帰還と現実世界へ
不思議なお茶会と破滅の弾丸⑫
遥日の言葉を最後に目の前に広がる光景が病室のものになる。
どうやら現実世界に戻ってきたらしい。
行きと違い帰りは随分と急である。
透は戻ってきていることを確認したあとポツリと呟いた。
「……五体満足だな」
残念そうにそう言って透は顔を上げた。
「なんか、残念そうだね」
「いや、別に?」
「いやいや……」
しまった悟られたかという顔をした透が、気まずそうに顔を逸らす。
五体満足だと不満があるのかと呟けば、五体満足じゃなかったら困ると返してきた。
ならばなぜそんな顔をしているのか。
「アリスとは戦ってないよ。だからまだ仕事は終わらない」
透のその表情の意味を理解した遥日がそう告げる。
「じゃあまだ続くんだ」
その言葉を聞いて、アリス世界が無くなっていないことを残念に思ったのかと気がつく。
しかし、五体満足と言った後にあの表情は色々な誤解を招くからやめた方がいいだろう。
「そういうところが嫌いなのかな」
「そうなんだと思う」
力がなぜ透を嫌いなのか考察するとそう返ってきた。
そう思うのならば気をつけて欲しいが、それが出来ないのもまた透だろう。
「アリス世界は時間の感覚があやふやになるから、倒れる前には帰ってこないとね」
「まあ、倒れた方が連れて帰りやすいっすけ
ど」
「透くんは、仕事めんどくさがりすぎ」
「まあ、めんどうっすから」
やる気のなさそうな透の話を聞きながら結紀は力のことを思い出す。
仕事に熱心で出世を目指す力と、めんどくさいと手を抜く透では相性が悪いのも無理はないだろう。
「透はそこまでやる気がなくて大丈夫なの? 学校ではもっとやる気あったよね」
学校での透はもっとテキパキと仕事をこなしていたが、ここでの透を見ているとそれすら嘘だったかのように見える。
「仕事はめんどい」
透はそう言うと欠伸をしながら部屋を出ていこうとする。
なぜだかとても急いでるように見えた。
そんな透のことを遥日が引き止める。
「待って。透くんのお仕事言ってみて?」
透は不自然に首を動かすとこちらを見た。
その顔には脂汗が滲んでいる。
「……えーと」
「言ってみて?」
圧を掛けられ直した透はロボットのようなカクカクした動きをしながら敬礼した。
「六時までに帰還させることです」
「今何時?」
確か遥日が七時と言っていたようなと呟くと、透が更に背筋を伸ばす。
そしてカクカクしたままお辞儀をした。
こんなに綺麗な九十度初めて見た。
「今、何時?」
笑顔の遥日に再び問い掛けられて透は少しだけ顔を上げる。
「七時です……」
「君の仕事は?」
「六時までに帰還させることです」
「僕が言いたいこと、分かるよね?」
はい、もちろんです。
と言う透は先程までのいい加減さが嘘のようだった。
「結紀くんは、先にオペレータールームへ行ってて? 僕は透くんとお話してからいくね」
圧を掛けられている透にファイトと目線で伝える。
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