20話 名もなき月

今宵の月を

君も観ているだろうか

あんなに輝いてみえるのは

秋が訪れたせいなのだろう


こうなることは覚悟していたこと。

君が全てを打ち明けてくれた、紫陽花が綺麗に咲いていた雨の日に。

こころを決められなかったのは、自分なりの終止符を打っておきたかったんだ。

愛する人を失った悪夢のようなあの夏に。


君への決意を、盤石なものにする為……


すまない、

これは言い訳だね。


♢ ♢ ♢


連絡できずに

ごめんなさい


転勤が決まりました

凄く遠いところです

……一緒に行きます


どうか思い出を下さい

あなたとの最後の夜の


♢ ♢ ♢


今まで君は、愛を忘れてしまったぼくに、代償を払ってまでも寄り添ってくれていた。


『我が儘にはなりたくないと思いながら、わがままでいたいなんて矛盾を抱えているの』


知らずと君の、あの日のことばが鼓膜に響く。


あぁ、わかっている……

いくら後悔しても今更叶わぬことは。


最後に、

ふたりだけの思い出をつくろう。

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