不思議なお茶会と破滅の弾丸⑥
周りに人が居ないからか、いつもよりも大胆に動いている遥日を見て、少し不安が過ぎる。
まだ何か焦りを隠しているのではないだろうか。
何も言えないまま結紀は遥日について行き、時計塔の上で鐘を鳴らす大きな白い時計を見上げた。
「今度こそ探索を始めようか」
「これからやることは、さっきと同じですか?」
「そうだね、全部のマップの確認。
それに、人がいるかなどの情報収集かな」
メモ帳を広げながら遥日の話を聞く。
「今アリスの関係者の話も聞いているところだから、全ての情報が整うまで時間がかかるかな」
時間が掛かると言われて結紀は少し唸る。
アリスを説得するのに掛ける時間も大事だが、早く治療することも必要だ。
どちらを取るべきなのか迷うが、東支部は時間を掛けることを選択している。
だから、多分茜の考え方は結紀と似ている。
本人に聞いたことがないので確証はないが。
「結紀くん、何か聞きたいことはある?」
遥日に問いかけられて結紀は直ぐに答えた。
「じゃあ、お茶会のこと教えてください」
結紀は先程起きたことを理解出来ずに居たので何でもいいので答えが欲しかった。
遥日は驚いたような顔をしたあとゆっくり歩き始める。
先程は行けなかったカップケーキに向かって、安全な道路を歩いていた。
「……そうだ。お茶会組のそれぞれの能力は聞いたかい?」
「力のだけ何となく」
「ならそこからだね」
人の居ない道路を二人揃って大胆に歩く。
車も走っていないので、道路の真ん中を歩いた。
現実では到底できないだろうことをやっていることに、結紀は少しだけ興奮する。
そんな結紀を見て、遥日は楽しそうに笑ったあと言葉を紡いだ。
「眠りネズミの能力は、周りの人間を巻き込んで眠らせること。
能力を使えば本人も眠ってしまうけどね」
「厄介な能力ですね」
「うん。
息吹の使う能力は本人は眠らないけど、その反動で、日常生活の中でも常に半分夢の国なんだよね」
息吹が常に眠そうな顔をしているのを思い出す。
あれでも教師としてはしっかりしているが、それ以外の時は大抵寝ている。
能力の反動でそんな代償を背負うこともあるのかと結紀は驚いた。
異質のアリスは代償があるのだろうか、疑問に思ってメモ帳を開くと、メモ帳には【アリスと間違えられることがある】と書かれていた。
遥日にそれを伝えると、少し悩んだあと言葉を続ける。
「アリスシンドロームの発症者と間違えられるか。
確かに東のみんなは分かっているだろうけど、他所の支部からしたら、同じに見えるかもね」
「見えるって……」
「不思議の国特有の気配察知とでも言うのかな。
アリスとそうではない人を瞬時に見分けられる。
僕らは結紀くんの気配を知ってるけど、他の支部はそうじゃないでしょ?」
異質のアリスである結紀が、治療対象のアリスと気配が似ていても確かに不思議ではない。
結紀は能力としてのアリスだが、治療対象と対して変わらないだろう。
異質のアリスとアリス、字面だけで見るとほとんど一緒だ。
「でも他の支部と合わさることなんてあるんですか?」
今のところ東支部で働く不思議の国しか見た事のない結紀はそう問いかける。
遥日はそれに頷いてなんでもない事のように語った。
「共同任務とかあるよ? あと、とある能力ならアリス世界を行き来できるし」
「とある?」
「そんなに滅多にいる能力じゃないから安心して。
そもそも東の患者に用なんてないだろうし」
話を続けるねと前置きをされて、先程のお茶会組の話へと戻る。
「五月うさぎは、アリスを狂わせる能力を持ってる。
アリスが本来ある常識を覆す能力。
お茶会組の中ではこの能力が一番怖いと思う」
本来の常識を覆して、アリスの考えそのものを変えてしまう。
もしも、自分の常識をかえられてしまったのなら、今こうしていることもないのかもしれない。
そう考えるととても怖い能力だ。
「で、帽子屋はご存知の通り、アリスに夢を見せたりお茶会を開催するリーダーになったりする。
帽子屋の能力を持つものは、自然にうさぎとねずみを従える立場になるよ」
力が前に言っていた立場があるとは、そういうことなのだろうか。
能力によって立場を決められてしまうのは、どういったものなのだろうか。
立場も何も無い結紀には分からないが、急に上司になるのも、部下にされるのも御免だ。
他人との協調性のなさが結紀を孤独にした原因ではあるが、今更変えろと言われても無理である。
結樹が微妙な嘘ばかりつくのも料理も下手なのも能力が原因だと考えればまだ受け止められるが、他人に強制されることだけは絶対に受け入れられない。
多分結紀は、アリスケースへの所属が嫌だったら何もかも犠牲にして逃げるぐらいの根性はある。
だか、それ故に友達がいない。
実際のところは人情に溢れたところもあるが、その欠点が全てを台無しにしている。
自覚はあるが変える気なんてない。
変われというのならば言ったやつが変わればいい。
「うん、結紀くんは逆に常識を変えてもらった方がいいかもね」
呆れとも言えない、哀れみを含んだような顔で遥日がそう言った。
さあ、行こうかと遥日に肩を叩かれて結紀はやっと気がつく。
先程考えていたことは、全部口に出していた。
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