力の家

不思議なお茶会と破滅の弾丸⑯

 力の家は閑静な町中にぽつりと立っている一軒家だ。


 窓から漏れ出る灯りを頼りに玄関へと向かうと、力はただいまと言いながらドアを開けた。

 その勢いに乗って結紀も中に入る。


「おかえり力。久しぶりね、結紀くん」


 エプロン姿の女性は力の母親だ。名前はなんだったか覚えていない。


「お久しぶりです、力のお母さん」


「なんだよ似合わねー、エプロンなんかして」


 力がそう言いながら母親の横を通ろうとする。


 まっすぐ真横に母親のパンチが飛んで、力は壁にぶつかった。


 母親の方は終始笑顔のままである。


「いってえ……」


「あら、結紀くんびちょびちょじゃない! 力、タオル持ってきて」


 実の息子の痛がりようは無視して母親はそう言った。


 やれやれとばかりに向かっていく力が居なくなってから、母親は結紀に振り返る。


「これ使って? ちょっとお話しましょ」


 そう言って渡されたのは水色のタオルだ。それを受け取って身体を拭く。


 力に取りに行かせたのはなんのためだったのだろうか。


「結紀くんの両親のこととかお話しましょうね」


 靴を脱いで中へと入る。


 リビングへと誘導されながら辺りを見回す。


 甘い匂いのするリビングへと入り、椅子に座った。


「……アリスケースには慣れた?」


「まあ、そこそこです。知らなかったことが沢山で……」


「でしょうね。結紀くんのお母さんは何も教えなかったみたいだし」


 そう言って結紀の前に座った力の母親は、力によく似ている。


 昔は陸上部のエースだったと聞いたことがあるが、事実はどうか知らない。


「あの、リッキーって中央に行きたいんですか?」


「力が? ああ、それは……その話をするなら、昔話をしなくちゃね」


 母親はゆっくり微笑むと、タオルを取りに行った力に対して、お風呂も入んなさいと叫んでいた。


 力の返事を待ってから、母親が話の続きを始めた。


「うちは、父親の方が中央勤めだったのよ」


「だった?」


「中央に消されたから、もう居ないわ」


「消された……」


 中央に消されたというのはそのままの意味なのだろうか。


 遥日の傷跡を思い出しながら、顔を下に向ける。多分、中央なら人一人消してしまうことも容易いのだろう。


「でも、その前から夫の方がおかしくなってた。……泉を信仰するような、そんな感じだった」


「信仰って、神でもあるまいし」


「神なのよ、あの男は」


 首を振ってなんでもない事のようにそう告げられる。


 人間が神なんて名乗ることは許されるのだろうか、いや許されないだろう。


「アリスケースにとっては、神のような存在。

 命令を降し、邪魔になる者は排除する。

 それが唯一許されているのが、泉という人間よ」


 暴君みたいなと抱いた感想はきっと間違えてはいない。


 そもそも許されているとはどういうことなのだろうか。


「王戸のことは王戸にしか分からない。

 正しくそうね……北の王戸も何考えてるか全然分からないもの」


「北……」


「あら、言ってなかったかしら。私は北支部所属なのよ。でもまあ、関係ないかしら」


 そう言って力の母親は話の続きを始める。


「力は父親の死について知りたがってる、それには中央に潜り込むしかない。私としてはあまり触れて欲しくはないんだけどね」


 力の父親が死んでいることは結紀は知らなかった。


 驚いて目を見開いていると、力の母親はゆっくり微笑んだ。


「少し話しすぎちゃったかしら。続きは力に聞いてちょうだい。それより、結紀くんのこと話さなきゃね」


 力の母親はそう言って言葉を続けた。

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