第3話 ド素人でも株で儲けられる非常に簡単な方法(2010年台限定)

 株の本に真っ先に書かれていたことは「株は投機ではなく投資だ」ということだった。これを、私は「当たるも八卦の博打ではなく、きちんとした根拠に基づいて行うこと」と解釈していて、それも決して間違いではないのだが、もっと本質的な部分を理解していなかったのだ。


 デイトレードのような短期売買は博打に近い。1~2か月くらいで値上がりを求めるのも同じだ。そんな日銭稼ぎは投資ではなく投機なのだ。そんな短期間で値上がり、値下がりするような株を求めて資金を注ぎ込むのは博打なのだ。それは損もするだろう。


 だが、5年、10年と長い目で見て「きちんとした根拠に基づいて」株を買えば、それは値上がりするのだ。それが将来に備えた「投資」なのだ。


 松屋フーズやゼンショーは、それぞれ多少の問題は抱えながらも、業績を拡大していった。自宅最寄り駅になかった店舗が両方とも開店している。コロナ禍に見舞われながらも外食産業は衰退の様子を見せていない。テイクアウト強化などで対応している。業績が、伸びるのだ。株価も、上がるのだ。


 その一方で、文教堂は一時は新店舗を開きながら、すぐに撤退してしまった。「書店」という業界自体が、もはや先の見えない状況になりつつある。株価が、下がるのだ。


 きちんと成長産業、あるいはまだ衰退していない成熟産業の、成長見込みのある企業の株を買えば、株価は上がるのである。


 チャートなんかを読んで株価が上向きだ、下向きだというのを見て買うのは博打なのだ。業績と産業や企業の成長余地を見て買うのが投資なのだ。


 そして、もうひとつ株の本に書いてあった「初心者は日経平均連動ETFを買え」という文章の意味も嫌というほど分かってしまった。


 「日経平均株価」というのは、日本経済新聞社が日本を代表する企業を選んで、その株価を平均して算出した日本の経済状況を表す代表的な指標である。その日経平均株価は、2009年3月10日の7054円を底値として、それ以降上がり続けた。一時落ちることはあっても、基本的に右肩上がりだったのだ。


 そして「日経平均連動ETF」というのは、投資信託の一種ではあるのだが、普通の株式と同じように証券会社で売買できる商品である。名前のとおり、ほぼ日経平均株価と同じ値段で売り買いできる。


 その日経平均連動ETFを2009年に底値近くの7100円で買っておいたら、どうなったか。2021年9月14日には日経平均株価は30670円になっている。実に4.3倍に上がっているのだ。もし100口買っていたら、何もしなくても71万円が306万円になっていたのだ。


 それはさすがに、ほぼ最良の想定ではあるものの、どんなド素人であっても、2010年台に日経平均連動ETFを買って10年間持っていたら、よほど売り時を間違えない限り(コロナ禍などの個別要因で一時的に急落してたことはある)、それなりに儲かっていたのだ。


 そして、2012年12月以降のアベノミクスによる「消費者に実感のない好景気」は、確かに好景気だったのだ。いざなぎ景気を超えたというのは、本当だったのだ。株価が3倍以上に跳ね上がっているのだから。


 それは庶民には関係の無い好景気だったのか? NOだ。


 日経平均連動ETFは2012年12月末時点で1口なら9000円未満。手が出せる金額なのである。余剰資金で毎月少しずつ買いためていても、10年で2~3倍。普通のインターネット証券会社の株取引口座開設は無料。取引手数料はせいぜい数百円。庶民だって手が出せるのだ。


 その間、もし銀行口座で貯金していたら? 超低金利時代なのだ、利息は数円にしかならない。


 政府はそれを隠していたのか? NOだ。


 「貯蓄から投資へ」をスローガンに、2013年末までは株取引に優遇税制(株取引にかかる所得税半減)を、2014年以降は一定額(初期100万円、2016年以降120万円)までの株投資なら無税になるNISA口座制度を創設するなどして、庶民も株に投資するように誘導していたのだ。


 私は、その前に株に手を出していながら、その本質にまったく気づいていなかったのだ。ただ時間を空費し、余剰資金を空しく銀行口座の中で腐らせていたのである。


 そして、その本質に気付いた時には、もう遅かったのだ。

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