不思議なお茶会と破滅の弾丸⑪

 結紀は遥日の言葉を静かに待つ。


 やっと離れてくれた。


「ブラッディに突然変異する条件を満たしている時点で破壊するしかない」


「突然変異? 条件?」


 結紀の問いかけに遥日は答えない。


 直ぐに聞き出そうと動くが遥日は話す気がないようでゆっくり笑うと、結紀のことを牽制してくる。


 何も言わずに階段へと向かっていく遥日を追いかける。


 少しの間の付き合いではあるが、遥日は何も答える気がないと何をしても話してくれなくなる。


 そういうところがずるいと感じた。


 何れ結紀は遥日の隠したことを全て暴いてやろうとは思っている。


 それが何時になるのかは分からないが。


「階段、お菓子でできてる」


 遥日の言葉で目の前の階段を見ると、クリスマスによく見かけるブッシュドノエルと、クッキーで装飾されていた。


 階段の部分はブッシュドノエルで出来ていて、これに足を載せても大丈夫なのかと不安になる。


 そんな不安を抱えている結紀を置いて、遥日はブッシュドノエルへと足をかけた。


「うん、問題ないね」


 遥日はそう言うとどんどん上がっていく。


 どうやら安全なようだが、こういう時の遥日の行動力には怖いものがある。


 まるでそう教育されているかのような安定感を持っている。


 遥日の後を追って階段を登ろうとすると声がかかった。


「結紀くん、待って」


 上まで上がった遥日から登るなと牽制される。


 何か変なものでも見つけたのだろうか。


 次に遥日から許可が降りるのを待っていると、遥日は何かを見つけたようで静かにこちらに戻ってきた。


「アリスがいる」


「え、それって……」


 巡回者のアリスがいるのかと警戒していると、遥日は首を振った。


「花園がある」


「それってアリスの治療ができるかもってことですか?」


「いや、無理だよ。

 情報が無さすぎるし、ブラッディの可能性がある以上はもっと慎重に動いた方がいい」


 アリスの花園は最終的なゴール地点だ。


 しかし何も分かっていない今治療することは出来ないだろう。


 メモ帳をちらりと見てみるが、特に反応はなかった。


「とりあえず、本格的な探索は明日にして、今日はもう帰ろう」


「え、でも早く治療しないとダメなんじゃないんですか?」


「アリス治療は正確に。が原則だから。

 不思議の国の命を危険に晒す可能性は潰した方がいい」


 階段を降りてきた遥日の後に続いて元来た道を戻っていく。


「それに今現実世界が何時だか知ってる?」


「え、分かりません」


「そっか、さっき通信繋がらない時間があったんだもんね」


 時計塔の前まで戻ってきて遥日は結紀の手を取って、立ち止まる。


「今、夜の七時だよ」


 遥日の言葉と同時にアリス世界が溶けて、現実世界へと戻っていくのが分かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る