第2話 

 その日の夜、俺はいつも通りスマホでゲームを開いてしーたんがオンラインになるのを待っていた。


 いつもは21時からやると約束している。


 もちろん、お互いリアルの用事もあるし出来ないこともあるからそういう時はSNSで連絡するようにしている。


 でも、今日はできるみたいだ。


 ちょうどしーたんも話したいことがあると言っていたのでちょうどいいだろう。 


 今日の静川の話をどうまとめようか考えている間に『Sh1ika』というしーたんのアカウントがオンラインになった。


 それを見た瞬間、すぐに俺は招待ボタンを押す。


 そしてすぐにしーたんのキャラクターが俺の画面に入ってくる。このゲームは自分を持っている服の中から好きなように着こなすことができるようになっていてしーたんはいつも通り白を基調とした可愛い服装だ。


 ちなみにSh1ikaのiが1になっているのは、このゲームは誰かと同じ名前が使えないためこうしたのだという。


 ガサガサと少し音を立てたあとしーたんの声が聞こえてくる。


『聞こえる〜?』


「聞こえるよ〜。今日もお疲れ様」


『うん! お疲れ!』


 第一声はあまり元気のないように聞こえたしーたんもすぐに元気になった。


 もし、これが俺のおかげならすごく嬉しいな。


「早速なんだけどさ」


『ちょっと聞いてよ!』


『「あ」』


 少しラグがあるものの俺としーたんの声が重なってしまった。


 そういえばしーたんも話したいことあるって言ってたな。


「先にいいよ」


『ほんと? じゃあちょっと聞いて欲しいんだけどさ〜』


 今の所お互いに過度にリアルな話をすることはないけれど、基本的にいつもはその日の出来事とか最近ハマってるものとかそんな話しかしてない。


 きっと今日はリアルの方でしーたんに何かあったのだろう。


『学校であんまり好きじゃない……というかすごく苦手な人がいるんだけどね?』


「うんうん」


『毎日ちょっかいかけてきてさ、私がやめてっていても全然やめてくれないの』


「なにそれ。その人男?」


『そうなの〜。いつもは頑張って耐えてたんだけどそろそろ限界でさ〜』


「それしーたんのこと好きなんじゃないの?」


『え〜やめてよ! 私にはゆーくんがいるのに』


「だから言ってあげればいいんだよ。私には彼氏がいるからやめてください! って」


 俺が冗談を言うとしーたんはくすくすと笑った。


 俺もそれにつられて少し笑うと、少しだけしーたんの口調が和んだ気がした。


『それ相手がそんな気じゃなかったら私すごい痛い人になっちゃうじゃん』


「でも、今日友達とたまたま同じような話になってさ、クラスで男女がいつも喧嘩してたら両想いに見えるよねって」


 ちょうど拓実と話していた内容だ。


 確かに、俺もそう見えるし今しーたんから聞いた話だけでも男子の方はしーたんに気があるのかなと思ってしまう。


 もちろん、それは確定させられるほどの根拠にはならないけれど本当に嫌いだったらそもそも話すこともないだろう。


 ……ん? じゃあ俺と静川はなんなんだ?


『あ〜それはそうかも。私もたまに言い返しちゃうけどそういうのってあんまり良くないのかな?』


「なんか周りからはそう見えてるみたいだよ」


『えぇ〜気をつけよ〜』


「俺も気をつけないとな……」


 とりあえず最初に話したいことは話したいみたいなので俺はデュオでゲームを開始する。


 すぐにマッチングして待機場に移動した。


『え、ゆーくんも同じようなことあったの?』


「そうそう。なんかすごい馬の合わない奴がいてさ〜、なんか言ってくるから言われっぱなしが嫌で言い返しちゃうんだよね」


『わかる〜! ゆーくんって感じする!』


「あんまりそういうことやらない方がいいな〜って」


『そうだね。お互いちょっと我慢しよっか』


「そうしよ〜! もうちょっとで会えるしね!」


『うん!』


 一通り話が終わるとちょうど画面がヘリコプターに移り変わるところだった。


 バトルロワイヤルゲームは基本的にヘリコプターなどの空を飛ぶ乗り物からスタートしてそこからマップの好きなところに降りていくという遊び方だ。


 家や建物がたくさん集まっているところは激戦区と呼ばれ人もたくさん集まる。


 メリットは敵をいっぱい倒せて、その場所を制圧できれば物資が文句ないくらい集まるところだ。


 デメリットは敵が多い分自分が倒される可能性もとても高くなるということ。目の前の敵に撃ち勝ててもやり合ってる最中に撃たれたりしたら、倒されてしまう。


 だから生存を優先したい人は小さな集落に降りたりして物資を集めていくというやり方をする。


 逆に敵を倒したい人はどんどん激戦区に降りていく。


 俺たちは基本的に前者。生存優先でやるようにしている。


 理由は単純で敵が多いとどうしてもゲームの話だけになってしまうから。お互いゆったりやるのがいいよねという話なったからこうして小さい集落に降りるようにしている。


『あ、被ってるかも』


「マジか。本当じゃん」


 俺たちはいつも降りる場所の1つに降りてきたのだが、今日は珍しく1パーティつまり2人と被ってしまった。


 この集落は家が6つあって道路を挟むようにして3軒ずつ分かれている。


「じゃあ俺たちは手前降りようか」


 俺は状況を見てヘリから降りてきて道路の手前側にある集落に降りることに決めた。

 理由は相手のパーティが初めから奥に降りそうだったからのと、周囲の状況を見て手前に降りた方が逃げやすかったからだ。


 別々の家に降りた俺たちは、それぞれの家で物資を漁る。俺はいつもメイン武器で使っているアサルトライフルを見つけた。


「武器あった?」


『んーん。あったけどショットガンだけ』


 ショットガンか……。戦えることは戦えるけど近距離武器だな。

 それにショットガンは1発で倒せるのがメリットだが、1発外してしまうと次撃つまでに時間がかかってしまうというデメリットもある。


「じゃあ2人で……」


『え! うそ!』


 2人で逃げようと提案しようと思った瞬間、ダダダダッと銃声と共にしーたんの悲鳴のような声が聞こえてきた。


 画面を見ると『Sh1ika』が、ダウン状態になっていた。


 どうやら相手は武器を取って速攻でこちらに詰め寄ってきていたみたいだ。


 ダウンしたしーたんはすぐ近くにいる。


 カバーしに行こうとすると敵2人の足跡が近づいてきた。


 どうやらしーたんを確キル入れる前にこちらを倒すつもりらしい。

 ちなみに確キルというのはダウン状態のプレイヤー、つまりまだ死んでいなく蘇生できる余地のあるプレイヤーを蘇生できなくするということだ。


 他のゲームでは確キルを入れても蘇生できたりするが、このゲームにはそういう仕様はない。


『ゆーくんごめん!』


「大丈夫! 任せて!」


 俺はしーたんにそう言って敵と対峙する準備をする。今俺がいるのは2階建ての家屋の2階。


 基本的にシューティングゲームは上にいる方が有利だ。理由はヘッドショットが当たりやすいからだ。


 俺は足音を立てずに敵が寄ってくるのを待つ。


 そして1階の扉が開いた音がした瞬間俺は2階のベランダ部分から飛び降りて敵が入った扉から後ろを取る。


 階段を上がる途中だった敵1人を後ろから撃って撃破。すぐに一度家から出てもう1人からの被弾を防ぐ。


 案の定敵は俺のいたところを撃っている。


 敵がリロード、弾の補充をするタイミングで俺はもう一度家に入り一気に詰め寄る。


 階段を駆け上がると敵はまだ蘇生できていなく、丁度リロードが終わったところだった。


 俺はそのまま詰め寄って一気に銃を撃った。


 エイムはなるべく頭に向かって、とりあえず当てることだけを意識した。


「よっしゃ!」


 ――結果、俺は2人の敵に勝つことが出来た。


 まだ蘇生できる余地が少しだけあったのですぐにしーたんを助けに行く。


『え! ゆーくんすごい!』


 蘇生をしているとしーたんがすごく褒めてきてくれる。俺が敵を全滅させたりすると、すぐにこうやって褒めてくれる。


 大したことじゃないのに、すごく大袈裟だからこういうところもしーたんの好きなところだ。


「大したことじゃないって。しーたんを助けるのが俺の役目的なところあるし」


『なにそれ……』


「え、なんか変なこと言った?」


 急にしーたんの声が低くなって俺は困惑した。

 

 何か変なこと言っただろうか? もしかして今のセリフ思いの外気持ち悪かったりして?


『めっちゃかっこいい』


「なんだよそれ! めちゃくちゃビビったわ!」


 俺は少し照れながらほっと息をついた。


 なんだよ! めちゃくちゃ可愛いじゃん!


 そんなことを思いながらゲームを続けた。

 この時にはすでに静川で溜まったイライラは少しも残ってなかった。



 


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