不思議なお茶会と破滅の弾丸⑰
話が終わってぼーっと椅子に座っていると、力が髪の毛を拭きながら結紀の前に座った。
「なんか疲れてない?」
「いや別に。それより、リッキーめっちゃ甘い匂いする」
「ああ、椿? うちの家椿の匂いのもの使ってんだよ。結紀も風呂行ってこいよ、タオルは出してある」
「いやいや、泊まるわけじゃないんだし悪いよ」
そう返すと力は何を言ってるんだという風に首を傾げている。
「泊まりだろ? 結樹にも言ってあるけど」
「聞いてない」
「今言った」
椿の甘い匂いを振りまきながら、髪の湿気を取っている力に一瞬殺意が湧く。
しかし、結紀も炭酸でベタベタした身体とはおさらばしたかったので大人しく風呂を借りることにした。
「そういや、結紀の治療にうさぎが当たってたの知ってるか?」
「知らないけど。なに、透ってそんな昔からおれのこと知ってたの?」
風呂場へと案内されながら力が投げかけてきた言葉を受け止める。
「まあ、そりゃ」
「なんか言いたくなさそう」
「色々あんだよ。それより、お前明日から大変だぞ」
「また?」
力は風呂場の扉を開けて、結紀を中へと押し込む。
バタンと音を立てて閉まったドアに何故か鍵を掛けているのが見えてしまって困惑する。
「現実世界の調査が始まると思う」
「え、現実世界の?」
扉に耳を当てて力は小声で言う。
それほどまでに聞かれたらまずいことを言おうとしているのだろうか。
思わず息を飲むと、力が扉から耳を離した。
「一応、個人情報保護があるからな。同業者でも全部は聞かせらんねえ」
「じゃあ、東支部でやんなよ」
「明日、多分あいつ来るだろ。早めに話して起きたい」
あいつって誰だよとは聞かずに力の顔を見る。
力は結紀に近付いてぽつりと呟いた。
「アリス世界で情報が取れない時は、現実世界から情報を取る。ただ、怪しまれないように細心の注意を払う必要はあるけど」
瑠奈の世界を思い出しながら確かにと頷く。
あの世界で情報を取るのは少し考えただけでも分かるほどに難しいだろう。
「母さんから聞いたろ? お前の父親は現実世界で情報を取るのが上手かった。だけど直ぐにお前も出来るとは思ってないから、とりあえず、遥日さん見とけ」
「分かったけど、誰にも聞かれないようにする必要あった?」
「その話はこれからだろ」
力は息を吐き出すと、少しだけ目を逸らしていた。
「東原瑠奈の周りの人間が数人消えている」
「それって……」
アリス世界に巻き込まれて死んでいるのか。
しかし、瑠奈はアリスケースにすぐ運ばれているはずだ。
「気をつけろよ、結紀。……嫌な予感ばかり増えていく」
力はそれだけ言って風呂場から出ていった。
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