緋東結紀と異質のアリス㉕
オペレータールームと書かれたドアを開けて中に入ると、そこには無数の画面が広がっていた。
忙しそうに何かを誘導している様子が映されていて、働いている人もみんな大変そうだ。
部屋の中にいるのは人数はざっと見だけでも数十を超えるだろう。
何か失態でもあったのか、叫びや怒号が飛び交っている。
茜は静かに中へと入ると、苦戦している様子の女性の隣に行き、机に設置されているマイクを奪った。
「違う! アリスに直接触れてはいけないだろう? いつも通りだ、落ち着け」
画面で焦っている様子だった救護スタッフが、茜の声を聞いて落ち着きを取り戻していく。
慌ただしいのは一瞬で、すぐさま落ち着きを取り戻していた。
茜に助けられたスタッフは必死に頭を下げている。
そんなスタッフに茜は頑張れとだけ声をかけて、一番奥にいる男性に話しかけた。
「やあ、
「茜さん、お疲れ様です。このアリスは無害なので東で対処する予定です」
「そうか、なら……結紀。遥日を呼んでおくから治療に当たれ」
そう言いそうな気がしたと呟いて、日井沢と呼ばれた眼鏡の男性に頭を下げる。
「君が結紀くん? 初めまして日井沢です。アリス治療の際は僕達も協力するから気軽によろしく」
「こちらこそ。緋東結紀です、よろしくお願いします」
頭を下げて挨拶を交わす。
「そういえば、結樹くん。茜さんが無茶言ってたけど大丈夫そうかい?」
「何がですか?」
「本物のアリス治療は初めてだろう?」
そう言われてシミュレーションしかやったことがなかったと思い出す。
「まあ、大丈夫だよ。アリスの情報をもう少し集めてから治療になるから……転入試験の方が先かな? 明日でしょう?」
「え」
聞いてないと茜を見ると、茜は今思い出したかのようにぽんと手を叩いた。
「ああ、そうだった」
結紀はその一言で、固まった。
走り去っていく結紀を見送って茜は日井沢の隣の丸椅子に腰を下ろす。
日井沢も少しだけ顔をかげらせて言葉を紡いだ。
「万が一があるかもしれない」
先程対応していたアリスの映像を一画面に映し出す。
隊員がアリスに触れ運ぼうとすると、アリスが突然暴れ出す。
隊員はアリスに驚いたようでパニックを起こしている。
「彼は新人か?」
「そうです」
そこからは先程のようにオペレータールーム全体がパニックになっている声が聞こえてくる。
「教育し直しだな」
「すみません、私の責任です」
日井沢は眼鏡の縁を押し上げてそう呟く。
茜は画面の中のアリスをよく見て、なにか気がついたようだった。
「もしや、突然変異か?」
「その可能性があります。だから結紀くんに任せていいものかと」
「うちの支部で動けるやつは、遥日か結紀しか居ないんだ。それに何れは……」
「……そうですよね」
画面を消して日井沢はため息をつく。
「また、やらせるんですか」
「破滅の弾丸は持たせたくない」
「遥日くんは、結紀くんのために弾丸を使うでしょうね」
二人は揃ってため息をつく。
「なんのために西にブラッディを送っているんだか……」
「疑い程度では出せないんですよ、分かってるだろ、茜」
日井沢はゆっくり立ち上がって、オペレーター達に指示を出す。
そんな日井沢を見ながら茜は額を抑えて呟いた。
「そんなこと分かっているんだよ、
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