不思議なお茶会と破滅の弾丸⑨
赤い布でおおわれた机を見回すと、そこにあるのは一目で分かるほどにチョコレート系のものばかりだ。
チョコレートフォンデュタワーも存在していて、結紀は思わず唸ってしまう。
ここにあるものはどう見ても、最後に余裕があったら食べるぐらいの重いものだ。
結紀も最初にこのケーキを選ぶことは避けるぐらいのハイカロリー商品。
プリンの次に来るようなものではない。
ケーキバイキングが好きな人がこんな風にハイカロリー商品を選ぶのだろうかと疑問に思う。
もしかしたら、瑠奈はそこまでケーキバイキングにこだわりはないのかもしれない。
けれどもケーキバイキングが実際に出てきているので、こだわりがないと思うにはまだ早すぎる。
「チョコレートばっかり……」
「結紀くん。もう一つテーブルがあるから、多分ここでの選択が最後じゃないよ」
そう言われて振り返ると黄色い布におおわれたテーブルが後ろに現れていた。
その先は出口があるだけで何も無い。
きっと次で終わりだろう。
しかし、もう一つ選ばなければならないのならば、尚更ここでチョコレートを選んでは行けないだろう。
チョコレートは最後に食べるものと、力が言っていたのを思い出してため息をついた。
「二番目に相応しそうなのを探すしかない、よね?」
困ったように言う遥日に頷いて、二手に別れる。
先程のように隠されているケーキはないかと机の上を探る。
チョコレートケーキの山を分けながら軽いものを探すがなかなか見つからない。
もはやチョコレートの中でも軽いものを選べということなのだろうかと、半ば諦めながら呟いて辺りを見回した。
結紀はまだ見ていないチョコレートフォンデュタワーの前で足を止めた。
このタワーはあからさまに重そうだったので避けていたが、もしかしたらここに隠されているのかもしれない。
そして気が付いたことを力に問いかける。
「……フォンデュに使う材料ってそのまま食べたらダメなの?」
ちょっと待てと言ったまま力が静かになったので、遥日にも問いかける。
「そんなこともないとは思うけど、あまり良く思われないんじゃないかな」
「でもここはアリス世界。前に言ってましたよね。アリス世界はなんでもあり、ですよね?」
結紀はフォンデュ用に用意されている材料の入った皿を見る。
いちごやマシュマロとよく使われるものの他に、クッキーや、バウムクーヘンなどのあまり見かけないものも用意されている。
さらによく調べていくと、小さなスポンジのようなものがあった。
ケーキの中に使われるような素材であることをテレビでみたような気がする。
「スポンジがあるよ、食べれるやつかな」
力にそう問いかける。
もしも、これが結紀の見間違いでただの食べられないスポンジだったら立ち直れない。
先程何も言わずにいた力があっと叫ぶのが聞こえた。
「スポンジ、スポンジケーキか! それにチョコレートを付けないで乗せろ結紀。
絶対にチョコレートはつけるなよ?」
何度も念を押されて思わずうっとおしく思う。
チョコレートをつけてしまえば重いものに変身することぐらい結紀でも分かっている。
それにそこまでうっかりものではない。
「わかったよ」
そう答えてからスポンジを近くにあった白い皿へと乗せる。
先程と同じようにピンポンと音が鳴って、赤い布の机の上のものが消えた。
どうやら正解だったらしい。
早いところ次も終わらせて、このバイキングを終わらせたいと思いながらため息をついた。
「リッキー、次で最後みたい」
「了解、次で最後なら特別重いもの食べてもいいな」
チョコレートケーキはダメだとかを考えずに済むのならそれが楽でいい。
多分次は、机の上の重いものを乗せればいいだろう。
安易な考えで、結紀はそのまま次の机へと向かう。
結紀が次の机に行くのを見て遥日が大声をあげた。
「待って結紀くん!」
遥日に止められる前に足を踏み入れてしまった結紀の前に鉄格子のようなものが現れる。
鉄格子は赤い布の机と黄色い布の机を行き来できないように二つに割いた。
思わず皿を落としかけたが何とか耐えて、助けを求めようと通信を試みるが何も聞こえない。
それどころか鉄格子の向こう側で何かを叫んでいる遥日の声すら聞こえない。
「……なにこれ」
どうにか抜け道を探すが、見つからない。
どういうことだと鉄格子を見ると、そこには『一人で答えを当てろ』と書かれている。
読み終わると持っていた皿は自然に消えていた。
「一人で……」
メモ帳を開けば【これで最後のケーキ探し、当たり前は当たり前じゃない】と書かれていた。
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