第2話 11年後の驚愕

 株のことなど、すっかり忘れ果てていた私だったが、それを思い出すきっかけがあった。


 2019年の秋頃にネット記事で「文教堂が上場廃止の危機」とあったのを見つけたのだ。上場廃止となれば私が持っている株は消滅してしまう。


 その頃、私の生活では文教堂を使う機会は、どんどん少なくなっていた。ネット小説を読み始めて、購入するのはそこで交流がある方々の出版作品くらい。漫画は電子書籍に変えていて店頭で買うのはごく僅か。


 また、隣駅に新しくできた文教堂は閉店して電気店に衣替えしており、会社最寄り駅の文教堂も移転して規模が小さくなってしまい品揃えが悪くなっていた。業績悪化のしわ寄せが来ていたのだ。


 もう株主優待カードを持っている意味は無い。そう判断した私は、しばらくぶりにインターネット証券会社のサイトにアクセスして、文教堂株を売り払った。5万8千円ほどで買った株が、1万6千円程度でしか売れなかった。約4万2千円の損失。まあ、先にも書いたように元本分は任天堂株のおかげで取り返していたのだから、11年越しに1万6千円手に入ったと考えればいいだろう。その間、優待カードでもそれなりに得はしていたのだから良しとしよう。ちなみに文教堂は、その後コロナ禍での在宅読書需要増加のおかげで一時持ち直して上場廃止は免れたようだ。


 そして、ふと思い立って、別のインターネット証券会社に預けていた株の状況についても調べてみた。まだコロナ前で松屋フーズもゼンショーも特に景気が悪いという状況ではなかったし、特に経営危機なんて話もなかったので、まったく売る気はなかった。純粋に「今どうなってるんだろう?」という好奇心によって調べただけだった。


 驚愕した。


 松屋フーズの株価は、購入時には17万円弱だったのが約38万円まで値上がりしていたのである。約20万円の儲け。上昇率224%。


 ゼンショーの株価は、途中で株主優待券を増やそうと思って買い足しているのだが、まとめると約44万円で購入したものが約125万円になっていた。何と約81万円の儲け。上昇率284%。


 11年で約100万円も儲けていたのである。まったく働かない不労所得で、だ。ただ放置プレイしてただけなのに100万円。何なんだ、これは!?


 ネット小説のテンプレのひとつに「●●年間(世間から隔離されて)××してたら▲▲になっていた」という類型があって、××には活動停止とか単純作業(繰り返し戦闘含む)が、▲▲には最強とかチートとか伝説が入るのだが、何というかソレを体験してしまった気分になったのである。


 そして、ここで気づいてしまった。自分が「株」というものの本質について何も分かっていなかったことを。本を読んで勉強した気になっていても、本質的な部分についてまったく理解していなかったのだ。


 株の本質とは、どういうことか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る