第10話 ○○日記


※Twitterタグにて


「はは、そんなに怖がることないじゃないですか」


という台詞をいただいて書いた話です。



委員会の活動で、弓守満寛ゆみもりみちひろは放課後の図書室にいる。

後三十分ほどで閉館。室内は無人で、本を読んでいた時。カタン、と物音がした。奥の本棚の方。

(本が落ちたか)

目をやれば、本棚と本棚の間の通路へ、す、と人影が入って行く。

「あ?」

誰かいたのか。満寛がいるカウンターは、一つしか無い出入り口の脇にある。誰かが来れば分かる。

読みかけの本を置き、満寛は本棚へ向かう。見回っても、誰もいない。音がした場所には、一冊の本が落ちていた。

「『死因日記』?」

ボロボロの赤い本の表紙には、黒い字でそう書かれている。満寛はその場でページを開く。

「『一九✕✕年○月✕日 三年二組の時和遥ときわはるかさんが亡くなります。死因は転落死です。図書室のベランダから転落してしまいました。

一九✕✕年○月△日 一年一組の○○さんが亡くなります。死因は溺死です。プールで溺れてしまいました』何だこれ……」

本文はもう読めず、満寛はパラパラとページを捲る。最後の方へ近付くと、日付が最近のものになってきたが、中身を確かめることは出来ない。本を閉じる。

「読まないの?」

耳元で囁く声がした。驚いて本を落としてしまう。顔を上げると、隣の通路へと何かの影が消える。

(やっぱり誰かいるのか)

本を拾うと、開いたページが目に飛び込んで来た。

『二〇✕✕年○月○日 一年二組の日田技宗也ひたぎそうやさんが亡くなります。死因は転落死です。図書室のベランダから転落してしまいました。』

満寛は絶句した。○月○日は今日。人影のことを忘れ、ベランダを見た。誰もいない。

「何だよ、この本」

もう一度通路を見回るが、やはり誰の姿も無い。本を棚に戻すのも憚られ、持ってカウンターに戻る。読書を再開する気にもなれず立ち尽くしていると、ドアが開いた。友人の日田技宗也が入って来る。

「そろそろ終わりでしょ?どうしたの、顔青いよ」

宗也は言いながら、目ざとく満寛の持つ日記を見つける。

「それ、どうしたの?」

「落ちてた。変な日記」

宗也は日記をじっと見ながら、何か考えるように首を傾げる。

「借りて良い?」

「ああ」

宗也は日記を受け取ると、最初と最後のページを見る。そのまま制服のポケットからペンを取り出し、表紙にでかでかと自分の名前を書く。

「宗也?」

宗也はそのままベランダに出る。満寛も追う。柵に近付く宗也の肩を、満寛は思わず掴んだ。振り向いた宗也は、柔らかく笑う。

「大丈夫」

言い終えて、宗也は下を確認して誰もいないことを確認すると、日記を叩きつけるように投げた。

「おい、」

二人が見ているうちに、日記は空中で消えた。

しばらく空を見たあと、宗也が頭を上げ満寛を促して室内へ戻る。

「あーあ。気付かれちゃいましたね」

本棚の前に、焦茶色の制服に灰色のズボンを着た男子生徒がいる。

ぎょっとする満寛に、彼はへらりと笑う。

「はは、そんなに怖がることないじゃないですか。さっき追いかけっこした仲でしょう?弓守満寛さんにすれば良かったかな。日田技さんは意外と切れ者でしたね」

少しばかり、宗也が満寛の前に出る。まるで守るように。

「それは遠慮してください、時和ときわ先輩。今後も」

宗也と男子生徒・時和の視線がぶつかる。折れたのは、彼の方だった。

「残念。またね」

時和は、本棚の通路の方へと歩き去る。満寛が追った時には、誰もいなくなっていた。

「昔って、あんな色の制服だったんだね」

宗也が、ぽつりと呟いた。

「紺色と黒で良かったな、今」

気が抜けて、満寛はそれだけを返したのだ。














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