不思議なお茶会と破滅の弾丸⑦
言葉に出していたことに気が付いて直ぐに行ったのは、土下座だった。
「遥日さん、忘れてください」
遥日なら忘れてくれるだろうと思いながら全身全霊でお願いする。
遥日は困ったように笑って言葉を続ける。
「僕は忘れてもいいけど、他のみんながどうするかだね」
そう言われてからこの光景も会話も結樹に聞かれていることを思い出した。
さらに、力達お茶会組もオペレータールームに合流している。
結樹はオペレーターとして常に全員の会話を聞いている。
今のが全部聞かれていたとしたら、後々大変なことになる。
そう考えていると結樹がくすりと笑うのが聞こえた。
もうダメだ。
「えっと、常識改変しようか?」
気遣うように告げられた卯宝の声に結紀はもう戻れないことを悟る。
このまま生き恥を晒し続ける前に命を絶つべきなのでは無いだろうか。
結紀はゆっくり立ち上がる。
「まあそういう人もいるから、気にすんなよ」
「そうだな、気にするな」
力と透までもが気を使って声をかけてくる。
こういう時ばかり息を合わせるな。
普段通り喧嘩していろ。
「お前そんな考えだから友達居ないんだよ」
「結樹には言われたくない」
「俺は友達多いぞ?」
「なにそれ、自慢?」
大分結樹のことをディスっていたが、それを凌駕するほどの衝撃を与えてしまったらしい。
全員に気を使われながら、探索を続けなければならないのか。
それならばやっぱり死のう。
「あ、お茶会組も聞いているんだ」
「おー、そっちには参加出来ないけどこっちで参加するって」
遥日が話を逸らしてくれたおかげで結紀は憐れみの渦から抜け出した。
あのままだったらきっと、あなたも殺して私も死ぬになっていた。
「それでお前らなんの話ししてたっけ?」
「お茶会の話ですよ」
「あー結紀はなんも知らないんだよな」
結樹が可哀想な結紀くんに教えてしんぜようと言ってきたので思わず殺意に満ち溢れる。
お前には何も教わりたくもないと言い返しそうになって自制する。
危ない取り返しがつかなくなるところだった。
「結紀が何を考えてんのか手に取るように分かるが、無視することにする。
こういうのは当事者に聞けばいいんだよ。な、力」
「いや、結樹さんが教えるって言ったのに俺がやるんすか? おかしいでしょ」
「おかしいっておかしくないだろ? ははっ、能力のことは能力者に聞く。
それが常識、遥日も言ってた」
「いやいやいやいや……」
結樹が全てを力に投げたのを聞きながら、これもチェシャ猫の能力のせいだと言い聞かせる。
いつからこんな適当なやつになってしまったのか。
いつからと言っても最近関わりを持ったからよく分からないが。
「お茶会は、三人……つまり、眠りネズミと五月うさぎ、帽子屋の能力を掛け合わせることで開催される改変の力だ。
時刻を失ったものには時間を、イカれた世界のものには反対をという風に動かすんだ。
で、それをすると能力の使いすぎみたいな状態になってまともに能力を使えなくなる。
だから、ここぞって時用」
簡単に説明されたがよく分からない。
とりあえずここぞって時にしか使えないことは分かった。
「よくわかったか? 可哀想な結紀」
「ありがとうリッキー。そしてくたばれ結樹」
耐えきれなくなって思わず呪詛を吐けば、結樹も呪詛を返してくる。
お互いで罵りあっていると、遥日に肩を掴まれた。
「もうやめよ? ね?」
近距離で綺麗な笑顔で微笑まれ思わず固まる。
そういえば前に力もやられていたような。
あの時は余計なことを言わなければいいのにとどこか他人事のように考えていた。
これを実際に受けてみるとかなりの圧を感じる。
遥日がこれ以上機嫌を損ねないように結樹との会話をやめた。
結樹も感じ取ったのか静かになる。
遥日は静かになったのを確認してから口を開いた。
「僕らはあのカップケーキに入っていいんですよね?」
「ああ。それが今一番試してみたいことだ」
試すとは他人事だと思ってと悪態をつく。
遥日はそれに対して何も思っていないようで、カップケーキへと向かっていく。
なんだかとても違和感を感じて唸ってしまった。
唸る結紀を置いて遥日は歩いていく。
結紀も何も言わずにそのままついて行った。
派手な色をしたカップケーキは、食べれるようなものではないのだろう。
では一体なんの意味があるのか。
食べることを目的にしていないのならば、誰かをおびき寄せるためだろうか。
人間も動物も派手に目立つものには目を引かれる。
人間のいない世界で、人間を呼び寄せて何をしたいのか。
殺すため、と一瞬浮かんだ思考を振り払う。
まだ瑠奈がブラッディと決まったわけではないのだから、その考えは早計だ。
考えていると、気が付けば目の前にカップケーキがあった。
遠くから見た時、カップケーキにあったはずの隙間には小さな茶色のドアがついていた。
「……開けるね」
遥日はそう言うとカップケーキのドアを開けた。
ぐるりと視界が反転して思わず目を閉じる。
次に見えたのは、力と言ったケーキ屋と同じ構造をしていた。
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