不思議なお茶会と破滅の弾丸④

 現実へと戻ってきて、真っ先にオペレータールームへと向かう遥日の後をついて行く。


「確か息吹が病棟教室、卯宝が病室だったはず。二人を呼び出して」


 近くにいたオペレーターにそう声を掛けて、日井沢の元へ行くと、日井沢は全て分かっていると首を振り遥日の方を見た。


「見てくれ遥日くん、この世界はお茶会の力で治すしか道がないだろう。

 だから、泉くんのことは無視した方がいい。

 勅命はあれだけではないんだろう?」


 日井沢の問いかけに遥日は息を呑んだ。


「泉ちゃんのことを無視なんて、したらどうなるか……」


「泉くんにそこまでの権限はないはずだよ。

 大丈夫さ、お父さんの方に掛け合うから」


 日井沢はそう言うと微笑んだ。


 しかし、遥日は難しい顔をして言葉を繋ぐ。


「東が解体されたら困ります」


「そんなことさせないさ、遥日くんも叶方かなたくんもみんな大事な親族かぞくだからね」


 日井沢がそう言って笑うと、遥日は首を振った。


「叶方はもう居ません」


「……君たちは複雑だね」


 日井沢はそう言うと遥日から目を逸らして画面を見た。


 日井沢の隣では結樹がこちらを見てため息をつく。


「力、卯宝、息吹のお茶会の力を使ったあとはお前らで頑張るしかないからな」


 結樹の言葉に頷くと、遥日が補足で説明をしてくれる。


「お茶会の力を使ったあとは、三人は一定時間能力が使えなくなるんだ」


「あれ、でもこの間は使ってましたよね」


 力がお茶会の力を使っていたことを思い出すが、その後は普通に能力を使っていたと思う。


「お茶会の力は、あれじゃあないんだよ。

 あれは力の持つ個人的な力。

 お茶会は、世界そのものを塗り替える力だ」


「つまり、この前のは帽子屋の力ってこと?」


「いや、帽子屋としてじゃなくて……力の持つ力だな」


 力に説明をされた帽子屋の力とはだいぶ違う。


 違うが、もう一つ聞いていた話がある。


 帽子屋と括られた力の中でも強さが違うと。


 つまりは、力の持つものは帽子屋の中でも特別なものということなのだろう。


「力くんは優秀な能力者だからね、東に置いておくのはもったいないよ」


「本人は中央で出世したいみたいだけどな」


 結樹は遥日のことをじっと見つめた。


 遥日はいたたまれなくなったのか視線を逸らす。


「中央は、やめた方がいいと思う」


「……なんで?」


「あそこは精神汚染が酷いから」


 遥日はそう言うとシャツのボタンを一つ外して首を見せる。


 そこには、刃物で刻まれたような痕が一つついていた。


「これは?」


「中央で付けられた傷」


 シャツを着直しながらなんでもないようにそう言ったが、刃物で首の当たりを傷つけられることなどあるはずがない。


 そんなに中央はあれているのだろうか。


「泉か?」


 結樹の問いかけに遥日は曖昧に笑った。


 アリス世界でつけた傷ではないと呟いた遥日に、結紀は困惑する。


 それが本当に泉という人のせいだと言うのならば、異常だ。


 ここまで来たらただの犯罪では無いのか。


「中央は泉ちゃんの言う通りに動けないと消されるから」


「よく知ってるよ。

 俺たちだってやられたことがある」


 どこか遠くを見ながら結樹が答える。


 それが許される泉とは、中央とは一体なんなんだろうか。


「力には秘密にしろよ。

 あいつの理想を潰すのは心苦しいから」


「逆に教えた方がいいと思うけどねえ」


 日井沢の言葉も最もだが、言えるわけないと思いながら頷く。


 結紀にとって出世などは興味がないが、力が子どもの頃から両親を楽させたいから、大富豪になると語っていたことを知っている。


 その夢を応援したいと思うし、尊敬している。


 だからこそ、金持ちという存在を憎んでしまう。


 力の夢が叶うためにはどこかで何かを犠牲にするしかない。


 でもその犠牲がこんな形でいいとは思わない。


「卯宝くんと息吹くんも結構なお金持ちだよね」


「王戸の友達としてあてがわれるぐらいですからね」


 苗字でお金持ちとすぐに分かるほど聞いたことはないが、不思議の国の中では金持ちの部類らしい。


 王戸家という最大級の金持ちが存在しているせいで他の家は薄くなっているが。


「贅沢な暮らししてるんだろうな」


「いやいや、遥日くんは贅沢したことないもんね」


 結樹の言葉を日井沢が否定する。


「色々あるんですよ」


 遥日はそう言うと話を全て塞いだ。


 どうやら聞かれたくないことらしい。


 そうこう話をしていると卯宝、息吹、力と順番にやってきた。


「お茶会を開けばいいの? なにで?」


 息吹は直ぐに理解したようで首を傾げる。


 そして結樹の映し出した映像を見て頷いた。


「時計のお茶会でいいのかな」


「いや、狂ったお茶会でもいいと思う」


「この状況をどうやって直そうか」


 お茶会はこれとこれとこれ。


 卯宝が結紀に向かってそう説明をする。


 何を言っているのか全く分からない。


 これとこれとこれってなんだ。


「まあ、見れば分かるよ」


 遥日が付け加えたあと、ボソリとそう言った。


 卯宝の言葉には何も補足する気が起きないらしく、どこか投げやりだ。


「やっぱり、イカれたお茶会じゃない?」


「日井沢さんはそう思いますか」


 力が日井沢の言葉に参考になりますと呟いた。


「日井沢さんは、俺たちよりも長い時間アリスと関わってきた一般人だ。

 王戸の親族ということもあるのかもしれないけど、東で最も長く働いている力強い人だよ。

 だから、日井沢さんの意見は参考になる」


 力はそう言うと少し悩む仕草をして、ボソリと呟く。


「お茶会の力は一回きり、俺がもうちょい動ければ何とかなったんだけど」


「そんなこと言ったら俺だって力不足だ。

 お茶会組で力があるのは息吹だけだ」


 手でピースサインを作っている息吹が二人を煽っている。


 眠そうな顔をしながらもやることは子ども地味ている。


「息吹、そろそろ」


 遥日がぽつりと呟いた言葉を息吹が拾う。


 ゆっくり頷いた息吹が自然に出て行ったのを見て、それについて行く。


「透、ずっと待ってる」


 息吹はそう言うと治療室へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る