緋東結紀と異質のアリス⑩
さくら通りでタピオカを飲んでいるギャル風の女の子を見つけて、声を掛ける。
「持ってきた、証明!」
「へー、ほんとにできるんだ」
感心したようにそう言ったギャルにクラス写真を渡すと、ギャルはその写真をじっと見て笑った。
「確かに確認したわ。で、何が知りたいわけ?」
ギャルの言葉を聞いてからメモ帳に目を落とす。
そこには証明完了と書かれ赤い丸が付けられていた。
まるで百点満点のテストにつける花丸みたいだと結紀は思う。
花丸が付けられているページの下には新しい文字が浮かび上がっており、【アリスについて聞け】と書かれていた。
「真由って君から見てどんな人?」
「真由は、あたし達から見ると友達大好き人間って感じ。
彼氏もいらないーとか言ってたけど、作っちゃったし、人間意外よねー」
メモ帳に、【友達よりも彼氏を選ぶことがアリスにとってはなんの意味を持つ】 と浮かび上がる。
ギャルが言う通りなら友達よりも彼氏を取るようには見えないが、真由は彼氏を取った。
そこだけは変えられない事実だろう。
しかし、メモ帳にも現れたように真由にとって彼氏を選んだことはどんな意味を持っているのだろうか。
疑問の答えを求めるためにギャルの言葉を待つ。
するとギャルは何かを思い出したようで、ぽんと手を叩いてから話し始めた。
「あ! 今頃真由、先輩の所にいるんじゃないかな」
「先輩の所……」
ギャルの言葉を反復していると、ギャルは彼氏が来たからまたねと言って立ち去って行った。
これといった情報を得ることは出来なかったがギャルにお礼を言って、遠くで見ている遥日と力の所へ向かう。
遥日に戻ってきたことを歓迎されながら、先ほどのギャルはとの会話で手に入れた情報を共有する。
そして、結紀は二人に提案をもちかけた。
「先輩の所に行ってみませんか?」
「場所分かるの?」
「この学校の生徒なら誰でも知ってると……」
気まずそうな顔をした力を見て、知らないのだと察する。
先輩は女子の間で噂になっている上に、男子からは嫌われている。
理由は簡単だ。
校内の女子を全て侍らせているのだから、男子に疎まれても仕方がないだろう。
そんな先輩が女を連れ込む場所が、屋上である。
校内の男子の多くは先輩が女子を連れ込んでいる所を目撃している。
そんな有名な先輩のことをまさか、力が知らないとは思わなかった。
「……透くんも知ってたよ。力くんはもう少し周りに目を向けようね」
「はーい」
絶対やらないと分かる態度で力はそう言うと、学校のある方向へと向かっていった。
それを追いかけながら、遥日と言葉を交わす。
「これは早く終わるかもね」
「……そうですか?」
「うん。
アリス世界の住民と話せて、ヒントまで出てくると簡単だね」
ヒント、と言うがアリスの情報を結紀は何も知らない。
だから、これが本当にヒントなのか分からないとぽつりと零すと、遥日がその言葉を拾って繋げる。
「このシミュレーションのアリスは、僕達が一度解決してるから。だから、それは間違いなくヒントだよ」
「そうなんですか」
「シミュレーションのアリスは先行の結果があるから簡単だけど、実際のアリスは僕達も何も分からない」
だから、僕が頼りになるのはシミュレーションの中だけだよ。
とボソリと遥日が言った。
どうやらあまり深く突っ込まれたくないことのようでこちらを牽制するように笑う。
遥日に大丈夫と伝えようとするが、それを遮って力が口を挟んだ。
「しかし、すげえよお前!
よく知らない奴に堂々と話しかけられるな」
「え、そこ? 今更?」
力は結紀を待つように歩調を緩めて、偉い偉いと何度も言う。
結紀よりも物怖じしなさそうな力がそういうのだから、自分は思ったよりも度胸があるのかもしれない。
「アリスとかかわってるとさ、本当に話しかけていいのかとか、色々考えるようになんのよ。
だから、俺が暗いやつって訳じゃないからな!」
「別にそんなこと聞いてないけど」
「はーーーー!? 聞いとけ! 俺もいざとなれば道ぐらい聞けるから!」
何も言っていないが、そうアピールしてくるので今度お願いと期待を込めて言った。
思い返せば力と遊びに行く時に、俺は地図を探すからお前聞いておいてとか何かしらの理由をつけてすぐに居なくなる。
つまりそれは、人見知りということなのではないかと思ったが、下手に刺激をすると大変なことになると思い、何も言わないことにした。
「あんまり騒いでいるとアリスに見つかるよ」
「はーい、気をつけますー」
「……力くん」
「はい。気をつけます」
遥日が通常よりも低い声で力に言うと、力は急にシャキと立って頭を下げた。
遥日の目線が力から離れてからすぐさま結紀に小声で言う。
「怒らせると怖いんだよな。能力も能力だしさ」
「能力? 怒らせるのはリッキーが悪いよ」
「……まあいいけどよ。
あの人身体が追いつかないからあんまり能力使わないんだけどさ、ここの支部の誰よりも強いから気をつけろよな」
「能力、使われるようなことしたの?」
問いかければ、力は口笛を吹きながら目を逸らした。
どうやら能力を使われる事態になるほどのとんでもないことをしたことがあるらしい。
「……リッキー」
「はいはい、気をつけますよ」
遥日に続いて結紀にまで怒られて、力はつまらなさそうにそう言う。
そもそも怒らせる力が全部悪いと思ったが、言うのはやめておいた。
「ついたよ、二人とも。力くんは後で面談室ね」
「ういっす」
先程までの会話は、遥日に全部聞こえていたようで、遥日は笑顔のままそう言った。
自業自得、頑張ってね。
と心の中で応援する。
めんどくさいことに巻き込まれるのは勘弁だ。
先程と同じように校門を潜り玄関へと向かうと、遥日が呟いた。
「……屋上、誰かいる」
屋上の方を見上げると、人影の様な者が見えた。
何故だか分からないが、そこにアリスは居ると確信して、走って校舎の中をかけめぐる。
息を切らしながら屋上へ向かうドアを開けようとするがドアは何かに固定されたみたいに開かなかった。
何故開かないのか答えは無いものかとメモ帳を見ると、そこには【鍵を探せ】と書かれていた。
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