念しようぜ」

「どーでもいいけどさ、なんでクレナさんはミッチにだけ握手求めた?」

「……総括してだろ」

「納得いかなーい」

「勝手にしやがれ。てか、フータローはなぜ照れてる!?」

「いやぁ、『三人の姿があって僕は居なかった』って言い換えれば四人で行動が当たり前だってことでしょ?……えへへ」



 ミッチ休む医務室を離れては屋敷を見て回る。

 無神経なふたり残せばいくらか気も紛らわせられるだろう。そんなケイゴは街での滞在の認可を貰うべくクレナを探す。

 高台の一等地に建てられたお屋敷。格子窓から庭を眺めれば綺麗に手入れされている。部屋をいくつも通り過ぎてふと、疑問に思う。極端に人が少ない?

「あ」

 ちょっとした不可解を残してはT字廊下、目線の先の通路を横切るクレナの姿を見つける。あとを追い、角を曲がり声を掛けようとした瞬間、死角から腕を引かれては脇に手を差し込まれ固定。流れるように股下深くに足を入れられ脚を両足で挟むような形から踵で臀部を蹴られたら身体が前転して引き込まれる。

「うっ!?」

 回りきったところでその影はケイゴの足首付近をすくい膝を伸ばさせるように取り、胸にひきつけるようにして膝十字固め。投げからの関節技がケイゴを襲う。


「っっっ!!?」

「誰?このまま」

 ミシッ。目にかかった前髪から覗く瞳には光がなく、じっと見つめる視線には冗談一切感じない。止められなければ間違いなく、左脚が持っていかれていた。

「ローズ、客人よ。やめなさい。しかも素人にやる技じゃあないでしょう?」

「はい、バロック公爵。……命拾いしたな」

 ───小声でとんでもないこと言いやがって!!


「…ってぇ、誤解が解けたようで良かったです。そちらの女性かたは?」

「ベティ=ローズ二等級騎士。……お前の15倍は強い」

「ひとっ言、余計ですけど。勘違いだとしても謝罪はないのですか?」

「?」

 ───歩みを知らない赤ん坊のような顔!?

「まぁまぁ、そう突っかからない。それでケイゴさんはなんのご用で?」

「……街での滞在の認可を頂きたくてですね。可能でしたら図書館、本が読める場所も教えていただければとも思いまして」

「大丈夫です。後程、発行の申請でも出していただければ。……ただ図書館、の方ですがそっちの方が許可に手間取りますよ」

「教会の所有物。簡単に閲覧できない」

「……教会。教王でもいるのですか?」

 軽い冗談のつもりで投げ掛けたが話の方向が変わり、

「現在、この世界に王はいませんよ。前王が権威を失ってからその座は空席です」

「僻地の子供でも知っていることを知らない。大w丈w夫w?」

「あん?」

「あ?」

「やめなさい!……分かりました、教会に依頼状を送っておきましょう」

「……すみません。ありがとうございます!」

 互いにガンを飛ばし合い、ケイゴはクレナに一礼をし医務室へと戻る。


「どうしたのローズ?あなたらしくもない」

「警戒するのは当然。……ただ、気にくわない。しかも素人じゃないよアイツ」

「えっ?」


「久々に関節キメられた。……んだ、あの女、出会い頭にかける技じゃないぞ。ん?」

 外で人が集まり話しているようだ。使用人や警備が少なかったのはこれが理由。サボり?


 ケイゴが壁越しに聞き耳をたてるとそれは、クレナのバースデイサプライズの計画。皆楽しげに案を出し合う。

 慕われている。あそこまで他人ひとに真摯に向き合える方だ。当然といえば当然。

 少し満たされたような表情で壁から背を離し、医務室へと小走りで向かう。


 部屋の扉を開けたら喧騒。

 握手論争が佳境を迎え、過熱しているようだ。

「だから!!クレナさんの温もりが欲しいの!!」

「意味がわかんない!!」

「推しの、温もり!!」

 ついに本音が出たようで。そこからのカナの奇行は少々、目に余った。

 苦慮する暇もなく、友人に振り回される。どうしようもなく、笑うしかなく。腫れ物が取れたようにミッチからは笑みがこぼれる。


 代々、バーディネリ家が所領とするバロック州。

 そのバロックでは一大産業として騎士の育成に心血と大金を注ぎ込んでいる。剣とはこの世界で唯一、魔法に匹敵する力。

 当時、無秩序に剣を振るう荒くれ者どもをまとめ上げ、一端の剣士に仕立てた初代。その恩義に報いるべく剣士と成った者たちは敵を穿ち主を護る、騎士としての役を願った。

 瞬く間に世界へと知らしめる、バーディネリ家と守護する騎士の存在を。


 代が変わり、しばらく経つと次第にバロックで生まれる騎士の質の高さが話題となる。そこに目をつけ、各地へ騎士を派遣したところ、大活躍!!数多くの功績は外貨を稼ぎ、その育て親でもあるバーディネリ家は名誉と共に巨額の富を手に入れる。

 地位を獲得した当代はすぐさま手続きを済ませ、派遣と称してバロックで育てた騎士を輸出。好評を得て、そこから数世代、バロック産の騎士は一級の輸出品となった。そのことからバーディネリ家は公爵を名乗ることを許される。


「いいように捉えているけど人身売買だよね、それ」

「音読聴いていたのか。解釈によるだろうよ。って簡単に書斎に案内されたけど、大丈夫か?」

「……クレナさんのアルバムないかな」

 申請した許可証の発行を待ち、四日が過ぎた。その間にシェヴィの容態は安定して移動の為に村から数人が訪れる。乗ってきた竜車の荷台に医務室での環境、シェヴィをそのままを載せては一行は街を後にした。ひとりを残して。

「おれ、分かんねぇよ?クレナ様からは剣の使い方しか教えてもらってないし」

「最近、御公務からお疲れの様子で何とか息抜きにと企画した誕生日会。……きっとご自身の誕生日すらお忘れでしょう」

「どんなのがいいか聞けばいいじゃん」

「エルガくん、趣!メイド長から仰せつかったこの大役、やり遂げてみせる」

 私服に着替えたバーディネリ家使用人と妖精エルフの少年。ふたりの暗躍が始まる。























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