不思議なお茶会と破滅の弾丸⑩
【当たり前は当たり前ではない】
メモ帳に書かれている文字の意味が分からない。
当たり前とはなんだろうか。
ケーキバイキングに当たり前なんてあるのだろうか。
メモ帳に問いかけると、少し間を開けて【最後に選ぶものはなに?】と書かれていた。
最後と言われて結紀が選ぶのはチョコレートケーキだ。
けれどもそれは多くの人が同じであろう。
チョコレートは多くの人は目を惹かれるだろうが、【当たり前は当たり前ではない】のなら、チョコレート以外を選ぶべきだ。
黄色い布でおおわれた机に向かい合いながら机の上を見る。
置かれているケーキは、フルーツ、チョコレート、チーズ、ショートケーキだ。
この中で重いものと言われて真っ先に思い浮かぶのはチョコレートだ。
しかし、チーズやショートケーキも重いものと言われれば結紀の中では大差はなく出てくる。
クリームが重いのは当たり前だろうし、チーズは味が濃いから重いだろう。
つまり最初に可能性を除外するのはフルーツだ。
この中で一番軽いものはフルーツケーキだろう。
メモ帳を開いて、フルーツケーキを除外することを決めると、メモ帳には【フルーツケーキは軽いもの】と現れた。
結紀の思うがままにメモ帳に伝えていく。
【アリスは好きな物はどんなものでも最後に食べる】と書かれていることに気がついて結紀は目を見開く。
瑠奈の好きな物など知るわけが無い。
なんて難しいことを言うのだろうか。
そう考えていると、メモ帳に【目に見えるものが正解では無い】と書かれていた。
そこで結紀はようやく気がつく。
先程まで、目の前にあるものに正解はなかった。
そのことを考えると、この机の上に乗っていて、目に見えているものに正解はないのではないだろうか。
それでも答えにはなかなかたどり着けない。
「瑠奈の好きな物って言われても」
話したこともないような相手の好きな物を探すのは困難だ。
最後に見たのはケーキバイキングの時だがあの時、瑠奈の手元までは見ていなかった。
結紀は、メモ帳に語りかける。
「好きな物ってなんだよ。相手の好きな物なんて、今どうやって調べればいいんだよ」
ピクリとも反応しないメモ帳に裏切られたような気分になりながら、メモ帳を閉じようとする。
閉じようとした瞬間にメモ帳に文字が浮かび上がる。
【異質のアリスが望めば現れる】
結紀はその言葉から、以前証明しろと言われた時のことを思い出した。
結紀の欲しいものを持った人を想像して作り出した。
今回も同じことをしろというのだろうか。
「……試すしかないよね」
瑠奈の情報を持っている人と考えて、それだと情報が広すぎると考え直す。
もっと最適で今この状況でも活躍できるような存在。
「瑠奈とよくケーキを食べて、仲が良くて……おれのことを知っていること。
警戒心がない子がいい」
そう望みながら目を閉じると、急に背中に衝撃が走った。
何事かと思い目を開けると、そこには少女がいた。
何者なのか分からないが、結紀の望んでいた警戒心の薄そうな子だ。
「ね、結紀何してるの?」
「え、えっと」
楽しそうにそう問われて結紀は思わず挙動不審になってしまう。
その様子を見ながら少女は更に笑顔をうかべた。
「あ、わかった。何か捜し物でしょ? 手伝うよ!」
少女はそう言うと結紀の手を引いた。
そこで結紀は手元にあったはずのメモ帳が消えていることに気がついた。
メモ帳が消えて、現れた少女。
そこまでたどり着いてから結紀は初めてこれが自分の望んだものであることに気がついた。
証明写真を持っていたクラスメイトと同じで結紀の望み通りに行動している。
そういえばあの時メモ帳は持っていただろうか。
「手伝ってくれるなら……瑠奈の好きなケーキを教えて欲しい」
少女は目をぱちぱちと動かしたあと、結紀の手を引いてチーズケーキの置いてある場所へときた。
まさか、チーズケーキが好きなのかと顔を上げると、少女はゆっくり指を指す。
その方向にはチーズケーキがあるが、これと問いかけても反応がない。
ということは、チーズケーキは関係がないのだ。
チーズケーキを乗せている台を見たり、チーズケーキを避けていると、少女に背中を引っ張られる。
少女は首を振ると、チーズケーキを指さした。
「……まさか、中に入ってるとか言わないよね」
「そうだよ?」
「まじか」
言われるがままにチーズケーキを手に取って半分に割る。
少女はその光景を見ながらゆっくり微笑むと、結紀の割ったチーズケーキをひっくり返して、下の生地の部分だけにした。
「瑠奈が好きなものはタルト。
この店のチーズケーキは、タルト生地でできてるの。
でもこれじゃあ、ケーキとは呼べないわ」
少女はそう言って生地に触れる。
すると生地は形を変えて丸くタルトの形を成す。
それを持った少女は、フルーツケーキへと向かっていく。
「ここで正解できるのは、
不思議の国だけ。
さあ見せてよ、綺麗に飾り付けて瑠奈を喜ばせて見せて」
少女の言葉に従ってフルーツをタルトへと乗せていく。
様々なフルーツを乗せていくと形だけは、フルーツタルトと呼べるようになってきた。
それを近くにあった皿の上に乗せるとピンポンと音が鳴って鉄格子が解除された。
「私とはここでさよなら、またね結紀。今度はもっと別の姿で合わせてね」
少女はゆっくり微笑むと形を溶かしていく。
そして光に包まれて結紀の手元にはメモ帳が帰ってきていた。
「まさか」
このメモ帳があの姿に化けていたのだろうか。
そんなわけが無いかと呟いていると、遥日がこちらに向かっているのが見えた。
「遥日さん」
「結紀くん! 大丈夫だった!? 突然分断されるとは思わなくて、やっぱり武装させるべきだったよね」
焦った様子の遥日に大丈夫だと何度も伝えながら、メモ帳をしまった。
それと同時に耳元で声が聞こえる。
「……結紀」
「結樹? 何」
「いや、無事で良かった」
結樹はそう言うと静かになった。
どうやら心配してくれているようで少しだけむず痒くなる。
「結紀くんが頑張ってくれたから、先へのドアが開いたみたいだよ」
奥の方を見ると最後の机の後ろに階段が現れていた。
どうやら先に進むためにはあの階段を登る必要があるらしい。
遥日に無事を確認されながら、結樹達の動向を伺う。
怪我がないのか確認されているが、もうそろそろやめて欲しい。
「遥日さん、大丈夫ですから」
「うん。そうだよ、そうだよね。
……やっぱり今回のアリスは壊そうか」
「いやいやいや、極端な」
「他人に危害を加えて生きていられるとは誰も思ってないさ。それに……」
それになんだ。
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