第34話

「りりこ~、ご飯だよ~ん。」

いつも通り明るいテンションで先生が入ってきた。

「ありがとうございます…」

だいぶ愛想がない、笑顔もないし淡々と話している。どうでもいいですよという態度をとっているのに先生は嫌な顔一つしないでご飯を運んできてくれる、話しかけてくれる。

(仕事だからかな、)

仕事じゃなかったらこんなひねくれた子供相手にもしないだろう。

誰かに言われて動いているんだと思った、誰かは知らないけど先生の意志的なものを微塵も感じないわけではなかったが、行動一つ一つがわざとらしすぎると思っていた。

「食べ終わったら、廊下に食器を下げるカゴが用意されてるからそこに入れておいて。あとで来るからね。」

「持ってきていただいてありがとうございます、いただきます。」

久しぶりの給食は美味しかった、とても満たされた感じがする。

美味しいなぁと考えながら外を見ると木々が青々と茂っていて、

(家じゃないんだ。)

学校に来ることが当たり前ではなかった私には非日常だ。少しだけ気分が高揚したのと、早く帰ってパソコンをいじりたいとも思った。


食べ終わって、食器を片した後は相談室で雑誌を読んでいた、だんだんと給食の食器を片しに来る生徒たちでにぎわい始めたのかあちこちで話声がする。

(壁1枚で別世界だ。)

相談室は常に施錠されていて、カーテンで中が見えないようになっている。

常に鍵が締まっている扉を開けてみようと思う人はいないようで、静かにのんびりと雑誌を読み続けた。

「りりこ~食べ終わった?食器片した~?」

「片しました。ごちそうさまでした。」

「次、授業入ってないから送ってくよ。」

「助かります。」

「これさ、給食の残りなんだけど持って帰って食べなぁ。」

給食の残りのご飯がラップにくるまって2つ、おかずがいくつかと牛乳を手渡された。

「事務の方が包んでくれたからさ、お礼言って帰りなね。」

「わかりました。」

なんでここまで世話を焼いてくれるのか全く分からなかったがとりあえずお礼をと、給食を何も入っていない鞄の中に入れて事務室に行った。

「失礼します、あの…給食持たせていただいてありがとうございます。」

「りりこちゃん!給食毎回余るからさぁ、いいのいいの持って帰って~残るより全然いいからさぁ。」

「ありがとうございます、助かります。」

「明日も来る?」

「多分、この調子だと来ることになると思います。」

「そっかそっかぁ、じゃあ待ってるね、気を付けて帰ってねぇ。」

「ありがとうございます、失礼しました。」


「りりこ~お礼言えるじゃんえら~い。」

「偉いですか?」

「偉い偉い~ じゃあ帰ろうか、明日もSNSで迎えに行く時間言うから準備してね~。」

車では家のことなんかは聞かれなかった、何が好きで、どういう風に日々をすごしているのかということを聞かれただけだった。


「…ありがとうございました。」

「また明日!絶対来るからまっててね!」

「お気をつけて。」

忙しいけどお腹が膨れた、家から少し離れたところまで送ってくれた先生には感謝だ。

家に人が来るのにはすごく抵抗がある。

家に近づくにつれて異臭がする、怒鳴り声がする、憂鬱だ。

そそくさとプレハブに入り、パソコンを起動させる、その間に着替えて YouTubeを開いてイヤホンを付けて音楽をかければ現実逃避の始まりだ。

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