21話 月の雫

『一生忘れないよ』


嬉しそうに君が微笑むものだから、喜ばせようとしたぼくの方がなんだか嬉しくなった。


月に照らされた頬をさくら色に染めて、宇宙そらを見上げる君には、この時間も全て無かったかのように、夜に呑み込まれると分かっているのだろうか。


想いに想いを重ねることができるのだから、


ぼくは人間って素敵だねと思うのだけれど、


それは捉え方次第で、


憎しみに憎しみを重ねることもできるから、


人は醜いなとも思う。


一生忘れないよに、厳しい顔を重ねられていたらきっと、悲しくなってしまったんだろうな。



『風が止んだね。ほら見て、海に映るお月さまがあんなに綺麗』


揺れる髪を押さえていた手を離し、指さすその先には、中秋の名月が水面にゆらゆらと浮かんでいた。


『掬えたら、いいのにね』


真っ直ぐ伸ばした君の手が、虚しくあえぐ。


「一緒にやってみようか」


『ごめんね』


精いっぱい差し出した君の手のひらに、ぼくの掌をそっと添える。

掬える筈もない揺蕩う月が、やけに遠くに感じた。


『ごめんなさいね』


繰り返し君が言う。


『なかったことにしては、いけないから』


押さえきれない感情が、大粒の涙となって君の頬を伝った。


悪いのはぼくの方なのに。



「ありがとう」


辛うじてぼくはこぼれ落ちてしまう前に、

指先で掬うことができた。


その雫は、

桜の花弁のように儚く、可憐だった。


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