株で大失敗したと思って11年……実は大儲けしてた件 ~もう無理だけど簡単に株取引で儲けられる方法に今更気づいてしまった(泣)~

結城藍人

第1話 1勝8敗という株を見る目の無さ

 そのとき、私は絶望のどん底に居た。


 ……というのは大げさ過ぎる表現だろう。しかし、自分の才能に絶望していたのは本当のことだ。自分には株取引の才能は無い。そう思い知らされていた。


 1勝8敗。生まれて初めて買った株9つのうち、値上がりしたのは、たった1つ。勝率実に11.1%。およそ株を見る目が無い。


 ただ、この下落は今にして思えば当然のことだと分かる。なぜか?


 2007~8年だったからだ。そう、あのリーマンショックによる株価の大幅下落の時期だったのである。


 よりにもよって、その直前にインターネット株取引を始めてしまうという機を見る目の無さ。それは今も否定できない。だから、自分に株取引の才能が無いことははっきりしている。


 もとより、余剰の金ではあった。全部無くすことも覚悟はした上で株を始めたのである。それでも、それなりに調べて自分で良いと思って買った株が1つの例外を除いてことごとくダメだったのは、やはり精神的にガックリ来た。


 だが、そのたった1つの例外が私を救ってくれた。


 「任天堂」


 そう、その当時、斬新なゲーム性で大人気だった新型ゲーム機「wii」が絶好調だった任天堂の株価は、2007年には前年比で2倍以上に跳ね上がっていた。そのおこぼれに預かった私の任天堂株は、そのときの株投資全額分を回収するだけ値上がりしてくれたのである。


 損は、しなかった。


 しかし、それだけだった。


 その頃、任天堂の株価は天井知らず。リーマンショックも何のそのと言わんばかりに上がり続けていた。もっと長く持っておけば、投資全額分を回収するだけでなく、さらに儲けることができただろう。


 だが、1勝8敗という現実の前に、株取引に対する自信を喪失した私は、株投資全額分が回収できた時点で任天堂株を売って利益を確定した。


 それ以外の株についても、3つを除いて損切りした。損切りしたとはいえ、半値に下がったというわけではない。任天堂株の分を考えると、投資額全体では黒字ではあったのだ。


 そう考えれば投資としては「成功」と言えなくもないのだ。


 しかし、私にとっては「大失敗」だった。任天堂株を買ったのは、私の見る目が鋭かったからではない。当時だったら、予算さえあれば誰だって任天堂株を買っただろう。それだけの勢いが任天堂とwiiにはあった。だから、それを除いた8敗こそが私の株を見る目の「実力」だった。


 それ故に、私は任天堂株を買ったことを「ビギナーズラック」だと判断した。ビギナーズラックにあかせて株取引を続ければ大損をする。そう判断した。


 だから、もともと株主優待狙いで買った3つの株を除いて、全部売り払ったのだ。その3つは株取引用語で言うところの「塩漬け」にした。売買を一切放棄して、そのままインターネット証券会社の取引口座に置きっぱなしにしたのだ。


 証券会社の株取引口座からは、全額を引き出した。もう何も買えない。売る気もない。だからログインする必要もない。


 定期的に送られてくる株主優待券を使い、株主総会への議決権行使ハガキに機械的に丸を付けて投函する。私の株との関わりはそれだけになった。


 株主優待券のために買った株は「松屋フーズ」「ゼンショー」「文教堂」だった。いずれも会社の最寄り駅前に店があった。ゼンショーの店は牛丼の「すき家」ではなく親子丼の「なか卯」だったのだが、どうせならグループ企業全部で優待券が使える親会社のゼンショーにしようと思ったのだ。


 結果的にそれは正解だった。のちに自宅最寄り駅前に「すき家」が開店し、今でも我が家の一番お気に入りのファストフード店になっている。半年に一回送られてくる株主優待券は毎回フルに使えている。


 牛丼の「松屋」も自宅最寄り駅前に開店した。書店「文教堂」は自宅の隣駅で自転車で行ける範囲にラノベの品揃えが充実した新店舗が開店した。本好きで結構たくさん本を買っていた私にとって、常に5%割引できる文教堂の優待カードは、当時5%だった消費税分をカバーしてくれた。


 少なくとも、株主優待については株を買って損したことにはならないだろう。そう私は自分を慰めた。


 その直後、私は結婚した。新生活の中で子供が3人産まれ、育てて行く生活の中で、私は株のことなどすっかり忘れ果てていた。

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