第35話

私にとってのパソコンは現実逃避の手段だった、パソコンの画面の中は幸せで溢れていた。

SNSの中では、素敵なイラストや詩、風景で溢れていたから、いつか行ってみたいななんて夢を膨らませたりもした、様々な動画サイトは音楽を聴くのに最高だった、当時は広告というシステムがなかったから延々に連続で聞き放題だった、大好きなきれいな音や声を聞いていると、固まった心が柔らかくなっていくような感覚にさせられた。

母屋で父と祖母の怒鳴り声が鳴り響いていても、庭で父が祖母を殴っていても、駐車場から祖母と近所の方たちとの会話が行われていても、全部無視できる、最高のツールだ。

父には感謝しなければいけないと思う、世間的に見た私のパソコンの使い方は間違っているかもしれないけれど、当時の私にとっては大事な依存先だったのだ。


あるとき祖母と大喧嘩をした、それはもう酷かった、台所に水を飲みに行っただけだったのに、最初はしょうもないことで言葉で煽られた、

「お前がトイレットペーパーを変えたところを見たことがない、無くなったら変えろよ。」

「ねぇ、本当に言ってんの?ボケてんの?私、そういうこと言われたくないからトイレが終わった後絶対にトイレットペーパー三角に折ってるわけなんだけどさ、理由もわかんない?馬鹿なの?もうぼけた?」

こんなことで喧嘩を売ってくる、何もしないで一日中いるから気が狂ってるんだと思っていたし、もう力では対等に渡り合えると思っていたから怖いことは特になかった、言いたいことが言える、なんでもできるのだ。

私がもし、何かの拍子に祖母を殺してしまったとしても私は中学生だし、過去の状況から哀れみと同情は向けられるだろうか、なんて考えていたしまだ生きていけると思っていたし、こんな人生に未練なんてなかったから殺してしまって、最悪の場合は私も死ねばいいなんて思っていたのだ。

「あぁ?お前が折ってるのなんか見たことねぇよ、私なんだよ折ってんのはよぉ。」

後ろの髪の毛の束を掴んで引っ張られた、勢いよく。

顔が上を向く、

(相変わらず汚い家だなぁ、)

壁にも天井にもシミがある、天井のは猫の尿だろう。思うと同時にコップをシンクに叩きつけていた。

「きたねえから触んなっつってんだろうがよぉ!」

その後は喧嘩だしょうもない、今思うと生産性もなんにもないどうでもいいでスルーすればいいことなのに、中学生の私はやり込めてやろうと必死だったのだ。

そこからは家の壁には穴が開くし、壁とお風呂がつながっていたから衝撃でお風呂の照明は落下した。そこら中にあったもので殴った、殴られた、蹴ったし、蹴られた。

台所だというのにお互い刃物は持ち出さない理性はあったのだろう、刃物を使うという選択肢はなかった。

女同士であるはずなのに、引っかくとか髪の毛のつかみ合いではない、本当に殴る蹴るの男の喧嘩だ、

どっちが勝ったとか、そういうのではなかった。

「なんで私が!こんな思いしなきゃならねえんだ、見たくもねえこんな子供の面倒みさせられて、親でもなんでもねぇんだからそんな義理もねぇっつうんだよ!!」

「私が!いつお前に面倒見られたんだよ!言ってみろふざけやがって!!なめてんじゃねぇぞ!」

「あぁそうか、わかった、こんな家に居てたまるか、出てってやるよ。」

「勝手にしろっつぅの、おめえなんかどこに行けんのかしらねぇけど、お前が仕事できるわけねぇのになバカかよ、早くいなくなっちまえ目障りだから。」

その後私は怒りの感情に呑まれたままプレハブに戻って、怒りが収まらずに部屋の本棚を怒りに任せて壊した、その間に祖母は父の軽トラでどこかに行ったようだった。

(あ、父の車だ。どうしよ適当なこと言っちゃった。父のご機嫌取り行くかぁ。)

その時も父は事務所になっている部屋にいたが、我関せずの姿勢で株のチャートでも見ていたのだろう、事務所に入ればパソコンに張り付いている父がいた。

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