第5話 次元魔法
とりあえず騎士団の練習に混ぜて貰える事になった。そのため最近、午前中は魔法訓練で午後は剣術訓練のパターンが多い。
ちなみに勉強は合間にしかしていない。しかし頭脳は天才ゼイドという事もあり余裕です。基本的に中身である俺が絡まなければこの身体は優秀なのだ。
そして今日も俺は庭に来ている。もちろん魔法訓練をするためなのだが、ただの魔法訓練ではない。
ついに次元魔法を使ってみようと思っていたのだ。原作ゼイドには無い俺にだけある力である。しかも名前的には空間魔法の上位互換の雰囲気があるので期待大である。
俺は左腕を突き出して漫画とかでよくある転移のパターンをイメージしながら魔法を使ってみる。
「転移!」
しかし俺の身体はどこにも移動しなかった。それどころか魔力を使った感触もない。これで分かるのは転移は使えないという事だ。ただそれが次元魔法に転移系の力が無いからなのか、俺の実力不足なのかはわからない。
「うーん、だとしたら何が出来るんだ……?」
俺の空間魔法のイメージは転移しかない。想像力に乏しいのは自覚しているが、これでは魔法が使えない。
「次元魔法!」
とりあえず魔法の種類をそのまま叫んでみる。すると身体から魔力が失われる感覚がある。つまり何かしらが発動したという事だ。
「ん? 何だこれ……?」
よく見ると俺の目の前に一本の糸のようなものが伸びていた。ピンと張っており手前から奥へと1メートル程伸びている。
俺は恐る恐るその糸らしきものを触ってみる。すると思っていたよりも固い。しかもずっと空中に真っ直ぐ伸びた状態で存在している。
「だとすると糸じゃ無いのか……」
もし糸が出せたならばアメコミの某ヒーローの様な戦い方が出来たかもしれないのに。しかし糸でないならばこの線は一体何なのか。
「いや……線……で良いのか?」
俺が使ったのは次元魔法である。そして線とは一次元の存在である。一次元とは基準となる軸が一つしか無い状態を指す。つまりこの目の前にあるものは次元魔法で出した一次元の「線」なのだろう。
「だから何だってんだ……?」
とはいえこの線が次元魔法の一次元を表すものだとしても使い道が分からない。どう考えても転移に用いるのは不可能だ。
「消えろ」
そう言うとあっさりと線は消滅する。どうやら消すのは簡単らしい。
「あ! これを物体に刺すと穴が空くとか?」
閃いてしまった俺は早速、庭の隅に落ちている石を拾って来る。そして先ほどの線が石を貫通するのをイメージしながら魔法を使う。
「次元魔法!」
するとイメージ通りに線が石を貫通する。そして今度は線を消してみる。それで穴が空いていたら実験は成功だ。
「消えろ」
宣言の通りに線が消える。そしてすぐさま石の状態を確認する。
「穴は空いてない……」
つまりこの線を敵の身体に貫通させる事でダメージを与えるという技は使えない。必殺技が出来たかと思い喜んだが、ぬか喜びだったようだ。
「なら一体、この線は何に使うんだ?」
もう一度「次元魔法」と言って線を出してみる。そしてそれを色々な角度から観察する。そしてもう一度、指でそれを触ってみる。
「やっぱり触れはするけど……」
ふと思ったのだが触る事は出来るのに物体に刺しても貫通しないというのはおかしい。
「うーん……」
触り心地としては無機質な感じである。俺はそこから更に力を入れて線を叩いてみる。するとあっさりと線は折れて消滅する。
「あ、壊れた」
感覚で言うとシャーペンの芯の様な感じだった。つまり強度としては大したことない。
「敵の攻撃を逸らしたりとかにも使えないか……」
そこからしばらく悩むものの結局、この線の使い道は思いつかなかった。すると背後から足音が聞こえてきた。
「ぼっちゃま、魔法の関連お疲れ様です。お飲み物をお持ちしました」
「おぉ、サリーありがとう」
サリーが紅茶を持って来てくれた。俺は庭に置いてあるイスに座って紅茶を飲む。本当は冷たい飲み物の方が良い。しかし科学の発達していないこの世界ではそう簡単に冷たい飲み物は飲めないのだ。
「魔法の練習は順調ですか?」
「うーん、新しい魔法が使えたんだけど使い道が分からないんだ。それで悩み中って感じ」
そこまで言って気付いた。サリーに魔法を見てもらおう。科学的な知識ではこの世界の人間に勝てる自信がある。しかし彼女たちは俺と違って魔法的な視点を持っている。
「そうだ、サリー。ちょっとこれを見てみて。次元魔法!」
俺は思いついたらすぐに行動するタイプだ。すぐにサリーに次元魔法で作った線を見せる。
「ええと……? これって何でしょうか? あ、もしかして魔法障壁ですか?」
「え……?」
「もうぼっちゃま、魔法障壁は他人には見えないんですよ?」
俺はサリーの反応に驚いてしまった。俺とサリーの間には確かに次元魔法で出した線があるのだ。しかし彼女にはそれが見えていない。その事に驚いて思わず惚けた声を出してしまった。
「あ、あはは……そうだったね……」
「しっかりしてくださいね、ぼっちゃま。もうじき婚約者様との顔合わせもあるんですから」
サリーの方は適当に誤魔化しておいた。とりあえず彼女には線が見えていない事が分かった。
「(この線は俺にしか見えていないのか)」
線が俺にしか見えていないという事は触れるのも俺だけなのかもしれない。そう考えると線が物体を貫通しても俺以外には触らないのだから穴が空いてなくても問題なくなる。
「(俺にだけ触れる線という所まで分かったけど、それでも使い方が思い浮かばないなぁ……)」
現時点では戦闘に使えそうな魔法ではない。かといって生活を便利にしてくれる様な魔法でも無い。つまり使い道が無いという事だ。
「(俺のチートで楽々生活が……)」
次元魔法というくらいだから、とんでもない魔法だと思ったのがそうでは無かったようだ。俺はあまりのショックで目の前が真っ暗になりそうになる。
「そろそろ婚約者様はどんな方から旦那様からお聞きになりましたか?」
「いや全然」
「ぼっちゃま……最近は魔法に武術と色々と力を入れてるのは素晴らしい事ですが、貴族についてもきちんと学んでいかなければなりませんよ?」
「うぐっ……そういうのは苦手なんだよなぁ」
貴族のマナーなども身体のスペックは良いため覚えるのは容易い。しかしその風習に馴染めるかといえばそうでもない。中身は所詮、一般人なのだ。贅沢は嬉しいが、作法などは面倒だ。
「ぼっちゃまはいずれこのスペードフーガ家をお継ぎになるんですから、きちんと勉強していかないとですよ? このサリーも力の限り協力致しますから」
「わ、わかったよ……」
サリーが真剣そうに言うので俺も頷く。公爵家というのは強大な力を持っている。だからこそその権力には責任が伴う。当主が道を誤れば多くの領民が生活に苦しむ事になるのだ。
俺としても、自分の不始末のせいで多くの人たちが苦しむのは望む所ではない。可能な限り努力をするつもりだ。とはいえ苦手意識というのはそう簡単には治らない。
「ふふふ、流石ぼっちゃまです! それでは私も他の仕事があるので失礼します」
サリーはそう言って紅茶セットを持って屋敷へと戻って行った。俺はそれをボーッと見送ってから再び気合いを入れて魔法の訓練を再開する。
「ディメンション1st!」
そう言って俺は次元魔法で線を出す。使い道は分からないが、この線の魔法を「ディメンション1st」と名付けたのだ。そして名前が付いた事でイメージがしやすくなり、先ほどよりも魔法が出しやすくなった気がする。
名前の由来としては線が一次元だからだ。本来、一次元は英語で「ワンディメンション」なのだが、それだとカッコよくない。なので「ディメンション1st」にした。英語的には間違っているがここは異世界なので問題ない。
そしてこの魔法は現時点では同時に一本しか出す事ができない。魔法障壁と違ってこの魔法は何回か使ってもあまり魔力の消費がない事に気付いた。
そのあたりで次元魔法の訓練は終了して、普段通りの魔法障壁の訓練へと切り替えるのだった。
ギャルゲーと乙女ゲーが混ざった世界でどう生きれば楽しいですか? 広瀬小鉄 @kotema0901
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