3.制裁敢行

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〈これより反CASTLE特定危険思想集団・再生可能エネルギー振興委員会への武力制裁行為を行う。CES所属の傭兵は、情報軍インフォメーションズの支援の下、ハルバード地区に存在する当該集団の最大拠点を強襲。全敵勢力の無力化および捕縛を以て任務完了とする。

 当該集団は、アルテリア地区の土砂災害をはじめとした複数の事件・事故へ関与している。これ以上の活動を容認した場合、レイヤードネストの存続に関わる問題へと発展する。

 危険の芽を摘み取っておくことは、この複合都市への何よりの奉仕となる。所属傭兵の諸君には、持てるすべての力を以て奮戦してもらいたい。

 CASTLEの意向としては、働きぶりによっては、最高額の賞金を懸けるとのことだ。

 この任務に失敗は許されない。奴らによって愛する者を奪われた、全ての市民の怒りを代弁し、任務を遂行してもらいたい。

 良い結果を期待している〉


 コクピットの膝元にあるサブ・ディスプレイから長い依頼文テキストを閉じる。ハルバード地区へ向かうトレーラーの荷台で揺られつつ、俺は愛機ニールセンの最終チェックに勤しんでいる。

 タッチ式コンソールを操作し、機体構成パーツの一覧を表示。新調した腕部パーツAA-68VBの文字が輝く。両手に射撃兵装を装備することを考慮し、反動抑制機能リコイル・コントロールに秀でたアルヴァス・インダストリアル製のパーツを選択した。

 続いて兵装の確認。右腕には25ミリ携行機関砲チェイン・ガン・SCM-25、通称蜥蜴殺しリザードキラー。左腕にはレーザー照射装置・月光ムーン・ライトの代わりに、55ミリ携行速射砲ラピッド・ガン・ARM-55。こちらには制圧戦闘用に、40本のタングステン製ダーツをばら撒くフレシェット砲弾を装填している。人間用の小火器で言えば、散弾銃に近い。

 背面兵装バインダーには、左腕用の予備兵装として、小型の20ミリ携行機関砲チェイン・ガン・ACM-20A1を格納している。

 高火力での制圧に主眼を置いたアセンブルとしては、いわば最大公約数的な選択と言えた。しかし脚部の最大積載量に近いため、今までより動きが鈍くなることも事実だった。これ以降は、より積載量の多い脚部パーツを検討するとしよう。

〈よう、アルテリアの英雄さん〉

 右前方をトレーラーで移動する、緑色の四脚ウォーカーブレードから通信が入る。彼は〈マティス〉という通り名で、俺と同じくCESに雇用された傭兵だ。

 彼の愛機は二次元機動性を重視した中量級四脚で、携行機関砲と遠心力で爆雷をばら撒く特殊兵器を装備している。

〈今日はよろしくな。俺たちは突入班だ。現地でもう一人、杭打ち器パイル・ストライカ使いが待ってる〉

「ああ、こちらこそよろしく。頼りにしてるぞ」

〈それはこっちのセリフだ。新調した装備でガンガン斬り込んで行ってくれよ〉

 二台のトラックが、CES情報軍によって制圧されたハルバード地区の境界検問所を通過する。


〈キャリアロック解除。いけるわ〉

 エディの指示通りに、機体を直立させて地面に降りる。荒野が広がるハルバード地区に入り、十数分後。突入班の集合ポイントへ、マティスと共に到着した。

「了解。作戦前線指揮所コマンドポスト、こちら突入班の白井だ。目標地点に到達」

〈同じく突入班のマティスだ。あと一人、役者が足りんような気がするが?〉

〈こちらコマンドポスト。〈ランスグロウラー〉の到着に遅れが生じている。作戦決行時刻になったら、二人だけでも突入しろ〉

〈マジですかい?奴らの本拠地は、半分以上が地下の閉鎖空間ですぜ。あいつが居ないと、前衛ポイントマン不在も同然ですがね〉

「仕方ない。俺たちだけでも行くしかない。残る一人の到着予定時刻は」

〈開始時刻の5分後だ......いや、しばし待て〉

〈どうした〉

〈本人から緊急通達だ。ヘリでの輸送に切り替える、とのこと。開始時刻丁度に到着予定〉

〈そいつぁいいや。輸送費は馬鹿にならないだろうけどな〉

「まったくだ」

 ウォーカーブレードの空輸手段は限られており、専門業者の利用料金も相当高額になる。CESの雇用対象者といえど、簡単に決断できたものではない。


 双発の大型輸送ヘリが、俺たちの上でホバリング状態に移行する。その開放型のキャビンには、灰色の軽量型機体・ランスグロウラーが吊るされていた。

〈こちらランサー・フォール。目標地点に到達〉

 ランスグロウラーの背部ロックが解放され、機体が投下される。それは左腕に大型の杭打ち器パイル・ストライカを装備しており、右腕はEMPグレネードを投擲するためのアダプターが取り付けられている。

〈遅いぜ、ミスター!〉

〈すまない。コマンドポスト、これより作戦を開始する〉

〈了解。振興委員会への制裁作戦を開始せよ〉

 CES情報軍インフォメーションズにより、再生可能エネルギー振興委員会の本拠地へと通じる地下ゲートが開放される。

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