不思議なお茶会と破滅の弾丸⑭

 誰もいないロッカー室でスマホを探す。


 どのロッカーにしまったっけと呟きながら探していると、誰かの忘れ物を見つけた。


 週刊誌、しかも男子が特に好きそうなを見つけた時、結紀はそのロッカーを閉めた。


 誰がこんなものを持ち込んだのか。


 むず痒い気持ちになりながらロッカーから離れると、誰かが走ってくる音が聞こえた。


 勢いよく開けられたドアと同時に叫びが飛び込んでくる。


「しゅーかんし! 週刊誌俺の! 見た?」


「えーと、はい」


 結紀がそう告げると項垂れた卯宝はロッカー室へと入ってきて鍵をかけた。


 そして外の様子を伺うと、結紀に近づいてくる。


「絶対遥日に言うなよ」


「……はは」


 バレたらドヤされるからなと呟いている卯宝に思わず持ち込んだ方が悪いと言いかけるが、留める。


 しかし何のために鍵をかけたのか。


 あ、スマホ。


「じゃあおれはこれで……」


 卯宝から離れて立ち去ろうとすると、急に卯宝がこちらを振り返った。


「まてよ。ちょっと話をしようぜ」


「おれには話ないです」


 力も待たせてるしと付け加えて出ていこうとするが、目の前を塞がれてそれが叶わない。


 一体何の用だと言うのだろうか。


「遥日のこと聞きたくて」


「おれに?」


「ああ。教育係としての遥日について聞きたい」


 ため息をついてから真ん中に置かれていたベンチへと座る。


 卯宝は未だにドアを塞いだままだ。


「なんのためにですか?」


「これは俺の仕事だよ。人間関係の調査ってやつ?」


「遥日さんのこと聞きたいだけじゃなくて?」


「それもあるけど」


 言葉尻を濁した卯宝に違和感を感じながら、何を聞きたいのか問いかける。


 卯宝は少し悩んだ後、言いたくなさそうに呟いた。


「王戸家としての遥日が、教育を間違えていないか」


「それってなんですか?」


「まあ、お前は質問に答えるだけでいい」


 そうは言われてもなんだか話ずらい。


 他人の評価を委ねられるのも嫌だが、あまり東支部の人を悪くは言いたくない。


「遥日は怖いか」


「優しいですよ。まあ、怒らせたらやばいみたいですけど」


 怖いかと聞かれて直ぐに口をついて出たのはその言葉だった。


 怒らせるのは怒らせるようなことをした方が悪い。


 今まで見てきた感じは、どちらも透や力に非があった。


 卯宝はその言葉に安心したようで話を続ける。


「優しい、な。昔からそうだよあいつは。もう一つ、あいつ何か隠していないか」


 隠し事と問われて直ぐに浮かぶのは、全てを曖昧にして避けようとする姿だ。


 困った時は笑顔で牽制してくる。


 でも、隠し事のない人間なんているのだろうか。


「それって何を聞きたいんですか?」


 質問の意図が分からずにそう問いかけると、卯宝は首を捻って唸り始める。


 そんなに言いづらいことを結紀に聞こうとしたのか。


「東支部を壊すような秘密を持っていないのか聞きたい」


「そんなの知るわけ……あ」


「何か知ってるのか」


 秘密というほどでは無いが、一つ気になっていることがある。


 気をつけろという割に親しく呼び、どこか懐かしむ名を。


「王戸泉ってなんですか」


「泉……!?」


 驚いたようで固まった卯宝に問いかけてはダメだったのかと思う。


「よく名前が上がるから」


「……泉は、王戸家当主。中央代表」


「すごく偉い人?」


「すごく最悪な人」


 肩書きだけ聞いているとかなりの権力者だが、力や遥日が警戒するほどだ。


 何かあるに決まっている。


「遥日の教育者だよ、王戸泉は。俺は嫌いだけど」


「教育者、えっ、尚更遥日さんはなんで東にいるんですか」


「しらねー、でも来た当初はすげえ荒れてたぜ」


 荒れている遥日が想像できなくて唸ってしまう。


 卯宝はそのまま話を続ける。


「俺達は泉を好きになることは無いが、遥日はやっぱ特別なんじゃねーの?」


 多分そうと確信を持った言い方をした卯宝は、泉なあと呟いた。


「なんて言うかさあ、良心とか優しさとか全部捨ててんのが泉なんだよな」


「全部捨ててる……」


 そんな人間が居てもいいのかと呟けば、卯宝は居るんだよと呟いた。


 そんなもの全てを捨てなければ立てないほどの中央の地位なのだろうか。


「最初の頃の遥日はやばかった。

 あれが泉のやり方だって分かったあとは、東の連中はほとんどが泉を嫌いになった。

 日井沢さんとか、親族連中は違うけどさ」


 卯宝は嫌なことを思い出したようで唇を噛み締めている。


 何を返すべきか分からなくて口を閉ざしたまま、次の言葉を待った。


「遥日とは高校の頃に一度離れてるから、俺より息吹の方が詳しいんじゃねーかな」


 卯宝はもう行っていいぜと言いながらドアを開けた。


 スマホを手に取って結紀は立ち上がる。


 力が外で待っている。


「……じゃあ、お疲れ様です」


 卯宝は結紀の言葉を聞いて手を上げた。

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