不思議なお茶会と破滅の弾丸⑬

 結紀はさっさと巻き込まれないようにオペレーター室へと向かう。


 廊下の窓から見える光景はすっかり真っ黒だ。


 しかし、何故六時という縛りがあったのだろうか。


 シミュレーションの時はもっと遅かったような。


 オペレーター室へ入って結樹の側へと行く。


 耳につけている通信機を外すように言われて、直ぐに外して結樹へと渡した。


「明日からは本格的になるぞ、頑張れよ結紀。まあ、六時までの間だけどな」


「なんで六時?」


「あれ、聞いてない? うち仕事はシフト制なんだけどさ、一般業務は六時以降もやるけど、シフトが入っていようがなかろうが、アリス世界に潜るのは六時までって決まってんだよ」


 決まりなら仕方ないかと考えながら、続きを話そうとしている結樹を待つ。


「アリス世界は夜が深ければ更けるほど強くなるから、基本は夜に侵入禁止な。シミュレーションは別だぞ、そういうプログラムならまだしも、基本適用されないから」


 夜は強くなるから入っては行けない。


 よく覚えておこうと呟いて、先程透が怒られていたことを思い出す。


 確かにあのままアリスが強くなっていたら戦闘技能のない結紀は死んでいたかもしれない。


 そう考えると透のしたことはかなり重罪だ。


「透はいざとなれば自分が迎えに行けばいいと思ってるからめちゃくちゃなんだよやること。だからクソうさぎなんだよな」


 傍で話を聞いていた力がそうつけ加える。


 どうやら自分で透の名前を出して腹が立って来たらしく、いらいらしているのが伝わってきた。


「結紀は今日は上がりだな。力も帰れ。俺は夜勤だから一緒に帰れないけど、ちゃんと食うんだぞ」


 結樹にそう告げられて、アリス世界に入っていた疲れが一気に押し寄せくるのを感じた。


 どうやら仕事が終わったと思い込んだ身体が疲労を一気に放出したらしい。


「俺も能力使えないし帰るかな。結紀、うち来るか? ご飯食べるだろ?」


「いや、悪いよ。こんな時間からお邪魔するのもなんだし」


「治療って言えばうちは伝わるぜ? つか、結紀が来るものだと思ってもう連絡しちゃった」


 スマホの画面を見せつけられて確かに連絡されているのを知る。


 しかも、既読済みで了承の意を伝えるスタンプまで送られている。


「力の家か。結紀迷惑かけんなよ」


「大丈夫だって、気をつける」


「どーだか。お前まともに人と付き合ったことないもんな」


 アリス世界での話を持ち出されているようで、結紀は小さく唸る。


 先程の話は完全に失言だった。


 それまで画面に集中していた日井沢がこちらを向いて、頑張れと応援してきていた。


「おれだってできますから! ではさようなら!」


「結紀くんまた明日」


 勢いに任せて振り向くと遥日と透がいた。


 どうやらこってり絞られたらしくヨボヨボになっている透がいる。


 そうはなりたくないので挨拶だけ交してオペレーター室から出ていった。


 廊下に出て暫くしてから力が口を開く。


「こっわ、なんだあれ」


「遥日さんの逆鱗に触れたみたい」


「だから怒らせるなって、あの人仕事に関してはほんと鬼のようなんだから……」


 この間、力も怒られていたよなと思いながら頷いておく。


 とりあえずは何も言わぬが吉だ。


「プライベートはそんなでもないけど、仕事はすげえキレるから。まあ、何か起きた時の全責任を負う立場だから仕方ねーけどさ」


「全責任? あれ、茜さんが負うんじゃないの?」


「総責任者は遥日さんだぜ?」


 支部長がこの支部を回しているものだと思っていたが違ったらしい。


「王戸の人間は全ての責任を負う立場にある。アリスケースの常識な」


「へえ」


 まだまだ知らないことだらけだなと呟いて外を見る。


 すっかり暗くなって居るがまだ、春先なのもあって明るく見える。


 少しだけ肌寒さを感じながら外へと出ると、結紀はスマホを持っていないことに気がついた。


 力に待ってて貰いながらスマホをロッカー室へと取りに行く。


 これから向かう力の家は、数年単位で久しぶりだ。


 結紀がアリスにかかって両親を失ってから何となく避けていたので、緊張する。


「なんかやだな」


 小さく呟いた。

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