ケーキバイキング
不思議なお茶会と破滅の弾丸⑧
ケーキバイキングの会場には長机が二つあった。
一つは白い布におおわれていて、もう一つは赤い布におおわれている。
部屋全体は薔薇のような赤が蔓延していて、壁や床も赤に染っている。
まるで血の跡を隠すようだと結紀は思った。
結紀と力で行ったケーキ屋は、白い壁で可愛いイメージの店だ。
そことはまるっきり正反対の部屋の中に、結紀は嫌な想像ばかりをしてしまう。
赤は血の色なのではないかとか、まるでどこかの探偵映画のような考えが止まらない。
気を取り直して白い布でおおわれた机へと近づく。
一番手前の机に皿とケーキが複数乗せられていて、皿の前に『順番は守らなきゃね』と書かれたプレートが置いてある。
「ケーキに取る順番があるってことかな」
「回る順番は床の矢印に従えばいいんですかね」
白い布でおおわれた机と赤い布でおおわれた机の間に矢印が書かれている。
こっちへ行けと言われているように感じるが、何も取らずに行っても許されるのだろうか。
ヒントを求めてメモ帳を開くと、【ケーキを沢山食べるにはどうしたらいい】と書かれていた。
今はそれではなく、何も取らずに居てもいいのかが気になるとメモ帳に思えば、メモ帳は新たな文字を浮かばせる。
【なにもとらないことはゆるされない】
結局何もしないことは許しては貰えないようだとため息をつく。
しかし、取らなければ何が起こるのだろうか。
メモ帳に対して問いかければ、【数多くは死】と書かれていた。
どうやら、取らなければ死ぬらしい。
しかし、【数多くは】とはどういう意味だろうか。
結紀のメモ帳を覗き込んだ遥日が微妙な顔をする。
どうやら何か分かっているようだが、結紀には教えてくれる気がないらしい。
「ケーキを沢山とる方法って分かる?」
「食べる方法ですか? おれは分かりません」
遥日はだよねと言いながら何かを考え始めた。
結紀はそういえば力がケーキバイキングによく行くよなと思い、一先ず全体へ問いかけて見る。
「ケーキバイキングの順番……そっちに分かる人居ます?」
「俺、ネットで見た情報でもよかったら分かりますけど」
力がすぐさま反応して、結紀はどうするか答えを求めて遥日を見る。
そういえば、遥日に自分の意見を通してもいいと言われたことを思い出して頷いた。
ここで自分のお願いをしてもいいのだろうか。
いや、ここでしなければどこでするというのだろうか。
結紀は自分の中でそう決めると、遥日に問いかける。
「力に頼って見てもいいですか?」
遥日はそれに頷いた。
結紀は力に言われる前に皿をトレンチの上に載せる。
「リッキー頼んでもいい?」
「分かった。じゃあよろしくお願いします」
矢印に従って白い布の机の前へと出る。
白い布の机の上には様々なケーキが乗っていた。
「えっとまず、重いものは後回しなので、軽いもの乗せてください。
えーと、プリンとかあります?」
白い布をかぶっている机の上を見回す。
ショートケーキや、チョコレートケーキなどの合間に小さくプリンが置かれていた。
「あったよ」
プリンを一つ手に取って見るが、どう見ても軽いものには見えない。
生クリームがたっぷり掛けられているプリンは他のものと遜色ないように感じる。
「何が乗ってます?」
「クリームとか、いちご? あとは、チョココーティングのやつとかあるかな」
トッピングに使われているクリームの色で判断しながら遥日が力に伝えていく。
結紀は遥日が言ったプリンをそれぞれ種類事に分けながら、力の言葉を待つ。
プリンと言っても沢山あるんだなと感心しながら並べ替えていると、一つ気になるものがあり手を止めた。
色々な方向から見て、中も目視で確認するが、このプリンだけは何も乗っていない。
クリームさえもかけられていない。
「何も乗ってないやつがある」
「何も?」
「うん。チョココーティングもクリームさえもない、ただのプリン」
言いながらもう一度確認するが、目の前にあるプリンには何も乗っていなかった。
他のプリンが様々な色取りを持ち、クリームやチョコなどでトッピングされて、いちごや桃などで飾られているのに比べて随分と簡素なものだ。
「……そういうこともあるのか。
それを乗せろ結紀」
確かにこのプリンは他のものに比べてかなり軽そうだと思う。
力の言葉に従ってそのプリンを乗せるとピンポンと音が鳴って、机の上のケーキが一つ残らず消える。
机の上に先程あったものは幻覚だったのだろうか、と考えていると結紀の持っていたトレンチも消えた。
跡形もなく消えたトレンチを探していると白い布の机も消えた。
そして、入ってきた入口に鉄格子が降りる。
赤い布の机の奥に見える出口にも鉄格子が降りていて、結紀は完全に閉じ込められたことを悟った。
参加しなくても、失敗してもきっと訪れるものは死だ。
結紀はそう思うと急に、瑠奈が怖くなった。
シミュレーションでは感じたことの無い恐怖が身体を満たしていくのを感じる。
それと同時に後ろの赤い布の机にケーキとトレンチが現れた。
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